アニメ関連グッズなどの商品化ビジネスを指す「Commerce」の領域は、我々の提唱するコンテンツの生態系モデルの中で、海外売上を伸ばすための肝となる。このCommerceの仕組みと課題、および海外売上を成長させるための大きな構想をお示ししたい。
海外においては、Z世代を中心とした確かなアニメの「需要」がある。その需要はアニメそのものにとどまらず、関連商品の「Commerce」にも拡大する可能性が大いにあると言える。一方で、その「需要」に応えるだけの十分な商品の「供給」が海外に対して行われているのだろうか。書籍『世界で勝つエンタメビジネス ~異業種連携で広げるIP活用戦略~』で試算結果を示したように、海外ではトイ・ホビー領域のIP関連グッズに関して1次流通・2次流通ともにすでに数兆円の市場が形成されているが、供給を増やすことでその規模をさらに拡大できる余地が大いにあるのではないだろうか。
現状では、一部の商品カテゴリーを除いて、まだまだ供給が十分ではないというのが実態である。「満たされない需要」として存在するグッズ関連市場の領域には大きな商機があるのだ。
上記の数字をもう少し解像度を上げて紹介する。図表2は、北米の商品化ビジネスの市場を商品の種類ごとに細かく分類したものである。同じ商品化ビジネスと言っても、展開される商品にはトイ・ホビー、アパレル、雑貨など様々な種類が存在する。この商品の種類のことを「商品カテゴリー」と呼ぶ。
商品カテゴリーごとの商品化ビジネスの市場規模と、その中における日本コンテンツIP由来の商品が占めるシェアを見ると、商品カテゴリーごとに浸透度の高低が存在することが分かる。日本コンテンツIPの浸透度(シェア)が高いカテゴリーとしては、「トイ・ホビー」がある。逆に、シェアが低いカテゴリーとしては「雑貨」「アパレル」などが存在している。日本コンテンツIP由来の商品は、「トイ・ホビー」に大きく偏っているのだ。
この偏りの理由はいくつか存在するが、日本を代表する大手トイ・ホビーメーカーの存在が大きい。彼らは長い年月をかけて海外展開を試み、商品の製造・流通網を含めたサプライチェーンを一定程度築いてきた。彼らの地道な努力が、今の流通状況を反映しているのである。
一方で、「アパレル」については、上記の「トイ・ホビー」カテゴリーと異なり、日本を代表するアパレル企業(ライセンシー・メーカー)が日本コンテンツIP商品を積極的に海外展開してきた形跡が存在しない。国内では一般的になっているキャラクター関連のアパレルであるが、実は、海外では日本に比べるとはるかに少量しか流通していないのである。
また「雑貨」というのは、実は日本固有の概念であり、北米を含めた海外には存在しない。「雑貨」カテゴリーの中には、お洒落なバッグや小物、文房具などの「生活雑貨」もあるし、化粧品・ポーチなどの「美容雑貨」、あるいは家の中で生活するための小物である「日常雑貨」も存在する。日本の「雑貨」が特別なのは、子ども向けのものから、高いデザイン力とクリエイティブに基づき、大人が身に着けても恥ずかしくないようなジャンルのものまで、実に幅広いターゲットに向けたバラエティーあふれる商品が存在している点である。この「雑貨」というコンセプトは、海外ではそのまま「ZAKKA」という表記で呼ばれており、海外エンタメ企業の経営幹部が、日本の進んだベストプラクティスを学びに来日することも多い。世界最先端のトレンドを行く日本の「ZAKKA」が、国内で閉じられてしまっていることはなんとももったいない状況である。
こうした供給・流通の課題は、経済的な機会損失を生むだけではない。読者の中には、海外で現地の人が日本のキャラクターグッズやTシャツを身に着けている光景を見たことがある方もいるだろう。時折見られるこれらのアイテムは、実は正規のライセンスを受けていない非正規品であることも多い。こうした商品は、コピーした絵柄をそのまま生地にプリントしただけのような粗悪品も多く、日本IPのブランドの毀損にもつながっている。正規品が流通していないという状況は、こうした2次被害の拡大に拍車をかけている側面も否めず、深刻な課題と認識すべきである。
また、様々な商品カテゴリーがある中でユーザーが求めているのは、自身の「推し」のコンテンツIPである。生活に寄り添う形で、朝起きて顔を洗う際に使うタオルから、ご飯を食べる際のお箸やスプーン、そしてお出かけする際のシャツや靴下、家のカーテンまで、「推し」のキャラクターやアーティストが近くにいてほしい、「推し」コンテンツに囲まれて生活したい、という心情である。ユーザーは、1つの店舗に行ったときの体験として、好きなキャラクター、推しのアーティストの「ありとあらゆる」商品カテゴリーを求める。かわいいぬいぐるみ(トイ)から、高価格のフィギュア(ホビー)、はたまた、缶バッジやアクリルスタンド(雑貨)、そして今度のフェスで友人とおそろいで着ていく限定デザインのTシャツ(アパレル)まで購入する。それは「商品カテゴリー横断」な消費行動である。つまり、ユーザーのライフスタイルに寄り添った形で、商品カテゴリーを横断する形で、「ありとあらゆる」商品を提供することが求められるわけである。
