Data Analytics & AI Transformation
生成AIは万能ではない。だからこそ早く試す意味がある

東京電力パワーグリッドの生成AIプロジェクトが
PoC成功率9割を達成できた理由

膨大なドキュメントを生成AIで即時検索
実施したPoCの9割が本番業務に実装予定

――生成AIプロジェクトのスケジュールとPoCを実施したユースケースについて教えてください。

富岡 生成AI利用環境の開発は23年度の後期からスタートし、まずは生成AIの活用用途や活用効果の見極めを行うため、24年の2月に一部の社員に限定し汎用型の生成AIを先行して導入しました。これはいわゆるチャット型の生成AIで、業務で扱う文章の生成や、アイデアの壁打ち相手などに使えるものです。こちらは一定の効果が見込まれたことから、24年9月に全社員へ展開をしております。

 一方の業務特化型の生成AIは、各業務部門との対話を通じて課題抽出したもののうち、10件のケースについて順次PoCを進めました。

 具体的な例を挙げると、点検業務等におけるマニュアルやドキュメントの検索をサポートする生成AIを開発しました。現場の設備点検を担当する社員は、マニュアルや過去の点検資料等から必要な情報を調べますが、業務ごとに存在するマニュアルは1冊100ページ以上になるものもあり、情報を探すだけでもかなりの労力を要します。さらに、欲しい情報に関連するドキュメントが他にも多数存在し、複数の業務を抱えている社員がそのすべてを読み込み、理解して業務に当たるのは非常に大変です。また、人事異動で担当業務が変わった場合などは、新たなマニュアルを把握しなければなりません。こうした点を効率化すべく、マニュアルやドキュメントを生成AIを使って検索できる仕組みを構築し、例えば「●●設備の点検周期を教えて」と聞くと、「この設備の定期点検は5年に1回です」といったように、求めている回答を即座に生成AIから得られるようになりました。

 また、法令が改正された際に、それが当社の業務マニュアルのどの部分に影響するかを特定する生成AIツールの開発を進めています。改正された法令情報を読み込ませると、社内にある多数のマニュアルから法改正の影響を受けるものをリストアップしてくれるようにする仕組みです。生成AIによって改正法令に関連する業務マニュアルの影響範囲を100%の精度で割り出すことはできませんが、作業時間は大幅に削減できる見通しであり、生成AI活用の効果が大きいユースケースだと考えています。

――開発ではどのようなご苦労がありましたか。

富岡 先ほどマニュアルやドキュメントの検索を例に挙げましたが、社内で各業務部門が扱っているドキュメントは多種多様で、ファイル形式が異なるだけでなく、図やイメージを読み込ませたいといった、現行の生成AIでは少しハードルが高いニーズが一定数ありました。

 また、生成AIは機械なのだから回答の精度は100%なのでは、というような声もありました。生成AIでできることや生成AIの限界を理解してもらうとともに、生成AIの回答が正しいかどうかを判断できるように、生成AIが参照したドキュメントを可視化する仕組みを取り入れるなどの工夫を凝らし、安心して使用してもらえるよう努めました。

生成AIを用いた業務の高度化プロジェクトの全体像

東電PGの生成AIプロジェクトの全体図。プロジェクトの進行にあたり、PwCコンサルティングは戦略立案から課題とユースケースの選定、環境構築やPoCまで一貫して支援にあたった

生成AIの限界を理解し、できることから改善を進める

青木 東電PGではDSGの皆様が丁寧に現場の方々に説明をされたので、生成AIの精度に対する現場の理解が早かったと感じています。私たちも、生成AIは万能ツールではないことを理解していただくため、今できることとできないことは最初にお伝えするようにしました。その上で、例えばAIが対応しきれない使い方を要望された時は、現時点で対応可能な範囲を現場の方と調整の上、ユースケースを設定するなどして、確実に成果につながるよう進行していきました。

 生成AIの特徴を事前に理解していただけたので、実際にツールを操作したときに、「ここまではできる」「ここからはできない」といった具合に、生成AIが導く結果に納得してもらえます。そして、さらに精度を上げるにはどうすればいいかといった、生成AIのより効果的な活用に向けた議論もなされるようになっています。AIの正確性が100%でないことを不満に思うのではなく、現時点でもできることを前向きに捉えてもらうことが、プロジェクトを成功させる上で重要であり、東電PGのケースではそれが非常にうまく進みました。

