真の“SX”に挑む企業たち Striving for a sustainable future
大林組
#2

包括的な視点で全体最適を図るホリスティックアプローチで環境三社会を推進

経営戦略と営業活動の
両面からサステナビリティを推進

2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すという国の政策を受け、建設業界でも様々な取り組みが進んでいる。非住宅建築や中高層建築の木造・木質化もその一つだ。循環型資源である木材の利活用は、環境負荷の低減だけでなく、脱炭素や国土保全、人々のウェルネスにもつながるため、将来的には鉄骨造や鉄筋コンクリート造のように一般化していくと予想されている。このような見通しを背景に、大林組も着々と体制を整えてきた。

同社は、経営戦略面からサステナビリティをけん引する部署として2022年に環境経営統括室を設置。また営業活動面から24年に営業総本部の下にカーボンニュートラル・ウッドソリューション部を設置した。同部長の中村光利氏は同部設置の経緯をこう説明する。

「非住宅建築や中高層建築の木造マーケットをにらんで、木造・木質化の専門チームが立ち上がったのは20年です。その後、22年にはカーボンニュートラルの専門部署が設置され、木造・木質専門チームと統合する形で整備されたのが、カーボンニュートラル・ウッドソリューション部です。環境経営統括室とも日ごろから連携を取っています」(中村氏)

中村光利氏 岡有氏 八木利典氏

(写真右)
株式会社大林組
理事 営業総本部 担任副本部長
カーボンニュートラル・ウッドソリューション部長

中村 光利

(写真左)
株式会社大林組
営業総本部 
カーボンニュートラル・ウッドソリューション部 
部長

岡 有

(写真中央)
株式会社大林組
営業総本部 
カーボンニュートラル・ウッドソリューション部 
副部長(意匠設計)

八木 利典

木造・木質専門チームが設置された19年は、同社が中長期環境ビジョン「Obayashi Green Vision 2050」を「Obayashi Sustainability Vision 2050」へとアップグレードし、サステナビリティの取り組みを本格化させた年だ。また、カーボンニュートラルの専門部署が設置された22年は、環境経営統括室創設の年でもある。こうした経営戦略と営業活動のリンクからも、同社のサステナビリティへの取り組みが早い段階から全社的に推進されていることがうかがえる。

川上から川下までを結ぶ、
独自のサーキュラーエコノミーの仕組み

現在、建設業界では環境配慮の観点からカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブが注目されており、大林組も積極的に取り組んでいる。その取り組みの一つとして非住宅建築や中高層建築の木造・木質化においてサーキュラーエコノミーを推進するため、木材の植林から製材・加工、利用、廃材の熱利用までの川上から川下に至る各段階に積極的にコミットし、サプライチェーンの強化に努めている。同社が「Circular Timber Construction®(サーキュラー・ティンバー・コンストラクション)」と呼称するこの仕組みづくりを担っているのがカーボンニュートラル・ウッドソリューション部である。同部部長の岡有氏は、サーキュラー・ティンバー・コンストラクションの具体的な施策について、こう説明する。

「大林グループは川上の植林・育林では、人工光と自然光のハイブリッド技術で安定した苗木の育成を図り、川中の製材・加工では、エンジニアリングウッドという中高層建築向けの建材を供給しています。また、川下は本業の建設事業で木造・木質化を推進し、役目を終えた木材はリユースやリサイクル、またはバイオマス発電所で熱エネルギーとして再利用します」(岡氏)

サーキュラー・ティンバー・コンストラクションでは、使用した建材をそのままバイオマス処理するだけでなく、再利用できるものは複数回の循環活用も視野に入れている。岡氏はリユースについてはいくつかのハードルがあると話す。

「現在の建築基準法では、構造計算が必要な建物は認証済みのJAS材を使う決まりになっていて、現時点で建築構造体としての木材のリユースはハードルが高いです。また、木造はコストが安いイメージを持たれがちですが、十分な強度を持ったエンジニアリングウッドにするには加工費が上乗せになるなど、コストがかさむ要因もあります」(岡氏)

岡氏の発言を受けて、「こうした課題は個社ではなく業界として取り組む必要があります」と強調するのは中村氏だ。

「リユース材の活用定着には法整備が必要ですし、コストを抑える努力は続ける一方で、コストに見合う価値をアピールし、一連のサービスとしてマネタイズしていくことも重要だと考えています」(中村氏)

木造・木質化やサーキュラー・ティンバー・コンストラクションといった取り組みは、脱炭素や資源循環においては効果的にシナジーを生むが、ネイチャーポジティブの観点ではトレードオフの関係も存在する。この点について、同部副部長の八木利典氏はこう説明する。

「太陽光発電は脱炭素に貢献する半面、足元の植物などの生態系に影響するといった問題もあります。植林する際にも育ちの早いものを単一に植えるだけでは、資源循環には貢献しますが生物多様性の面では好ましくありません。また、地域材の利用は、輸送時のCO₂排出を抑え脱炭素に貢献します。ただし、加工設備が不足する地域で地産地消に固執すると、非効率により逆にCO₂排出が増え、範囲の限定により木材の再利用など資源循環の機会も損なわれる場合があります。こうした相反する課題を整合するには、より幅広く包括的な視点が必要だという思いを以前から感じていました」(八木氏)

ホリスティックアプローチが
大林組の課題にフィット

こうした大林組の悩みに応えたのが、PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)が提唱する「ホリスティックアプローチ」だ。同グループでサステナビリティ案件を中心に支援実績を積んでいるPwCコンサルティング ディレクターの齊藤三希子氏は、ホリスティックアプローチについてこう解説する。

