──宝グループは3つの異なる事業で、国内外での存在感を強めています。それら3つの事業の特徴と強み、その背景について教えてください。
木村睦氏:宝グループの歴史は、1842(天保13)年、京都・伏見での酒造業を起源としています。宝グループの代表的商品と言えば、「宝焼酎」「タカラ焼酎ハイボール」「松竹梅」や「タカラ本みりん」を思い浮かべる方が多いかもしれません。それらを製造・販売しているのが、国内事業を担う宝酒造です。
宝酒造は、醸造(日本酒など)・蒸留(焼酎など)に大別される酒造りにおいて、いずれも高い技術力と実績を有しています。その強みを基に、日本酒、焼酎、チューハイといった「和酒」から、本みりんをはじめとする「和」の調味料、また中国酒やウイスキーなどの輸入酒まで、幅広いカテゴリーの商品を手掛けています。
そして、日本酒、焼酎、みりんの各カテゴリーでは国内で高いシェアを誇り、スパークリング日本酒「澪」など、海外でも人気の高い強いブランドを有していることも、同社の強みです。
一方、現在の当社グループの業績を見ると、海外売上高比率が6割超を占め、国内事業を逆転しています。
そのけん引役が、海外で、酒類事業・日本食材卸事業を展開する宝酒造インターナショナルグループ(以下、宝酒造インターナショナル)です。

世界における日本食人気は、2013年の「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に象徴されるように、加速度的に広がりを見せています。当社が本格的に海外事業に乗り出したのは、そこから遡ること約30年前の1980年代、米国における日本食人気の高まりが契機となりました。
それ以前から清酒「松竹梅」の輸出を手掛けていましたが、1983年にはカリフォルニア州にTakara Sake USA Inc.(米国宝酒造)を設立し、現地での清酒製造を開始します。
現地製造した鮮度の高い清酒の提供により、事業は堅調に伸びていたものの、現地の日本食レストランで人々が寿司を食べながら依然としてビールやワインを飲む様子を見て気づいたのは、「日本のお酒(和酒)の普及スピードは、日本食浸透よりもはるかに遅い」という現実でした。
ならば、当社自身が日本食の事業を手掛け、日本食とセットで和酒を広めたほうが早い。その判断から、2010年、欧州最大の日本食材卸会社である仏・フーデックス社の株式取得を機に、海外での日本食材の卸事業に参入しました。
2017年には、海外事業の強化推進を目指し、宝酒造インターナショナルを設立。宝酒造インターナショナルが手掛ける海外日本食材卸事業は、積極的なM&Aにより構築した流通網を強みに、現在では欧州・米国・豪州に6社の主要グループ会社を擁し、日本食レストランや小売店に日本食材などを販売しています。人口減少による国内市場の縮小と、ヘルシーニーズも捉えた世界的な日本食人気の広がりを背景に、グループをけん引していく事業へと成長を遂げています。
さらに2024年、和食に続き、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのを追い風に、宝酒造とも連携しながら、海外酒類事業とセットで和酒と日本食の世界への浸透を図っています。
3つ目がバイオ事業です。バイオ事業参入の経緯は、宝酒造がビール事業から撤退し、酒造り以外の事業の柱を模索する中で、発酵技術といったリソースを生かし、1979年、国産初の遺伝子工学研究用試薬「制限酵素」を製品化したのが起点となります。2002年には持ち株会社体制に移行、宝ホールディングスの事業子会社としてタカラバイオを設立しました。
タカラバイオは、 試薬事業における幅広い商品ラインアップや、PCR技術などにより、ライフサイエンス企業としての存在感を増しています。外食産業が低迷したコロナ禍では、手掛けるPCR検査薬の需要増が他の事業の落ち込みをカバーしてくれました。
さらに、Spatial(空間解析技術)製品など、次世代の細胞解析プラットフォーム技術の発展に取り組んでいます。
このように、食とバイオ、製造業に加えて海外では流通業もという具合に、異なる領域で構成される事業ポートフォリオが、宝グループならではの特徴となっています。
──積極的な事業拡大を進める一方で、2026年度3月期の業績は4期連続の営業減益となり、前期までの「中期経営計画2025」(以下、中計2025)の目標も未達という厳しい結果となりました。その理由をどう分析しますか。
木村睦氏:中計2025(2024年3月期~2026年3月期)においては、「成⾧・強化領域への投資を加速させ、企業価値を高める3年間」を経営方針に、成⾧事業であるバイオ事業と海外日本食材卸事業を中心に積極投資を行ってきました。
しかし、中計2025の最終年度である2026年3月期は、営業利益・ROIC・ROEともに計画未達という厳しい結果で着地することとなりました。
中でもタカラバイオは、コロナ禍の最高益からの反動減、さらに米国での研究助成金の大幅削減や中国での経済不況などライフサイエンス市場の悪化といった外部環境の影響もあり、試薬事業、CDMO事業ともに計画を大きく下回り、2026年3月期業績は46億円の営業赤字となりました。
