「小口不正」に潜む経営リスクと不正防止のポイントとは ガバナンス強化に重要な「可視化」と「仕組み化」

企業が持続的に成長し企業価値向上を実現していく上で、ガバナンスの強化が不可欠であることは言うまでもない。中でも、近年その重要性が再認識されているのが、「守りのガバナンス」を実現するための内部統制だ。しかし、内部統制の構築・運用を図る上で見過ごされがちな「経費の小口不正」が、企業価値の毀損をも招くリスクをはらんでいることを認識している経営者は多くないという。コーポレートガバナンスに詳しい弁護士 太子堂氏と、『GO』の法人向けサービス『GO BUSINESS』を管掌するGO株式会社 執行役員の中西氏に、内部統制の「蟻の一穴」となり得る小口不正の実態と、それを防ぐためのガバナンスのあり方を聞いた。

改めて問う内部統制の重要性と
「小口不正」がはらむ企業価値毀損リスク

――ガバナンス強化における内部統制の重要性について、専門的知見からの解説をお願いします。

太子堂氏
森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業
パートナー
弁護士
太子堂 厚子

太子堂 コーポレートガバナンスは、株主をはじめとするステークホルダーのために、より良い企業経営が行われることを確保するための仕組みを指しますが、収益性や競争力の向上により成長を目指す「攻めのガバナンス」と、リスクの回避・抑制や不正防止を目的とする「守りのガバナンス」に大別されます。

 「守りのガバナンス」によって不正防止の目的を実現するためには、不正の未然予防と早期発見のための社内体制として、内部統制の構築・運用が必要です。

 近年、資本市場からのガバナンス強化の要請や、不祥事による企業価値の毀損事例などを受け、内部統制の重要性が改めて認識されるようになっています。私自身、企業法務に携わる弁護士として、お客様に対応させていただく中で、「守り」があってこその「攻め」であり、企業が持続的な成長を果たすためには、両者のバランスが重要であることを実感しています。

――表面化しにくい経費などの“小口不正”に潜むリスクについても、お考えをお聞かせください。

太子堂 いわゆる「小口不正」と言われる、経費の架空請求や水増し請求は、経費精算という日常業務の中で頻発しやすい、古典的な類型の不正と言えます。個々の不正の金額は少額である場合が多いですが、成功体験が重なることで罪悪感が薄れ、常習化する傾向があるのも特徴です。

 「小口不正」に伴うリスクとしては、まず、会社財産の毀損が挙げられます。個々の不正の額が小さくても、継続しやすい不正のため、積もり積もると会社財産に大きな損害を与える可能性があります。また、重大事案であれば、情報開示や報道の対象となり、自社の管理体制が甘かったということになれば、企業の信頼性が損なわれるレピュテーションリスクにもつながります。さらに、経費でないものを経費として計上していたとして、決算の訂正や税金の不払いの問題が生じる可能性もあるなど、会計上・税務上のリスクへと発展する可能性もあります。

 加えて、小さな不正であっても、これが許容される環境は、社員のコンプライアンス意識を低下させ、コンプライアンス違反を許さない企業風土が毀損されます。その結果、より重大な不正を誘発する温床となるリスクがあるという問題もあります。

 経費の使い方に関する統制が効いているかは、経費精算が日常的な行為であるからこそ、企業の内部統制の実力が表れるところがあると思っています。私自身、監査役を担う企業において注視するポイントの一つになっています。

「不正のトライアングル」が
小さな不正行為を生み出す

――経費の中でも「交通費」、とくに「タクシー経費」については、利用者側の経費精算の曖昧さや経理側の処理の煩雑さゆえに、お悩みが多い項目と伺っています。『GO BUSINESS』として法人向けサービスを展開する立場から、企業から寄せられる悩みや課題について教えてください。

中西 企業におけるタクシー利用は、業務の効率化や生産性の向上への寄与はもちろん、社員自身の運転からの切り替えにより、社員の事故削減および安心・安全の価値提供に資するなどのメリットが数多くあり、あって然るべき交通手段の一つです。一方で、タクシー経費の処理については様々な課題があり、大きくは「適正利用の管理の難しさ」と「経理処理の煩雑さ」の2つが挙げられます。

中西氏
GO株式会社
執行役員
中西 佑樹

 当社が約2万人のビジネスパーソンを対象に行った「タクシー経費に関する利用実態調査レポート」によると、「タクシー代の精算や業務利用に社内規定はあるか」という問いに対し、半数以上が「規定があるかもどうかも分からない」と回答し、社内規定があっても、約3人に1人が「制度の抜け穴」を指摘するという結果が明らかにされています。

 例え利用規定があっても、「やむを得ない場合は上長に了承を取る」といったルールにおいて「やむを得ない」をどう理解、判断するか。ルールのあいまいさに加え、経費の中でも「交通費」は事前申請フローに組み込むのが難しく、多くは事後精算となる点も管理の難しさにつながっています。

 こういった状況で、従来の紙の領収書や立て替え精算プロセスの非効率性が利用者と管理部門の双方に大きな負担となっているだけでなく、「誰が、いつ、どこで」利用したかを、管理部門が正確に把握し切れない現状も大きな課題となっています。

太子堂 不正が起こるメカニズムを分析した理論として、米国の犯罪心理学者であるドナルド・R・クレッシーが提唱する「不正のトライアングル」という理論があります。簡潔に説明すると「動機」「機会」「正当化」の3つの要素がそろうと、不正行為が起こりやすいという考え方です。

 この理論に基づくと、経費精算プロセスが煩雑で適正に管理されていない状況は、不正のチャンス(機会)を提供し、さらには制度の抜け穴により「どうせ少額だしバレないから大丈夫」「みんなもやっている」といった、正当化の要素も生み出すことにつながります。

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