真の“SX”に挑む企業たち Striving for a sustainable future
Vol.8 パナソニック
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#2

循環型ものづくりを技術で進化させるパナソニックの素材価値最大化戦略とは

素材調達は購買部門から
経営に直結するテーマにシフト

近年、地政学や国際安全保障のリスクの高まりを受けて、資源や素材の安定調達は日本企業にとっての喫緊の課題となっている。PwCコンサルティングでパートナーを務める齊藤三希子氏は、資源調達・素材調達の潮流についてこう解説する。

「従来は品質やコストが中心でしたが、現在はそこに脱炭素や資源循環、人権・環境デューデリジェンス、地政学リスク、各国規制への対応といった要素が加わり、購買部門だけでなく、経営戦略にも直結するテーマになっています。とくに日本の場合は、1次資源の多くを海外に依存しているため、価格の変動や供給国の輸出規制などの影響を受けやすいのが課題です。直近では中東情勢の影響によるナフサ不足が話題になっていましたが、プラスチックや希少金属類も価格が上がっており、地政学リスクを踏まえた長期的な調達戦略が、競争力維持には不可欠な状況となっています」(齊藤氏)

齊藤三希子氏

PwCコンサルティング合同会社
パートナー

齊藤 三希子 氏

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)や、地域資源を活用した持続可能な地域モデルの構築、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、食料安全保障などに係る事業の創出に携わる。

資源の循環について源流をたどると、2000年に施行された循環型社会形成推進基本法に行き着く。同法の施行以後、約5年ごとに循環型社会形成推進基本計画が策定されているが、直近の第5次基本計画では、国家戦略として循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が明確に位置付けられた。

「PwCコンサルティングは、資源循環を環境対応の枠組みにとどまらず、企業の持続的成長や調達戦略に関わる重要な経営課題として捉えています。製品設計から回収・再資源化までを見据えた循環型ビジネスモデルの構築や、再生材の利用拡大、バリューチェーン横断での連携強化などの面で企業を支援しています」(齊藤氏)

こうした潮流がある中、家電業界でもいち早く素材戦略に取り組んできたのがパナソニックだ。同社が2022年に策定した長期環境ビジョン『Panasonic GREEN IMPACT』では、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを両輪と位置付け、さらにサーキュラーエコノミーの具体的な取り組みの一つとして、循環型モノづくりの進化による「素材価値の最大化」を掲げている。

この点については齊藤氏も「化学メーカーや素材メーカー、自動車メーカーではなく、家電メーカーとしてこれだけ早くから取り組まれている例は他にないのではないでしょうか」と客観的な立場から評価する。

20年以上の取り組みの知見を生かした
パナソニックの素材戦略

まずは、素材価値の最大化を図る上でのパナソニックの素材戦略から見ていきたい。CEエキスパートとして家電リサイクルのスキーム作りに従事してきたパナソニックホールディングスの田島章男氏は、同社の素材リサイクルの歩みをこう説明する。

「2001年に家電リサイクル法が施行されて以降、当社も20年以上にわたってリサイクルに取り組んでいます。廃棄物を適正に処理するにとどまらず、廃製品から回収した素材をもう一度使いたいという思いから、2003年にプラスチックの循環をスタートさせ、鉄やプリント基板へと領域を広げてきました」(田島氏)

田島章男氏 松野行壮氏 石田勝希氏

(写真中央)
パナソニックホールディングス株式会社
技術部門
MI本部 マニュファクチャリング
ソリューションセンター
CE技術推進部 資源環境技術課
CEエキスパート

田島 章男 氏

(写真左)
パナソニックホールディングス株式会社
技術部門
MI本部 マニュファクチャリング
ソリューションセンター
開発企画部 推進課
プリンシパルエンジニア CEプロジェクトPM

松野 行壮 氏

(写真右)
パナソニックETソリューションズ株式会社
金属資源循環部 担当課長

石田 勝希 氏

そうした歩みの中で素材戦略が整備されてきた経緯について、同じくパナソニックホールディングスMI(M : Manufacturing、I : Innovation)本部でプリンシパルエンジニアを務める松野行壮氏がこう続ける。

「家電リサイクル法の施行以後、使用済み家電から回収したプラスチック樹脂の循環利用を進める中で、モノづくりの中に素材循環を位置付けることができるのではないかという視点で、技術開発も含めた新たな取り組みを始めているところです」(松野氏)

松野氏によると、昨今の資源制約や価格変動、地政学リスクなどのグローバルな動向も踏まえ、重要素材を抽出し、再資源化のポテンシャルや事業影響度の観点から素材戦略を策定しているという。戦略自体はグローバル調達の部署が構築し、MI本部が調達ルートの多様化の一環として素材循環を担っているという図式だ。また、実際に樹脂や金属の資源回収や再生を行う実働部隊がグループ会社のパナソニックETソリューションズ(以下、PETS)で、パナソニックがサーキュラーエコノミーを推進する上で、ホールディングスのMI本部とPETSとの連携が深まっているという。

齊藤氏は、多様な製品群や高度なモノづくりの知見がパナソニックの素材戦略遂行の強みになっていると分析した上で、具体的な支援についてこう説明する。

「PwCコンサルティングは、政策・制度動向や産官学連携、再生材市場に関する知見を踏まえながら、企業のサーキュラーエコノミー推進を支援しています。パナソニックの取り組みについても、将来の市場形成や産業構造の変化、地政学リスク等を見据えながら、議論を重ねています」(齊藤氏)

