日本のメディアミックスによる経済波及効果は
国内限定でも6.5兆円にのぼる
まず、メディアミックスとは、1つの原作(IP)からテレビ番組、映画、ゲーム、漫画などの関連商品を多角的かつ同時多発的に展開し、相乗効果をもたらす手法を指す。
ポイントとなるのは、日本のメディア産業が戦略的にメディアミックスを推進してきたというより、自然発生的に日本に定着してきたということだ。
その背景にあるのは、日本の文化的な要素である。日本ならではの許容度の高い文化に加え、「読者などのオーディエンスとクリエイターの関係性が近く、その関係性をサポートする立場として企業がコミットするような文化は、メディアミックスの広がりに大きく影響している」と森氏は分析する。
例えば、新商品を売り出す際に、アニメのキャラクターとコラボレーションするようなキャンペーンはテレビアニメが登場した黎明期から行われてきた。
メディアミックスによる経済波及効果
メディアミックスの定着には、投資回収を見込みやすい、投資額を小規模に抑えることが可能といった懐事情も大きく関与しているものの、「原作の生み出し得る経済的価値や投資回収のシナリオを可視化することができれば、コンテンツ産業以外にも資金の出し手となるプレイヤーの広がりをつくれ、海外市場を含めた大規模なマーケティングも実施しやすくなり、チャンスの拡大が見込めます」と片岡氏は言う。
2024年のStrategy&発行のレポート「メディアミックスのパワーと可能性」※では、マクロ視点とミクロ視点の両方で、日本のメディアミックスによる経済波及効果の算定を行っている。
マクロ視点はコンテンツが他産業に与える経済波及効果を指す。「当時最新であった2015年の産業連関表を使用して分析したため、VOD等の新しい産業のデータは含められませんでしたが、それでも日本のメディアミックスの経済波及効果は国内限定でも6.5兆円にのぼります」と片岡氏。
メディアミックスによる展開で認知度が向上すれば、原作そのものの売り上げも拡大しやすい。
ミクロ視点によるメディアミックス方式による1つの原作の経済波及効果の測定では、国内外で高い人気を誇る「ドラゴンボール」は7.95倍、「ソードアート・オンライン」は3.97倍、「進撃の巨人」は2.50倍と試算されている。
※参考文献:Strategy&「メディアミックスのパワーと可能性」
また、日本のメディアミックスの特徴として、企業間のアライアンスや共同でコンテンツを盛り上げる体制があり、各事業者のリスクが少ないことが挙げられる。
「大規模な予算を組み、宣伝活動を展開するようなハリウッドスタイルと異なり、日本では参加企業がリスクをヘッジしながら共通の知的財産を育てる仕組みが根付いています」と森氏。
加えて、コンテンツ制作という初期の段階においても、クリエイターを発掘し巨額の投資をする米国などと対照的で、日本は、少ないリソースの中で多様な媒体や個人を巻き込み、ボトムアップで創造性を刺激する仕組みが強みとなってきた背景がある。さらに近年では、SNSの普及により作る側と消費する側の関係性が変化し、ファン同士がつながりを強め発言力を持つようになったことで、ボトムアップの新たな動きが世界的に生まれている。
「海外のメジャーブランドの世界でも、一度人気が衰退したブランドに対して、日本のようにファンがボトムアップでブランドやコンテンツの盛り上げに参加するなどの現象も起きています」(森氏)
海外に通用する「メディアミックス」の
モデル・ルール作りが求められている
いわば“世界の日本化”のような現象が消費者に近い場では起こりつつあるが、こと事業者からの視点で見ると、欧米などでは、「映画は映画」「ゲームはゲーム」と産業区分ごとに独立して運営されるのがセオリーであり、コンテンツ単位での経済圏や生態系の形成は想定されていない。著作権の考え方も異なり、ライセンスホルダーが権利や権限において圧倒的に強いビジネス環境でもある。
ビジネス慣習が大きく異なる海外市場で、日本式のメディアミックスを展開し市場規模を拡大していくためには、「日本で当たり前のように推進されてきたビジネスモデルの価値や構造を分解し、言語化し、ルールに落とし込む必要があります」と森氏は指摘する。
