
イオンモールの非財務指標の策定と財務との結びつきを可視化するプロジェクトがスムーズに進んだ1つ目のポイントは、すでにイオンモール内でサステナビリティにつながるような全社的な意識の醸成が進んでいたことだ。
「20年には若手社員が参画するマテリアリティ策定プロジェクト、翌21年にはstudio LIFE DESIGNという変革推進プロジェクトを立ち上げ、これが2030年ビジョンにつながっていきました。22年からはハートフル・サステナブル企画と称して、各モールが地域ごとの課題を掘り起こし、解決に向けた取り組みを企画・実施。24年には地域共創の取り組みをボトムアップで体系的に整理し、マテリアリティの再特定を行っています。サステナビリティに抵抗感なく取り組めているのは、このような素地があったことも要因だと思います」(大野氏)
イオンモールでは20年のマテリアリティ策定以降、サステナビリティに資する取り組みを継続している。これにより全社的な意識の醸成が進み、非財務指標の策定や財務とのつながりの可視化プロジェクトへと続いている
屋敷氏も「プロジェクトを通して、イオンモールの様々なポジションの方と議論させていただきましたが、どなたと話しても『地域や社会を良くしていく』ことがイオンモールにとっての成長にもつながるのだという意識が共通しており、どうすればもっと良くなるかといった前向きな意見が多かったのが印象的でした」と証言する。
2つ目のポイントは、以前からの関係構築だ。
PwCコンサルティングはイオングループのグリーン戦略を支援してきたことで、グループの概要や方向性の理解を深めていた。
「イオングループの中でも、イオンモールはとくにサステナビリティへの取り組みが熱心だったので、今回のプロジェクトを通じ、サステナビリティへの取り組みと企業経営とのつながりをより明らかに説明ができるようになったと思います。
とくに、非財務のような、部署横断で全社的に取り組まれている内容に関する検討では、様々な部署の方と何度もディスカッションを重ねながらお互いの理解度を深めていくアプローチを取ります。これは、例えばサステナビリティに関係する部署のみがトップダウンで指標や戦略を策定しても、実効性のないものになってしまい、現場での活用が難しくなると考えるためです。目に見えにくい『非財務』だからこそ、なるべく多くの方の意見を取り入れながら腹落ち感を醸成していくことが重要です。
イオンモールとは数年間にわたり、そうした密なコミュニケーションを取らせていただいたことで、イオンモールの至る所で行われている取り組み、現場のメンバーの思い、経営層の意思などを理解しながらプロジェクトを進めることができました。こういったアプローチを取らせていただいたことも、関係性構築に寄与していると考えています」(屋敷氏)
非財務と財務の結びつきを可視化する今回のプロジェクトは、実際に各モールで取り組んでいるスタッフの背中を押す役割も果たしている。
「それぞれのモールにおいては、日々行うべき業務がありますし、短期的な売り上げ目標にも目を配る必要がある中で、こうした非財務の取り組みは負担になりかねません。けれども、非財務指標として可視化されることで意義の理解にもつながりましたし、イオンモールが地域になくてはならない存在だというやりがいにもなっていると感じます。
前述の通り、モールの取り組みが地域ごとに違うため、今後はDXを活用して一元管理できる仕組みを作りたいと考えています。また、非財務の取り組みの業績が現時点で人事評価として数値化できていないので、社員のモチベーションを高めるためにも整備したいと思います」(大野氏)
「非財務の取り組みは、将来財務につながるものとして位置づけているので、ボランティア活動とは異なります。各自の行動がどの程度の財務業績につながったのかをマネジメントが評価できるよう、ご支援できればと思います」(屋敷氏)
大野氏と屋敷氏の言葉からも分かるように、非財務指標を策定したことがゴールではない。イオンモールのサステナビリティ経営の取り組みは、「地域共創業へ。」の長期ビジョンで目安とされた30年以降も続いていく。同社はこの可視化プロジェクトの先に何を見据えているのか。
「最終的には、財務か非財務かを意識しなくても、自然と非財務の活動に取り組めている状況を目指したい。そのためにも中長期的な目線で成長を描く経営戦略と、実際に実行に移していく現場の動きが一体になることが理想です。また、イオングループ全体へと視点を広げると、金融や保険、アミューズメントなど、様々な連携でもっと地域に貢献できると考えています。さらに、イオンモールは海外にも展開していますが、地域や社会の抱える課題は、環境問題や食料不足など、日本以上に身近で深刻です。国内での取り組みを海外へと広げていくにあたっては、PwCコンサルティングのグローバルな知見でのご支援を期待しています」(大野氏)
「成果として捉えにくい非財務の取り組みを可視化し、非財務と財務のつながりを1本のストーリーとして語れるようになると、社員の行動変容は自然と促されます。地域に密着したモール運営をサステナビリティ戦略に結びつけたイオンモールの事例は、SX推進の大きなヒントになるのではないでしょうか」(屋敷氏)