「ホリスティックには『全体的な』『包括的な』といった意味があります。サステナビリティ課題には多様なアジェンダが存在しますし、八木さんがおっしゃるようにトレードオフも避けられないので、個別のアジェンダごとに考えても答えが出ません。そこでPwC Japanでは、環境・社会・経済の3要素を総合的に捉え、全体最適を導き出せるホリスティックアプローチを提唱しています」(齊藤氏)

山口貴之氏 齊藤三希子氏

(写真左)
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー

山口 貴之

(写真右)
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター

齊藤 三希子

ホリスティックアプローチの利点は、各アジェンダや各課題の間にある相互関係を可視化した上で、全体最適につながる施策を検討できることだ。ホリスティックアプローチの各施策の分類には、大きく「脱炭素」「資源循環」「自然再興」「ウェルネス」の4つがあり、これらを基に全体最適を図ることでウェルビーイングを実現するという枠組みになっている。

PwC Japanが提唱するホリスティックアプローチ

PwC Japanが提唱するホリスティックアプローチでは、脱炭素・資源循環・自然再興・ウェルネスの4カテゴリーを包括的に捉え、全体最適の意思決定につながる施策を検討する。クライアントの要望に応じ、カテゴリーや検討施策のカスタマイズも可能だ出典:PwC Japanグループ「ホリスティックアプローチによるサステナブルなビジネスモデル変革支援」

大林グループが策定している環境方針には、サプライチェーン全体で「環境三社会」を目指す旨の記載があるが、この3つは「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」を指し、PwCのホリスティックアプローチの4つの要素のうちの3つとリンクしていることが分かる。

「当社では、環境三社会を同時に進めることがサステナビリティの向上に繋がり、私たちのウェルビーイングな生活を支える基盤だと考えていますが、トレードオフの問題もある中で、客観的な視点から総合的に判断するにはどうすれば良いかを模索していました。その中で可能性を求めたのがPwCのホリスティックアプローチでした」(中村氏)

環境価値を定量的に可視化する
独自のサービスに取り組むPwC Japan

「ホリスティックアプローチを実践する上で鍵となるのは、意思決定を支援するデジタルツールの活用です」と語るのは、PwCコンサルティングで大林組を担当するマネージャーの山口貴之氏だ。

「1つの施策がもたらすトレードオフやシナジーの解明には、複数シナリオや関連指標の潜在的な影響を踏まえたシミュレーションが必要ですが、マンパワーでこれを実施するのは限界があるのでデジタルツールの活用が必要不可欠です」(山口氏)

PwC Japanでは、企業が取り組んでいるサステナビリティ対応の価値が可視化されるだけでなく、環境価値を独自の指標で貨幣価値に換算できるサービスを開発中だ。両社はこのサービスを活用したケーススタディとして、モデル案件の鉄骨造案と木造案を対象に、脱炭素・資源循環・自然再興の3軸での比較評価を実施した。

環境負荷の貨幣価値換算-鉄骨造と木造の比較-

当サービスでは、製品やサービスの持つ指標ごとの環境への影響・効果を貨幣価値に換算して比較することで、製品の価値を金額ベースで示し、製品・サービスの対外的な評価や価値の向上につなげることができる出典:PwC Japanグループ作成資料

「現時点ではあくまで一案件のケーススタディなので精度については引き続き検討したいと思いますが、これまで“定性的”にしか捉えられなかった価値を“定量的”に可視化できることは大きなメリットだと感じました。ゆくゆくはお客様の木造・木質化の背中を押す根拠として活用できるようになればと思います」(岡氏)

「継続的にツールを活用すれば、経営判断と施策との整合性を経年で追ったり、サプライチェーンをさかのぼって課題の原因を探ったりといった点も期待できそうです」(八木氏)

ホリスティックアプローチのアウトプットイメージ

ホリスティックアプローチのアウトプットイメージ。チャート図は140の評価指標から測定項目を選択する。総合評価では、評価指標の測定結果を基に、4つのカテゴリーごとの資本価値を算出することも予定している出典:PwC Japanグループ作成資料

PwC Japanがホリスティックアプローチを提唱しているのは、サステナビリティ自体が環境・社会・経済の価値を基に“好循環ビジネスを生み出す新時代に入った”という認識に基づく。

「サステナビリティを巡る状況は刻々と変化し、お客様も迷われているのが現状だと思います。当社もこれまでのやり方にこだわることなく、多角的な視点で全体最適につながるソリューションを提供していくのが使命だと考えています。今回のケーススタディは大きな示唆を与えてくれたと思いますし、PwCコンサルティングには今後もご支援いただきたいと思っています」(中村氏)

「私も日ごろから建設業界を支援する中で、個社ではなく業界全体でサステナビリティに取り組む重要性を認識しています。大林組には新しい枠組みの起点になっていただけると期待していますし、当社のホリスティックアプローチで貢献できればと思います」(山口氏)

「新時代のサステナビリティは、カーボンニュートラルだけを追い求めれば良い時代から、トレードオフも含めた総合的に判断する時代に変化しています。業界全体がこのゲームチェンジに対応していくためにも、ホリスティックな視点は今後ますます必要になるでしょう。これまでの知見や独自ツールも活用しながら、クライアントの変革を支援していきたいと思います」(齊藤氏)

八木利典氏 山口貴之氏
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#1

サーキュラーエコノミーを推進し
「地球・社会・
人」のサステナ
ビリティへの道を切り開く

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