ユーザーから強く求められているのは「商品カテゴリー横断」の商品供給であり、それは単なる小売店という枠組みを超えて、好きなキャラクターのありとあらゆる商品が手に入るという「世界観を体験できる場」である。
ところが、海外、とくに北米では、商品カテゴリーごとに流通・小売りが分断されているという大きな課題が存在する。「トイ」に関しては、大手のトイメーカーと大手の小売チェーンが商流を事実上独占しており、両社間の直接取引にてビジネスが完結している。そこには中小のメーカーや小売事業者、中間流通業者の入り込む余地は少なく、結果的に、大手の小売チェーンの棚には、同じメーカーのぬいぐるみや人形がずらりと大量に並んでいる。
「低価格帯ホビー」は、ホビーメーカーとポップカルチャー系の小売チェーンが中心となってバリューチェーンを構成している。ポップカルチャー系の小売チェーンには、アパレルや音楽を中心とした若者に人気の高い多種多様な商品が並べられ、その中の一つとして、デフォルメされたキャラクターのホビーが取り入れられている。彼らは様々な商品を仕入れるために、中間流通業者を経由し、日本からの輸入品を取り扱うこともある。しかしながら、雑多で多様な商品が取り扱われているため、特定の作品の世界観に浸れるという感覚からは程遠い。
「高価格帯ホビー」に関しては大きく様相が異なり、そのほとんどは海外(日本)から中間流通業者を経由して輸入してきた商品である。こうした商品を取り扱うのは地域ごとに存在する小規模なマニア向けショップ(もしくは専門のECサイト)であり、チェーン店の棚に並ぶことはほぼないと言ってよい。「アパレル・雑貨」については、先述の通り、流通量自体が少ないため、ベースとなるような流通網が存在しておらず、IPホルダーとアパレルメーカーが個別で対応しているケースがほとんどのようである。
ということで、海外で推しグッズを求めて小売店舗やECサイトを訪れても、日本のようにおしゃれでクリエイティブで高品質な商品群が一堂に並べられている場所は、一部のキャラクター専門店を除き存在しない。Z世代を中心に旺盛な「需要」を持つユーザーは確実に増加しており、かつ、グローバルOTTでの配信という「Channel」の活用を通じて、アニメだけでなく、原作コミックやゲーム、実写にもファン層が広がっている。そのような環境の中で、カテゴリー横断的に推しの商品を購入できる、あるいはその作品の世界観に浸ることができるお店がない、というのはIPにとって大きな損失に他ならない。
こうした現状を把握した上で、必要な戦略は明確である。それは、①日本コンテンツIPの権利関係と商品の商流の双方を理解し、②カテゴリー横断的に商品を集約することができ、③小売店まで流通・物流を行う「卸機能」を持つ企業体の存在である。
これこそが、我々が提言する「日本コンテンツIP商社」のコンセプトである。これら3つの機能を具備した「日本コンテンツIP商社」の誕生により、先述した北米のバリューチェーンが抱える問題を解消し、タイムリーかつ商品カテゴリー横断的に日本のコンテンツIP由来の商品を海外に提供することが可能となる(図表3)。具体的には、物流機能を持つ企業とコンテンツI P を保有・調達する企業、そして商品化ビジネスのノウハウを有する企業による共同事業体などの形態によって「日本コンテンツIP商社」を実現することが想定される。
コンテンツIPホルダーから見た場合には、海外における商品化ビジネスを一手に行ってくれる(商品化、製造、商品カテゴリー横断集約、流通・物流)「ワンストップ的な存在」になり、ファンから見た場合には、作品の世界観を体験できる場を提供してくれる「日本コンテンツIP商社」の存在価値は極めて大きいと考えられる。この構想が実現した暁には、必ずや日本IPのシェア拡大が図られると確信している。
書籍『世界で勝つエンタメビジネス ~異業種連携で広げるIP活用戦略~』では、本稿で紹介したコンテンツの生態系モデルにおける「Channel」「Commerce」「Community」の活性化策について、より詳細な事例やデータを用いて分析している。ぜひご一読いただき、読者の皆様の様々な立ち位置から、コンテンツの生態系モデルの構築・発展につながる機会に目を向けていただけると幸いである。