しかし、外部環境は宝グループだけの問題ではなく、本質的な課題は、先行投資型のCDMO事業における人員・設備増加に対し売り上げ成長が追いつかず、固定費が過大となった収益構造にありました。
タカラバイオが上場企業であるがゆえの制約もありましたが、親会社として投資抑制や軌道修正を促すガバナンスを効かせることができなかったのは、大きな反省点です。
また、成長事業の核に据えた宝酒造インターナショナルの海外日本食材卸事業は、売上高はM&A等により伸長したものの、インフレによる人件費、仕入れ価格高騰、トランプ関税などのコスト増により利益が伴わず、営業利益は目標数値を大きく下回る結果となりました。
海外拠点の自律性を重んじ、スピード感を持った成長投資を進めましたが、外部環境が悪化する中、原価や販管費のコントロールに対して、宝酒造インターナショナル本社がタイムリーに打ち手を講じることができなかったことが主な原因と捉えています。
宝グループは現在、ROICが3.1%とWACCや株主資本コストを大きく下回り、投資家や資本市場からの信頼が損なわれた状況にある、と指摘されてもやむを得ない危機的状況にあります。
バイオ事業と海外日本食材卸事業に描いた成長シナリオは、決して間違いではない、と今も考えています。
一方で、こうした結果を招いた原因は、事業環境が目まぐるしく変わる時代にあって、経営資源の投下方針を柔軟に見直すことができなかった、当社グループ全体のマネジメントとガバナンスの体制にあると猛省しています。これら中計2025で顕在化した課題に真正面から向き合い、持続的成長に向けた取り組みを推進し、資本市場の信頼を取り戻してまいります。
──中計2025で浮かび上がってきた課題を踏まえ、新たに策定した5年間の「中期経営計画2030」(以下、中計2030)の概略と背景について教えてください。
木村睦氏:中計2030では、収益構造の改善を第一に、最初の2年間(2027年3月期〜2028年3月期)を「体質転換/立て直し/将来への布石」、後半3年間(2029年3月期〜2031年3月期)を「成長スピード加速/将来の成長ドライバー創出」のステージと位置づけ、収益構造の改善とガバナンス改革を優先課題に、数値目標についても踏み込んだ内容を開示しています。
とくに最初の2年間の「立て直し」は、2050年のグループのありたい姿を定めた「宝グループ 長期Vision 2050」(以下、長期Vision 2050)の実現に向けたスタートラインに立つための必達のプロセスと位置づけています。
──タカラバイオの完全子会社化も実施しました。その狙いについてお聞かせください。
木村睦氏:当社グループが掲げる長期Vision 2050では、将来的にバイオテクノロジーをコアコンピタンスとし、既存の「酒類・日本食材領域」と「ライフサイエンス産業支援領域」の連携を深めながら、新規領域を含めた新たな価値創造を目指す構想を描いています。
しかし、足元ではタカラバイオの業績が想定以上に悪化し、46億円の営業赤字という厳しい局面を迎えました。事業を立て直すことが最優先の課題であり、宝グループとしてガバナンスを効かせ、経営管理の高度化と迅速な意思決定を断行するべく、2026年2月にTOB(株式公開買い付け)を発表し、6月に完全子会社化しました。
完全子会社化によって上場親子間の利益相反リスクを解消し、親会社主導で抜本的な収益構造改革を進めています。中計2030の前半2年間で約28億円の固定費を削減し、早期の黒字転換を図る計画です。具体的には、遺伝子治療の自社臨床開発プロジェクト中止やCDMO事業におけるGMP細胞加工受託からの撤退といった事業規模の縮小、さらにはタカラバイオ単体での希望退職者募集という大変厳しい決断にも踏み込みました。
私自身、タカラバイオの経営陣として2002年の分社化や上場を主導してきた立場として、上場に終止符を打つことには様々な思いがあります。しかし、たとえ痛みを伴う形であっても、環境に合わせた最適解を導き判断していくことがトップの責務です。
タカラバイオの立て直しを図り、宝グループの一体感を高める。そして、技術の進展により多様な社会課題解決への活用が期待されるバイオテクノロジーの力を既存事業へ融合させ、新たな価値を創造していく――この強固な基盤があってこそ、「バイオテクノロジーをコアコンピタンスとする長期Vision 2050」の実現へとつながっていくのです。
長期ビジョンのマイルストーンである中計2030の戦略をやり切るためにも、トップとしての覚悟を繰り返し社内外へ発信し、グループ一丸となって持続的な成長軌道を描いてまいります。
厳しい構造改革とガバナンス強化によって、変革のスタートラインに立った宝ホールディングス。 続くVol.2では、新たな決意で踏み出す同社の「成長への軌道」に迫る。長期Vision 2050の実現に向け、各事業がシナジーを結集して描き出す「攻めのロードマップ」の具体策をつまびらかにする。