例えば、PwCコンサルティングではコンテンツの生態系モデルとして、「5Cモデル」を提唱する。
日本においては、コンテンツに投資し(Capital・資本)、コンテンツを創り(Creator・創作)、配信(Channel ・配給)を通じて、生活者がファンとなり関連グッズなどを購入・所有し(Commerce)、イベントへの参加やSNS上での交流といった体験(Community)として消費され、その経済活動が生み出す利益とロイヤリティが新たなコンテンツの創出へとつながるという循環が複数企業の有機的な連携によって実現してきた。
コンテンツの生態系モデル
米国はビッグITや金融で世界を制覇したが、日本はコンテンツの力でアライアンスを組むなどソフトパワーにおいて優位性を擁す。だからこそ、「コンテンツ産業に限らず様々な企業・プレイヤーを巻き込むための説得力のあるモデルとストーリーを提示することが肝要です」と片岡氏は言う。
「正解のない世界」で求められる
専門家との対話と総合力の価値
今、世界の変化のスピードはあまりにも速く、課題は経済、環境、安全保障など様々な分野にまたがり複雑化が進んでいる。
2025年6月現在、世界的にその影響が懸念されている米国の関税政策は、グッズなどの物財の海外取引に影響を与える可能性が高い。「大規模に作ったものを輸出するという製造業的な考え方から脱却し、ローカルのファンの熱量を生かして現地でクイックにモノを作り流通させるなど、全く新しい考え方でビジネスにイノベーションを起こす必要がある」と森氏は指摘する。
加えて、日進月歩で進化している生成AIについては、「コンテンツの記号化を進め、一部の漫画家やアニメーターには脅威となるリスクがあります」と片岡氏。一方で、人手不足の解消やコスト削減などによる生産性向上、自動化が進むことにより、本来クリエイターが集中するべき新たな創造性の発揮につながる可能性などのメリットも挙げる。
コンテンツ産業においては、その肝となるコンテンツの創造に注力すべき中、自社内のリソースだけで、様々な外部環境変化に応じたビジネス戦略を即座に構築するハードルは相当高いものであるとも言えるだろう。
そこでPwCコンサルティングの強みとなるのが、PwC Intelligenceというシンクタンク、そしてPwC Japanグループとして会計監査、税制、リーガル、マクロ経済分析など広範囲に及ぶリソース、知見を擁する総合力だ。
片岡氏は「PwC Intelligenceはクライアントが抱える課題が多様化している状況下で、中長期的に変化を捉え、未来を見通すための羅針盤になるべく2022年10月に発足しました」とし、「正解がない世界にあっては、対話によって正解を模索していくプロセスが欠かせません」と話す。
森氏も、リブート版の実現に向けて、「日本で曖昧模糊としていたコンテンツ制作やその波及の仕組みを再構築する、つまり、他の場所に行ってばらして、その地のローカルの資材で一緒に組み立てていくという、現地のビジネス環境や法律への深い理解が必要な、難易度の高い取り組みが必要となります」と言う。加えて、新規参入企業を含めた複数の組織や政府の支援など、マクロな視点に基づくブランドマップの構築、橋渡し役を担い、「日本のコンテンツ産業のさらなる拡大の一助になっていきたいと考えています」と力を込める。
最後に、自身も日本のアニメや漫画のファンだという片岡氏は、「日本には、コンテンツ産業として、過去から蓄積してきた良質なコンテンツや人材など、他国にはない、面白いものを作れる土壌があると思っています。これからは世界の多様な人たちを巻き込み、分断ではなくコミットする形で、各々が得意とするサービス分野で利益を生み出し、三方良しとなるような道をつくっていく。これは西洋的な価値観とアジア的な価値観の両方とも併せ持っている、ハイブリッドの日本がやらなければいけない。そんなふうにも考えています」と語る。
日本の強みであるコンテンツによるソフトパワーをさらに増幅させ、いかに多くの業界を巻き込み、ビジネスにつなげることを前向きに考えるか。
プロの手を借りながら、中長期的な目線で市場を分析し、コンテンツ産業の未来像を展望し、新たなビジネスモデル構築の可能性を模索したい。
