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双極症II型当事者で「双極はたらくラボ」編集長の松浦秀俊氏に聞く

目指せ!双極症の人が自分らしく働ける社会

双極症II型当事者で「双極はたらくラボ」編集長の松浦秀俊氏に聞く 目指せ!双極症の人が自分らしく働ける社会

うつ病や神経発達症(発達障害)は知っていても、双極症(双極性障害)という名を聞いたことがない人は多いのではないでしょうか。昔の病名である「躁うつ病」を知っている場合は、怖い疾患とのイメージが強くはないでしょうか。双極症の実像について、双極症当事者の働く上での困りごとのヒントを届けるウェブメディア「双極はたらくラボ」編集長の松浦秀俊氏に聞きました(聞き手:日経BP 総合研究所小板橋律子)。

双極症は、一般社会ではまだあまり認知度が高くないので、双極症についてまずお聞かせください。

松浦秀俊氏(以下、松浦):双極症とは、誰にでもある気分の波が一時的なものではなく、長期間にわたって上がったり(躁・軽躁状態)、あるいは落ち込んだり(うつ状態)を繰り返す病気です。決してまれな病気ではなく、日本での統計では、発症率は100人に1人弱で、発症しやすいのは10歳代後半から20歳代といわれています。うつ病と診断された人が実は双極症だったという割合は10人に1~2人程度です。

 私自身も、21歳の時にうつ病の診断を受けましたが、振り返ってみると軽躁状態だと思われる出来事もあったので、当時、双極症を発症していたのではないかと思います。双極症と診断変更されたのが27歳で、正しい診断に行き着くまで約6年かかっています。他の当事者の方に聞いても、診断までに時間がかかっている方が多いですね。

私も双極症がありますが、最初はうつ症状に抗うつ薬が処方されました。服用したら「誰か止めて~!」というくらい活動的になってしまい、もしかしたら、これは躁転※ではないかと思い、主治医に報告し診断に至りました。医療者向けのメディアの編集部にいて「うつ症状に隠れる双極症を見落とさないように!」という記事を書いていたので気づけたのですが、そうでなければ自分でも元気になっただけと受け止めていたと思います。欧米では、発症率は2~3%、うつ病の2~3割が双極症と言われていますので、日本では正しい診断を受けていない人が多い可能性がありそうです。

※躁転:
うつ症状から躁・軽躁症状に変化すること。双極症の場合、抗うつ薬の服用で躁転することがある。躁転では、現実離れした行動を取ることがあるため、注意喚起がなされている。

松浦:双極症の難しさですよね。また、躁・軽躁状態では、病気が治ったと受け止めて、受診を中断しがちでもあります。私自身、服薬を中断して、その後、重いうつ状態に陥ったことがあります。

 その後は、定期通院と服薬を継続していますが、今考えると、あの時は、「生きていく難易度を自ら上げて、あえてハードモードを選んだようなもの」だったと感じています。治療を受けることで、難易度は下げられるということを知らなかったな、と。双極症の場合、治療を受けることは大前提です。

 私は、うつ病や双極症で離職・休職している方々の社会復帰を支援するリヴァという会社で、「双極はたらくラボ」というウェブメディアの編集長をしています。このサイトは、双極症の方が働き続けるためのヒントや気づきを提供することを目的としたものです。起ち上げた当時、双極症があると継続的な就労が難しいと一般的に言われていましたが、自分自身、この仕事を13年続けており、決してそんなことはないことを体現できているのではとも思っています。

 ただし、双極症がある場合、仕事を続ける上で、それなりに工夫が必要になります。そのヒントになればという思いで、今回、私自身の経験を一事例として紹介した書籍『ちょっとのコツでうまくいく! 躁うつの波と付き合いながら働く方法』(発行:秀和システム)を2024年9月 に発行しました。

 起業やフリーランスのように、自分のペースで仕事をするタイミングや仕事量を調整できる働き方も1つの選択肢だと思いますが、会社という組織に属する働き方を選択する場合は、どうしても自分の体調の波を仕事に合わせないといけなくなります。ただ、それでも仕事は続けられることを示したくて執筆しました。

 ある調査では、日本の双極症患者の半数弱がフルタイムで働いているというデータが出ています。われわれの調査でも同様の数字で、起業なども含めると63.6%が何かしらの仕事に就いていました。起業家の中にも双極症の方は少なくなく、一般集団と比べて11倍多いという研究報告もあります(Small Bus Econ 2019:53; 323–42.)

