脱炭素化やAIの進展などを背景に、エネルギー業界は大きな転換期を迎えている。激動の時代にあわせ、コスモエネルギーホールディングスは人材戦略「HRX(ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション)」を旗印に、「挑戦・自発・進化」が根付く組織文化への変革を目指す。取締役常務執行役員 人事担当の岡田正氏に、人的資本経営にかける思いと、その実現に向けた取り組みを聞いた。
挑戦・自発・進化が根付く
HRXの目指す変革の原点
「ココロも満タンに」のブランドステートメントで知られる総合エネルギー企業のコスモエネルギーグループ。2026年6月に策定した第8次連結中期経営計画では、「Oil & New エネルギーと、その先へ。」を掲げた。このスローガンに基づき、石油事業を盤石な収益基盤としながら、次世代エネルギーや電力事業、半導体材料の増産、製油所やバックオフィスのAI・デジタル化など、新たな成長領域への投資を加速している。
脱炭素化が進む一方でエネルギー安全保障の重要性は高まり、AIやデータセンターの普及で電力需要が拡大している。激しい変化に対応するには、事業ポートフォリオの再編だけでなく、人材のマインドセットも変わる必要がある。
変革の指針を人材戦略としてまとめたのが「HRX」である。その狙いについて岡田氏は次のように語る。
「当社はこれまで、『誠実・共生・安全』の価値観を大切にしてきました。しかし、これからの事業変革には、それだけでは十分ではありません。今後は『挑戦・自発・進化』という価値観も合わせて組織全体に根付かせる必要があります。自ら考え、挑戦し、新しい価値を生み出せる人材を育成していくことがHRXの目指す姿。人材戦略は人事部門だけのテーマではなく、経営戦略そのものを実現するための基盤だと捉えています。ここで言う『挑戦』とは、大きな新規事業だけを指すのではありません。日々の業務の中で自ら課題を見つけ、これまでのやり方から一歩踏み込んで取り組むこと、そのすべてが挑戦です」(岡田氏)
その象徴が、第8次連結中期経営計画から導入した「挑戦指数」と前中期連結経営計画から継続して測定している「エンゲージメント指数」だ。だが同社ではこれらを別々の指標ではなく、互いに高め合うものとして位置付けている。
「社員にとって本質的なエンゲージメントとは自らの成長を実感し、自分の仕事が社会の役に立っていると感じられることです。そしてエンゲージメントは挑戦によって高まります。だからこそ、積極的に“挑戦を認める文化”をつくっていこうと考えています」(岡田氏)
自律的成長と高い生産性を目指す、コスモエネルギーグループの人的変革の全体像
経験と価値にフォーカス
挑戦が人を成長させる
「主体的な挑戦を通じた持続的な成長」は、HRXのキーメッセージだ。では挑戦・成長意欲を促す組織風土を築くためには何をすべきか。岡田氏は「経験こそが最大の人的資本を育てます。中でも、いわゆる“修羅場”の経験は、人を大きく成長させます」と強調する。
ここでいう修羅場とはいわゆるタフアサインメントを指す。新規事業の開発だけでなく、普段なら経験しない役割や課題に挑戦することだと定義する。
「修羅場を経験すると人とのつながりが生まれますし、自分の仕事のやりがいや使命感も見えてきます。そこでは、メンバーの挑戦をしっかり評価し、背中を押せるマネージャーを育てていくことが重要になります」(岡田氏)
その考え方を実践する鍵の一つが、マネージャーとメンバーによる1on1だ。岡田氏はかつて外資系IT企業を視察した際に、イノベーションを生み出す組織ほど日常的な対話を重視することを目の当たりにしたという。
「週に1回、会議を開くだけでは組織は変わりません。1on1のあり方も含めて、上司のマネジメントを改革しなくてはならないと感じています。例えば、失敗を恐れず挑戦したこと自体を称える場づくりも展開予定です」(岡田氏)
AIとデータで加速させる
戦略と人材をつなぐ新しい人事
HRXを支えるもう一つの柱が、AIとデータの活用だ。同社では製油所のデジタルツインや設備保全など、様々な領域でAI活用を進めており、第8次連結中期経営計画に掲げる「生産性向上」の実現に向けて、限られた経営資源を価値創出に集中させることを目指している。
「もはやAIは “どう使いこなすか”というフェーズに突入しました。人事もその変化の先頭に立たなければなりません。これまでは経験と勘と度胸によって人事が行われてきた側面もありました。しかし、これからはデータを基に、『なぜこの人を登用するのか』を説明していくことが大切です」(岡田氏)
その基盤として活用しているのが、タレントマネジメントシステムの「タレントパレット」である。2023年の導入以降、グループ全体の人材情報を蓄積し、人材育成や配置、人事戦略に活用する基盤づくりを進めている。
「人事に絶対の正解はありません。データを基にAIが異動案を作成すれば、人では思いつかない組み合わせを提示できる可能性もあります。ただし、データはあくまで意思決定を支えるもの。最後は人が向き合い、人が育て、人が決断する。そのためにデータを使うのです」(岡田氏)
将来的にはスキルやキャリアだけでなく、どのような挑戦を経験してきたのかという履歴も含めて可視化し、事業戦略と人材戦略をより密接に結び付けていきたいとする。
「社員が『良い会社だよね』と思える会社にするのが目標です。挑戦できる、成長できる、そして社会に貢献できる。そんな会社になれば、『ココロも満タンに』という言葉も、社員自身が実感できるものになるはずです。この国の未来のために、一緒に明るくこの課題に取り組んでいきたいですね」(岡田氏)











