不動産業を中核に多様な事業を展開する東急不動産。その取り組みについて、事業を統括する同社のユニット長に話を聞く連載企画。第3回は、日経BP 総合研究所の徳永太郎が同社 ウェルネス事業 ユニット長の丹下慎也氏に話を聞いた。
地域共生で成長する
「グローカルビジネス」
丹下さんが統括しておられるウェルネス事業とは、どんな事業でしょうか?
丹下 「人生100年時代の豊かな時間をしっかり提供していく」ことをテーマに、ホテル、リゾート、ヘルスケアの3つの事業を展開しています。
東急不動産ホールディングスは中期経営計画で、「グローカルビジネス*の拡大」を重点テーマの一つに掲げています。テーマの柱は、インバウンド需要の取り込みと観光立国の推進ですが、ウェルネス事業はこの2つの取り組みを担っています。インバウンド観光ビジネスは、国内不動産マーケットに左右されにくい事業であり、当社事業ポートフォリオで欠かせない事業としても位置付けています。
御社の「グローカルビジネス」の象徴と言えば、何と言ってもニセコですね。
丹下 はい。当社は北海道・倶知安町で「ニセコ東急 グラン・ヒラフ」というスキー場を運営していますが、冬だけでなく、オールシーズン化することで、アジアナンバーワンの国際マウンテンリゾートを目指しています。「Value up NISEKO road to 2030」というプロジェクトで、最新鋭の新ゴンドラ「エースゴンドラ」の導入をはじめ、山頂の駅舎2階から雄大な羊蹄山の眺望を味わえるレストラン「NEST813」、夏場でも楽しめるアクティビティなどを開発しています。2026年度までの3カ年で100億円以上を投資する計画です。
地元自治体との連携も強化されているとうかがっています。
丹下 倶知安町と「オールシーズン型国際リゾートの形成に関する包括連携協定書」を22年に締結しました。観光客数を増やして地域経済を盛り上げるのはもちろんのこと、料金割引など、地域住民が優待サービスを受けられるデジタル町民証明「Kutchan ID+」や、深夜まで運行する地域循環バスの運営など、行政サービスの支援も行っています。
オールシーズン化を推進
北海道倶知安町「ニセコ東急 グラン・ヒラフ」
財源はどうしているのでしょうか?
丹下 倶知安町が19年に導入した宿泊税が財源の一部になっています。宿泊料の一律2%を徴収するもので、24年の税収は6億円近くになりました。町内のホテルやリゾートに多くのお客様がいらっしゃれば、その分が地域経済の活性化や住民サービスの向上という形で地元に還元されるわけです。
新たな試みとしては、ニセコの国際的なブランディング強化の一環として、欧米で高い支持を得るアクションスポーツイベント「Swatch Nines Snow」を誘致しました。アジアでは初めての開催となります。
今後も、施設の開発にとどまらず、倶知安町や地域と連携・共創して、観光消費が地域内で循環する仕組みを作り上げ、世界の人々から選ばれ続ける観光地に磨き上げていきたいと思います。
*グローバルで起こる事業環境の変化を捉えながら、ローカル(地域)と共創し、高い付加価値を生み出すビジネス
観光客と住民の双方が
幸せになる開発に取り組む
海外では、パラオで地域共生型の開発に長年取り組んでおられますね。
丹下 パラオに現地法人を設立したのは1973年のことです。当社が掲げる「環境経営」の原点として、マングローブやサンゴ礁の保全・再生に取り組むなど、環境保全と開発の両立を目指す一方で、地域住民の雇用や人材育成を重視するなど、地域共生にも取り組んできました。
25年12月には、当社グループが運営する「パラオ パシフィック リゾート」内に、自然環境を次世代に継承する拠点として「ルーク ネイチャーセンター」という施設を設けました。エコツアーやワークショップを通して、生物多様性や環境保全について考えるきっかけを提供するとともに、同施設はパラオにおけるサステナビリティ活動の司令塔の役割も担います。
環境先進リゾート事業
国内では、ニセコの他に、どのような地域共生の取り組みがありますか。
丹下 長野県茅野市の「東急リゾートタウン蓼科」では、12年から森林経営計画に基づいてカラマツ林の定期的な保全間伐を行っています。下草を育成させることで土壌を安定させるとともに、生物多様性の保全にも貢献し、24年に環境省から「自然共生サイト」に認定されました。茅野市や地域と連携して、間伐材を活用したオリジナル商品も開発。カラマツを香料にしたクラフトビールや、枝葉から抽出したエッセンシャルオイルを使用した商品などをリゾート内の「TENOHA蓼科」で販売、循環型の地産地消を目指しています。
環境取り組み発信拠点

また、千葉県勝浦市では、藻場の保全活動に取り組んでいます。地球温暖化による海水温の上昇や、それに伴う植食性魚類の増加によって、サザエやアワビ、イセエビといった海産物の餌や棲みかとなる良質な藻場の減少が深刻化してきました。そこで25年8月に勝浦市や地域の漁業協同組合などと「勝浦市藻場保全対策協議会」を設置。藻場の保全に取り組むと同時に、駆除した植食性魚類をひき肉にしたハンバーガー「勝浦ブルーバーガー」を開発することで、地域の新たな名産品の創出も行っています。
ご当地グルメ創出

それぞれのエリアでの取り組みをお聞きして、地域との連携を重視していることが印象に残りました。
丹下 当社は「社会課題の解決」や「挑戦するDNA」 という精神を大切に事業展開してきました。今後も自治体や地域との連携を強め、新たな価値を共創することで、地域全体の持続的な成長につながる「地域共生エリアリゾート」実現を目指し、地方創生、観光立国の推進に貢献していきたいと思います。
東急不動産は国内不動産業界初のTNFDレポートを公開するなど、「環境経営」の先進的な取り組みで知られています。その原点はパラオ開発における環境保全・地域貢献にありました。同社が目指す「地域共生エリアリゾート」では地元連携を重視しています。さらには「広域渋谷圏開発」「GX」の取り組みとの連携もうかがえました。