「当社も政策や制度の動向は継続的に注視していますが、社外の知見も取り入れながら議論できることは大きな意義があります。素材戦略の方向性を検討する上で、多様な視点を得られる点を心強く感じています」(松野氏)

動脈と静脈をつなぐ
独自の循環型モノづくり

パナソニックが進めている、循環型モノづくりの具体的な姿とは何か。

同社では資源を循環させるためのスキーム作りに継続して取り組んでおり、社外パートナーと連携しながら樹脂や各種金属の再生を進めている。田島氏は、これまでの経緯をこう振り返る。

「2003年にプラスチックの循環を始める以前は、マテリアルとしてのリサイクルが困難だったのですが、手作業による解体からスタートして徐々に手応えをつかんでいきました。樹脂の処理や金属の製錬などは当社だけではできないので、外部の専門企業の力をお借りしています」(田島氏)

PETSで金属循環を担当する石田勝希氏は、同社の独自の立ち位置や役割について以下のように説明する。

「以前は金属を資源として循環させる仕組みがなく、海外に流出してしまうこともありましたが、現在はパナソニックグループ内に戻せる形が整ってきています。金属のリサイクル材は、加工や製錬の手間があるためどうしてもコストがかかりますが、これまでに当社が構築してきたスキームも生かしながら、本業である製造の動脈側とリサイクルの静脈側が共に利益を得られる循環を目指しています」(石田氏)

さらに、スキームを動かす上で、PETSは化学メーカーや素材メーカーをハンドリングする商社のような役割も担っている。齊藤氏はPETSの商社機能について、単に素材を流通させるだけにはとどまらないと分析する。

「全国の樹脂の選別やコンパウンドメーカーとのネットワークで、20年来の知見による再生材のレシピをお持ちです。さらに素材開発の多角化にも取り組み、例えばバイオ分野では木質セルロースを素材とする成形材まで生み出しています。家電メーカーでここまで深く循環型モノづくりを体現されている例はないと言っても過言ではありません。将来的には家電だけではなく、『再生材のパナソニック』と呼ばれるようになるポテンシャルがあると見ています」(齊藤氏)

もう1つ、パナソニックの技術力が生かされた取り組みとして、ロボットを使った廃家電自動解体システムの開発がある。

「当社はこれまで本業の動脈だけでなく、リサイクルや資源循環といった静脈にも注力してきましたが、この動静脈を連携させ、製品の設計段階から解体のしやすさや再資源化を織り込んだDfCE(Design for Circular Economy)を推進しています。自動解体ロボットもその一環です」(松野氏)

廃家電自動解体システム

「廃家電自動解体システム」は、家電製品のリサイクルにおいて、対象となる製品を自動で部品レベルにまで解体処理ができる業界初のシステム。現在は家電リサイクル法対象4品目のうち、エアコン室外機から着手しているが、将来的には解体対象を拡大し、幅広くリサイクルに貢献していく予定だという出典:パナソニックホールディングス提供資料

家電メーカーであるパナソニックには製品の設計データもあり、素材も熟知している。「破砕するのはもったいない」というのが、もともとの発想だったと松野氏は語る。

MI本部が目指す家電の資源再生工場

現在の家電リサイクルは破砕を前提とした素材回収が中心だが、パナソニックホールディングス MI本部が目指しているのは、破砕に依存しない工程による、製品を単一素材まで解体・高純度化するための資源再生プロセスの構築、そして持続可能なサプライチェーンの構築である出典:パナソニックホールディングス提供資料

「これまでも手作業による解体は行ってきましたが、設計データがあればシミュレーションデータをロボットに読み込ませて自動化が可能です。また、回収家電はどのような状態で戻ってくるか分かりませんが、現在はAIが活用できるので現場のこれまでの知見を形式知化することで様々な製品状態に対応することができます」(松野氏)。

DfCEの対象製品は、現在はパナソニックの製品のみだが、今後は他社製品にも範囲を広げていくことが目標となる。「他社製品は設計図面がないため、AIでCAD化できるかどうかがカギです。道半ばというより、まだスタート地点だと思っています」(松野氏)

齊藤氏は、AIとロボティクスによる自動解体の取り組みについて、「欧州ではまだまだ破砕が主流で、世界的に見ても先進的な取り組みです」とした上で、「他社製品にも対応できるようになれば、スマートフォンのような小型家電リサイクルの高度化にも道を開く取り組みになります」と今後の展開に期待する。

循環ループを共有し
日本全体へスキームを拡大

パナソニックが推進する素材価値最大化の今後の展望について、田島氏は、これまで培ってきた循環ループの仕組みを社外にも広げていく考えを示す。

「モノづくりは家電だけではなく、様々な製品がありますが、回収して解体すれば素材に分かれていくことは同じです。そうであるなら、当社の循環スキームをシェアしてより大きくしていきたいという思いがあります」(田島氏)

松野氏は、現在はリニア型モノづくりからサーキュラー型モノづくりへの転換点だという認識を示す。「当社のような動静脈を結びつけるような取り組みを日本全体に広めていくために、仕組み作りと社会実装の両面でPwCコンサルティングにはご支援いただければと思います」。

「パナソニックのリサイクル施設を見せていただいたことがあるのですが、4家電それぞれのラインが整然と整理され、最大限効率化されていることに驚きました。現在取り組まれている再生材製造や自動解体なども、資源循環モノづくりの実践事例として示唆に富むものだと思います。今後も様々な形で意見交換を重ねながら、日本の産業競争力向上に寄与していければと考えます」(齊藤氏)

齊藤三希子氏 田島章男氏 松野行壮氏 石田勝希氏
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