望まれる日本コンテンツIP商社の誕生

サステナビリティ情報開示が新たな局面を迎えている。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による策定基準の世界的な普及に伴い、日本でも2027年3月期の有価証券報告書から、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準に基づく開示が義務化される。制度対応にとどまらず、開示を企業価値向上につなげるためのポイントとは。本セミナーでは、開示・保証の実務とともに、サステナビリティを経営戦略に生かすための視点が示された。

「SSBJ対応はその先にこそ意味がある」
本質的対応への課題

小黒 氏
三菱電機 常務執行役
経営企画統括部長 兼 経営企画室長
サステナビリティ・イノベーション本部長
小黒 誠司 氏
三橋 氏
サステナブルバリューアドバイザリー
代表取締役
三橋総合事務所 代表
日本ペイントホールディングス
独立社外取締役 監査委員長 等
三橋 優隆 氏
田原 氏
PwC Japan有限責任監査法人
上席執行役員
パートナー
サステナビリティ・アドバイザリー部長
田原 英俊 氏

PwC Japan有限責任監査法人の田原英俊氏は冒頭、SSBJ対応を中長期的な企業成長につなげるためには「サステナビリティ情報の内部統制・ガバナンス」と、財務情報と非財務情報を統合した意思決定を実現する「統合思考・統合経営」が重要になると説明。この2つをテーマに本セッションを進行する方針を示した。

議論に先立ち、三菱電機の小黒誠司氏は同社の取り組みを紹介。経営の根幹にサステナビリティを据え、環境・人権・ガバナンスなどの管理機能を集約した組織を設置するとともに、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなどの新規事業創出にも取り組むなど、「守り」と「攻め」の両面からサステナビリティ経営を推進していることを説明した。一方、サステナブルバリューアドバイザリーの三橋優隆氏は、多くの日本企業ではサステナビリティが専門部署任せで、経営戦略と十分に結びついていない現状を指摘した。

1つ目のテーマ「内部統制・ガバナンス」では、三菱電機における最大の改革は「非財務情報の責任の所在を明確化した点」だと小黒氏が言及。従来はコーポレート部門が非財務情報を取りまとめていたが、事業部門の当事者意識を高めるため、各事業部門が説明責任を負う体制へ転換し、現場・事業本部・本社の3段階でレビューを行う仕組みを構築したと語った。これを受け田原氏は、SSBJ開示では経営者による「確認書」への署名が求められる点について三橋氏に見解を求めた。三橋氏は「非財務情報には将来情報が含まれるため、従来以上に高度なガバナンスが求められます」と指摘。経営者が安心して署名できるように、将来情報の合理性の確保や、M&A先を含めた非財務情報の管理、財務情報との整合性確保に取り組む必要性を述べた。

田原 氏
PwC Japan有限責任監査法人
上席執行役員
パートナー
サステナビリティ・アドバイザリー部長
田原 英俊 氏

2つ目のテーマ「統合思考・統合経営」では、SSBJがサステナビリティ関連情報と財務諸表を関連付けた開示を求めていることを踏まえ、その対応方法について、田原氏が両氏に見解を求めた。三橋氏は「複数資本の相互依存関係の理解」「ダブルマテリアリティとシングルマテリアリティの統合」「時間軸の同時管理と報酬設計の統合」など5つの課題をクリアする重要性に言及。これにより開示は「企業変革の強力なテコになります」と語った。

一方、小黒氏は、三菱電機が掲げる「トレード・オン(社会課題解決と事業成長の両立)」に触れつつ、全社的なサステナビリティ・リテラシー向上の重要性を強調。その土台の上で、信頼性の高い非財務データと事業現場のデータを組み合わせれば、社会課題を早期に把握し、新規事業や研究開発、サプライチェーンの高度化につなげられると述べた。さらに、世界的に非財務情報の開示が進めば「データを通じて新たな事業価値や社会価値の創出が加速する世界」に近づくとの見方を提示した。

初年度開示をトリガーにした
本質的な企業の持続性について考える

江連 氏
経済キャスター
江連 裕子 氏
松原 氏
りそなアセットマネジメント
チーフ・サステナビリティ・オフィサー
常務執行役員 責任投資部担当
松原 稔 氏
屋敷 氏
PwCコンサルティング
コンシューマーウェルネス事業部
ビジネスマネジメント
トランスフォーメーション事業部
Sustainability Transformation
上席執行役員 パートナー
屋敷 信彦 氏

本セッションでは、企業支援を行う立場と長期投資家の立場からSSBJ開示を深掘りする議論が行われた。

「多くの企業が初年度開示を迎える中、なぜ『開示の先』を見据えた対応が必要なのでしょうか」という経済キャスターの江連裕子氏の問いに対し、PwCコンサルティングの屋敷信彦氏は「開示と事業戦略・経営戦略がひもづかなければ、社会の望む変化は起こりません。企業は開示による『可視化』だけでなく、中長期的な企業価値創出につなげる『価値化』も進める必要があります」との考えを述べた。これを受け、りそなアセットマネジメントの松原稔氏は、長期投資家が重視するのは、開示と経営戦略が「地続き」のストーリーになっているかどうかだと説明。持続的な成長可能性があると評価されるためには、気候変動などの将来の「有事」を想定し、中長期的な視点から今取るべき行動を説明できることが重要だと語った。

有価証券報告書と統合報告書の役割の違いについて屋敷氏が質問すると、松原氏は「有価証券報告書ではIFRSの思想に沿った財務的な観点での開示が求められる一方、統合報告書は幅広いステークホルダーに向けて価値創造ストーリーを自由に語れるという違いがあります」と説明し、媒体を使い分ける重要性を強調した。

さらに松原氏は「単に『良い会社(グッドカンパニー)』である段階から、『グッドビジネスプラクティス』を実践する段階への移行を目指してほしいと思います」と、日本企業に対する期待を述べた。環境破壊や人権問題などの外部不経済をリスクとして、あるいはビジネスチャンスとしてとらえる視点が、投資家の信頼を得るために必要であるとの考えを示した。これを受け屋敷氏は、多くの企業において、事業戦略とサステナビリティ戦略を別々に考えるのではなく、一体的に考える段階へ進んでいると指摘。他社との横並びではなく、自社にとって重要なマテリアリティを特定する企業が増加しており、望ましい傾向が生まれていると語った。

続いて「企業の本気度を見極める際、投資家は何を重視するのでしょうか」という江連氏の問いに対し、松原氏は「結果が予測困難だからこそ、意思決定のプロセス、そして企業が描くストーリーとの整合性が重要です」と回答。屋敷氏も、気候変動などが自社の主要事業に与える影響を踏まえて投資を行うという一貫性が重要であると述べた。

終盤では、自社の価値観に共感する投資家を意識した情報発信の必要性にも話題が及んだ。松原氏は、開示は「どの投資家と長期的な関係を築きたいか」を考えるインベスターマーケティングでもあると説明。屋敷氏は「グローバルな資本市場の動きを理解して開示を進めることが、資本市場と強固で深いエンゲージメントをつくることにつながります」と、開示を本質的な変革につなげる重要性を強調した。