ADHDの特性は起業にとても向いていることを示す研究結果がありますが(「ADHDの特性は起業に必須!? ADHD起業家の研究で分かったこと」)、双極症の方も多いのですね。ADHDと双極症は合併しやすいとか、ADHDが双極症に誤診されやすい、ADHDがこじれて双極症っぽくなるなど精神科の先生にはいろいろお伺いしていますし、私自身、双極症ではなく、ADHDかもしれないと神経発達症を専門する先生に言われたこともあります。ADHDと双極症は特性が似ていると個人的には理解していましたが、起業家に多い点も共通しているというのは知りませんでした。

 さて、今回出された書籍には、双極症当事者がうまく働き続けるための提案もありますね。

松浦:仕事の予定の立て方、周囲との接し方、有休の使い方など、かなり具体的な提案をしています。これは、当事者だけでなく、職場の上司や同僚にも参考になるのではと思います。

 加えて、双極症とうまく付き合うための具体的な提案を「双極トリセツ」として紹介しています。双極症の波に振り回されないためにどうしたらいいか、自分自身が実践していることなどを紹介しています。一番大事なのは、自分自身の気分の波が大きくなる「前兆」を捉え、早めに対処することです。そうすれば、大きな波になることを回避できます。

双極症のうつ状態に「休め!」ではNG!?

会社という組織では、どんどん仕事をこなすと、さらに仕事を割り振られやすくなりますが、本人は躁・軽躁状態でこなしているだけで、体調を崩す前兆の可能性もあります。そのことが理解されると、周囲がブレーキの役割を担ってくれるかもしれませんね。また、うつ状態になった時の対処方として、「休むか働くか」の二者択一ではなく、半日だけ休む、休憩時間を増やすなどの柔軟な選択をすることも提案されています。

松浦:双極症のうつ状態は、特定の思考にとらわれがちになる、という特徴があります。そのため、特にうつのなり始めには行動を活性化する、すなわちいろいろ考えずに動くことで、かえって安定するといわれています。心理療法の一つに、気持ちが軽くなったり楽しくなったりする活動をすることで気分を改善させる「行動活性化療法」というのがあるくらいですから。「うつなら休め」というのが一般的にはまだ信じられているかもしれませんが、同じうつという症状でも、その原因によっては、逆に働いた方がいい場合もあることは知っておいてほしいですし、周囲にそのことを説明しておくことも大事ではないかと思います。

 私は、今の会社では、病気のことをオープンにしていますが、以前働いていた会社では、周囲に病気のことを知らせておらず、正直、働きにくかったです。うつ状態になって休む際は「かぜっぽいので休みます」と言わざるを得なかったですし、いつかバレるかもと怖かったです。自分を偽ることによる心理的な負担が大きかったですが、オープンにして偽らざる自分を示せるようになっただけで、心理的安全性が高まり、症状も安定しました。

 この経験を元に、来年、気分の波に翻弄され困っている方向けの就労支援事業所を起ち上げるべく準備を進めています。双極症を始め精神疾患の中でも気分の浮き沈みに困る離職中の方を対象に、自己理解を促し対処力をつけるトレーニングを提供し、障害者雇用はもちろん一般雇用も含めて、その人自身が望む働き方を支援する事業で、「双極症の人が自分らしく働ける社会の実現」を目指しています。

双極症は、正直、一般社会のイメージが悪い病気の一つですよね。浪費しやすいとか、暴力暴言があるとか。最近、編集で関わった翻訳小説『城砦』(発行:日経BP)の中にも、いきなりナイフを持って暴れた登場人物に双極症が疑われるエピソードが出てきました。約1世紀前の小説を復刊させたので仕方がないと思いつつ編集しましたが・・・・・・。

松浦:そうですね。問題行動を生じた際、その理由として双極症が報じられることが多いためかと思います。ただ、最近ではNHKのドラマ「Shrink―精神科医ヨワイー」のように、双極症が正しく取り上げられ、双極症の知名度、理解が社会に広がりつつあるとも感じています。実は、このドラマの制作過程での情報提供などのご協力とPR番組の出演をさせていただきましたが、とても丁寧に製作されていました。

 日本で最も双極症について詳しい順天堂大学医学部精神医学講座教授の加藤忠史氏は、双極症とは「本当の自分が、躁・軽躁時には増幅し、うつ状態では過少になる」と表現されていました。当事者は、この増幅と過少という波に翻弄されています。ただ、自分の中の双極症とうまく付き合っていく術はあると自分自身、気付きました。その波に時々飲まれたり、押し上げられたりしつつも、なんとか、自分なりの落ち着かせ方を身に着けて生活し仕事もしていけると信じています。

 企業の中では、気分に波があるというだけで、仕事を任せられない人と評価されるなど、双極症当事者への風当たりはあまり良くないのが現状かもしれません。しかし、私がお会いしてきた双極症の当事者は、基本的にパワーや能力がある人たちですし、仕事をしようと考える場合は、自分の中の双極症をうまくなだめられるようにすごく努力しています。その努力に理解を示し、ダイバーシティの一つとして包摂してほしいです。

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