三善 多くの日本企業では、生成AIに対して厳しい評価をする傾向があります。100点を求めて結果が99点では許されないという企業が少なくありません。それに対して東電PGは、伝統的な企業でありながらも、生成AIが現時点でできることを理解した上で、積極的かつ柔軟に取り組んだことがプロジェクトの成功要因の一つだと感じました。この先進テクノロジーに対する姿勢の違いは、将来の競争力に大きな差を生むことになると考えています。

――生成AIプロジェクトでは、ここまでどのような成果が出ていますか。

大福 汎用型生成AIは、25年1月時点で全社員の40%ほどが利用しています。生成AIを活用した結果についてアンケートを採ったところ、利用者は平均して1日0.5時間程度の業務効率化を実感しています。まだ全社員へ利用展開をしてから4カ月程度しかたっておらず、かつ利用者数も4割ですから、今後利用者が増え利用頻度も高まり、生成AIの利用スキルも向上すれば、さらなる業務効率化が実現すると見込んでいます。

――一方の業務特化型は、実施したPoCの9割が実業務に適用する段階に進むそうですが、これほどにPoCが成功できた理由は何でしょうか。

富岡 生成AIは日進月歩で進化していますが、技術的な部分で背伸びをせず、シンプルかつ生成AI活用による効果が大きい案件に取り組んだことが大きな要因だと思います。これは、PwCコンサルティングと併走し、各業務部門と丁寧に対話を重ねて行った課題抽出の結果です。加えて、各業務部門担当者の、生成AI活用による効率化効果が2割、3割であっても、少しでも仕事が楽になるならやってみようという前向きで積極的なマインドが、取り組みを支えたと思います。

青木 私が今回のプロジェクトに携わって感じたのは、東電PG全体の組織構造や業務変革カルチャーが秀でているということです。DSGという、データや生成AI活用による業務改善に専任で当たる組織があることは大きな強みです。PoCについても、DSGによる現場との多岐にわたるコミュニケーションがあったからこそ、この結果につながったのだと思います。生成AI活用を含めたデジタル化が停滞している企業は、東電PGのように生成AI推進組織を明確に設定すること、加えて、現場の業務部門にその推進組織との橋渡し役となる担当者を配置すること。この2点に取り組んでいただくことを推奨します。

三善 DX推進が進まないとお悩みの企業によくあるケースの一つに、デジタル化推進組織と事業部の連携・コミュニケーションが希薄であることが挙げられます。そのため、事業部のやりたいことをデジタル化推進組織がくみ取れなかったり、テクノロジーを効果的に活用したユースケースが事業部側からあまり出なかったりというのはよくある話です。その点東電PGは、経営層の強いリーダーシップに加えその活動を後押しするDSGの推進力もあり、三位一体で取り組めた点が、本プロジェクトが成功した大きな要因であると思います。

――生成AIプロジェクトの今後の展望を教えてください。

大福 25年度は、PoCで成功した事例を他の業務部門に横展開することと、より高度な生成AIの活用に注力したいと考えています。チャレンジしたいこととしては、昨今話題となっている「AIエージェント」の検証です。人間と生成AIが一連の業務をシームレスに行える世界を目指したいと考えています。PwCコンサルティングには、今後もパートナーとして、生成AIの最新動向を見据えた業務改善の支援をお願いしたいと思います。

三善 繰り返しのようですが、生成AI活用の一番の障壁となっているのは組織・人財・カルチャーの課題です。また、「生成AI」というとその導入を目的としてしまう企業が少なくありませんが、実際には生成AI活用は“目的”ではなくあくまで企業の業務変革の一助となる“手段”の一つです。

 なので、生成AI活用以前に組織カルチャーの変革が重要で、生成AIのような先進技術に対してポジティブなマインドや行動力を発揮できる人財を据えて推進していく必要があります。さらに、昨今の生成AIの進化は非常に速く、ビジネスの現場でも素早い導入が進んでいます。そのスピード感にいかにキャッチアップしサイクルを回していけるかもカギとなるでしょう。今回のプロジェクトにおける東電PGの組織全体での取り組みを通してそれらの重要性を再確認しました。

 当社はテクノロジーに精通したAIコンサルタントを多数抱えており、戦略提案から開発、実装、運用までワンストップでご支援するケイパビリティを備えています。これからもコンサルティング能力と技術力を磨き、クライアントの変革を後押しできればと思っています。

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