第1回ニューロインクルージョン委員会報告
ニューロダイバーシティ&インクルージョンフォーラムは、パートナー企業と外部有識者からなるニューロインクルージョン委員会を立ち上げた。この委員会では、ニューロダイバーシティを互いに尊重し、この違いに由来する強みを活かし合える職場づくりに貢献する指標を検討することを目的とする。なお、ニューロインクルージョンとは、ニューロダイバーシティ(神経多様性)の包摂を指す。
2025年6月16日に開催された第1回目の委員会では、まず冒頭、各委員が自己紹介を行い、委員長は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授で、ニューロダイバーシティプロジェクトを主導する石戸奈々子氏が務めることが承認された。
続いて、グッドエイジングエールズ代表の松中権氏より、LGBTQ+に関する「プライド指標」についての講演が行われた(プライド指標の関連記事)。プライド指標は、職場におけるLGBTQ+などの性的マイノリティ包摂の取り組みを評価するもの。2016年に策定されて以来、評価を受ける企業は毎年右肩上がりで増加しており、9回目の2024年は複数社連名応募を含めて968社と過去最多を記録している。
外見からは分からない点、差別や偏見の対象となりやすい点など、LGBTQ+を取り囲む環境は、ニューロダイバージェント(発達障害などの神経学的少数派)と似ている点が多く、かつ、その活動が多くの企業に受け入れられていることから、参考になる活動として話を伺うこととなった。
松中氏は、2010年にNPO法人グッドエイジングエールズを設立し、LGBTQ+の方々のためのインクルーシブな場づくりを行ってきたことをまず説明した。
2012年には「ワークイズプライド」というカンファレンスを立ち上げ、職場環境をLGBTQ+にとってインクルーシブにする取り組みを開始。当初はLGBTQ+という言葉自体の認知度が低く、企業の中でも課題として認識されていなかったものの、徐々に関心が高まり、2015年頃から指標作りが始まったという。日本の企業が中心となり、企業が具体的に行動できるガイドラインとすることを目指したという。
プライド指標は2016年に発表され、初年度は82社が参加。この指標は、企業がLGBTQ+に関してどのような取り組みを行うべきかのガイドラインとして機能し、また人事担当者の取り組みが評価される仕組みとなっている点も特徴とのこと。
そのため、プライド指標は、5つのカテゴリー(Policy、Representation、Inspiration、Development、Engagement/Empowerment)に分けられ、それぞれの達成度によってゴールド、シルバー、ブロンズの認定が行われる。日本企業の特性を考慮し、点数制ではなくチェックポイントを示し、それを達成するとゴールド・シルバー・ブロンズという認定方式を採用したことも紹介された。プライド指標は2年ごとにアップデートし、新たな課題や言葉の変化に対応していることも説明された。
2021年には「レインボー」という新たな認定も導入され、社会全体をインクルーシブにするドライバーとなる企業を表彰する仕組みも作られた。LGBTQ+のための法整備への賛同なども条件にしている。さらに2023年には企業経営者のネットワーク作りも始まり、各経済団体の支援も受けて、現在約120名の経営者が参加する。
松中氏の発表後、委員長の石戸氏の司会で質疑応答の時間が設けられた。委員からは、ニューロダイバーシティ関連の指標作成を視野に活発な質疑があった。代表的な質疑応答は以下となる。
大野氏:指標づくりに至った経緯を教えてほしい。
松中氏:企業の対応について議論している中で、様々な問い合わせが入ってきて、それを取りまとめていくうちに指標づくりの機運が高まった。
木島氏:LGBTQ+については企業内に課題感が多かったのではないか、指標づくりはそうしたトレンドをうまく捉えた結果だろうか?企業をどのように巻き込んできたのか。
松中氏:2012年の時点で企業内の課題意識はゼロだった。そこから1社1社啓発を続けていった。2015年に渋谷区でパートナーシップ制度が発表されて以来、メディアも動いてくれ、その取り組みを通じて意識が広がっていった。
市田氏:ニューロダイバーシティについても多様なニーズをどのように指標に組み込むか考えている。PRIDE指標では何か工夫はあったか。
松中氏:指標作成の際には当事者の声を聞くことを重視し、2年ごとに指標をアップデートすることで新たな課題に対応している。すべてのことをカバーすることは不可能だが、アップデートを通じて改善していくというスタンスだ。
石戸氏:指標に日本らしさを加えるという話があったが、特にどういう点が日本オリジナルな点か?
松中氏:一つは、点数をつけないという方針。点数制にしてしまうと、100点満点が取れる自信のある企業しか参加しない。加えて当初は、社名の公表を望まない企業の要望にも対応していた(現在は全社名公表)。企業が取り組みやすくなるよう、ベストプラクティスを多く紹介している。
石戸氏:ニューロダイバーシティの指標化や啓発活動を進めていくうえで、アドバイスをお願いしたい。
松中氏:とにかく色々な団体が、それぞれの立場で地道な活動を進めながら、同時に連携していく必要があると思う。これをすれば良いとか、効率が良いといった事柄は存在しないと思う。LGBTQ+の場合は、東京レインボーウイークでの連携イベントも重要だった。漫画、ドラマ、映画などエンタメの力も大きいと思う。
最後に、今後の委員会の進め方について議論された。事務局より、海外におけるニューロインク―ジョンの指標として、英国人材マネジメント協会(CIPD)が示す7つの大原則について共有された(囲み、関連記事)。次回は石戸氏らによるニューロダイバーシティアワードについての説明が行われることが決まった。各委員からは、今回の講演を踏まえ、短期、中期、長期と分けた戦略構築の必要が指摘されたため、次回の会議で論点整理を行うこととなった。
英国人材マネジメント協会(CIPD)が提唱するニューロインクルーシブな職場になるための7つの大原則
【原則1】現状を知り長期のアクションプランを考える
【原則2】ニューロダイバーシティについて安心して話せるオープンで支援的な文化を醸成する
【原則3】人材マネジメントにおけるあらゆる点でニューロダイバーシティを積極的に考慮する
【原則4】各従業員が自分のことを自分で決められるようにする
【原則5】誰もが活躍できるよう柔軟な働き方を取り入れる
【原則6】ウェルビーイングへの継続的な配慮を実践する
【原則7】当事者の声を引き出す
【ニューロインクルージョン委員会委員】
Kaien就労支援事業部法人サービス担当ゼネラルマネージャー/シニアディレクター 大野順平氏
PwCコンサルティングマネージャー 北山乃理子氏
野村総合研究所ヘルスケア・サービスコンサルティング部シニアコンサルタント 木島百合香氏
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 石戸奈々子氏
一般社団法人ニューロダイバーシティ協会代表 市田悠貴氏
いちごアセットマネジメント副社長 石塚愛氏
NPO法人えじそんくらぶ代表 高山恵子氏(欠席)
<事務局>
日経BP