2026年7月1日、サッポロホールディングスは純粋持株会社体制から事業持株会社体制へ移行し、商号を「サッポロビール株式会社」に変更して次なるステージへと進んだ。サッポロビールでは2020年から抜本的な人事制度改革を開始。人財戦略の強化に力を入れている。改革の狙いやツール活用の実態、主体的なキャリアを育む支援などについて、上席執行役員の細川恭伸氏に話を聞いた。
脱コンフォートゾーン
常に学び、挑戦する組織へ
1876年、北海道札幌市に「開拓使麦酒醸造所」を設立してから今年で創業150周年。2026年7月1日にサッポロホールディングスはサッポロビールへと名前を改め、次の100年に向けて歩み始めた。
変化を恐れず挑戦する風土を醸成するため、サッポロビールでは、人事制度の改革を進めてきた。2020年から始まった改革の中核は、相対的な人事考課ランク付けの廃止。いわゆる「ノーレイティング」に移行し、現在は組織全体に浸透しつつある。人事を統括する細川氏は、大胆な改革の狙いについてこう語る。
「それまでの人事制度は目標設定に多くの時間がかかっていましたが、ビジネス環境の変化に応じて柔軟に目標を見直し、リアルタイムで支援をすることで、人財育成にフォーカスした評価制度へとかじを切りました。これにより、社員一人ひとりが主体性を持って新たな課題に挑戦し、個々の成長を支援していくことを狙いとしたのです。目指したのは、個人の成長を通じて組織の成長につなげること。社員が常にストレッチゾーン、ラーニングゾーンに身を置き、学び続ける姿勢が重要だと捉えています」(細川氏)
具体的には、定期的な1on1ミーティングなどを実施。こまめにコミュニケーションを取りながら、個人の目標達成のみならず、チームへの貢献度も重視している。そのため人事部門では、現場への説明を重ねてきた。
「制度を運用する現場と人事部門がしっかり目線を合わせ、“なぜこの制度にするのか”“どう運用していくのか”を継続して伝えていくことが肝心です。経営陣も“サッポロビールにいれば成長できる”というメッセージを繰り返し発信して、全社で方向性を共有しています」(細川氏)
可視化された人財データが
なくてはならない存在に
同社では、制度改革に合わせてシステムも刷新した。新たな人事制度を運用する上で欠かせない基盤となったのが、タレントマネジメントシステムである。当時はタレントマネジメント市場が立ち上がり始めた時期でもあり、機能や運用性を見極めながら選定を進めたという。
「タレントパレットを選んだ決め手は、リアルタイムでフィードバックを運用できること、人財情報を可視化してタレントマネジメントに活用できること、人事担当者が必要に応じてカスタマイズできることでした。また、将来的に人財データを活用した取り組みへ発展させたいビジョンがあり、タレントパレットがマッチしていると感じました」(細川氏)
タレントパレットにはメンバー、マネージャーがそれぞれの視点でキャリア・目標・フィードバック等の情報を記入できる。こうした情報を日々の育成や対話の土台として活用することで、これまでの成長や対話の経緯を踏まえたコミュニケーションが可能になる。
「1on1は、月1回の実施を推奨しています。マネージャーは日々の業務で多忙だからこそ、あえて1on1を予定に組み込むことで、メンバーと落ち着いて話す時間を確保できます。大切なのはメンバーが伝えたいことを傾聴し、マネージャーがアドバイスすることです。ですから1on1はメンバーの成長のみならず、マネージャーの意識やマネジメント力を高める機会にもなっています」(細川氏)
細川氏は、タレントパレットを単なるツールではなく、人財開発の文化を支えるインフラだと評価する。
「今では、あって当たり前という存在になりました。前任のマネージャーがどんな育成をしてきたのかを共有できますし、組織全体で人を育てる観点でも大いに貢献しています」(細川氏)
メンバーの主体的な成長とマネージャーの的確な支援を実現する人財開発施策
外の世界で視野を広げる
「越境」が強い組織を創る
サッポロビールでは近年、人財公募や社内外副業、社内インターンなど、社員が部署の枠を越えて挑戦できる制度を積極的に整備している。ミドル・シニア層にも社外企業の課題解決に取り組むプログラムを用意する。細川氏は、こうした「越境」のアプローチも人財開発の重要な柱になっていると話す。
「外の世界を知ることで視野が広がります。それが結果として本人の成長だけではなく、会社全体の基盤強化にもつながっています」(細川氏)
多角的な人財開発は、変化の激しい時代への対応にも寄与する。従来の延長線上でモノづくりやサービス提供を続けるだけでは、差別化を図るのは難しいためだ。そこでサッポロビールでは人事制度だけを切り離して考えるのではなく、経営戦略、事業戦略、人財戦略を一気通貫で設計することを念頭に置く。
「今年の7月1日から体制が大きく変わり、グループ全体で新たな価値を創出していくことを掲げています。これからは優秀な人財を育てることが企業競争力の源泉になりますが、そのためにはグループが持つ人財やノウハウ、リソースを融合させていくことが不可欠です。人事部門は今、経営層や経営企画部門と密に連携し、それぞれの戦略との整合性を確認しながら人的資本経営の見直しを進めているところです」(細川氏)
人財への投資は、短期間で成果が見えるものではない。しかし、人が育ち、組織文化が変われば、やがて揺るぎない企業価値となって表れる。サッポロビールが目指す人的資本経営は、まさにその未来を見据えた挑戦といえるだろう。











