PR

葉っぱ切り絵アーティストでADHD当事者であるリトさんに聞く

ADHDの特性を生かすために進んだアーティストの道

葉っぱ切り絵アーティストでADHD当事者であるリトさんに聞く ADHDの特性を生かすために進んだアーティストの道

葉っぱ切り絵アーティストのリトさんは、注意欠如多動症(ADHD)の特性を最大限に生かして作品作りを続けています。実はリトさんは、大学卒業後に一般企業に就職したものの、仕事がうまくいかず苦しみ、2回の転職後、アーティストとしての道に進んだという経歴を持ちます。組織の中では弱点であり、コンプレックスでもあった集中力を制作に生かしているリトさんに、これまでにたどった紆余曲折を教えてもらいました(聞き手:日経BP 総合研究所/小板橋律子)。

フォロワー60万人超えの人気アーティスト、リトさん

リトさんは、インスタグラムのフォロワーが約60万人、X(旧、ツイッター)は約20万人(2024年12月現在)とSNSで活躍し、書籍も累計30万部を突破している葉っぱ切り絵アーティストです。全国各地で展覧会を開催し、2024年6月には個人美術館「LITO LEAF ART MUSEUM FUKUSHIMA」もオープン。今たいへん注目されています。またリトさんは、注意欠如多動症(ADHD)による集中力やこだわり、発想力を前向きに生かして制作活動を続けていると公表されています。そこに至った経緯を教えてください。

リト@葉っぱ切り絵(以下、リト):自分は平凡な学生でした。勉強もスポーツもまあまあで、通知表は5段階でほぼ3という特徴のない学生だったと思います。大学卒業後に飲食チェーンに就職したのですが、仕事を始めてから、なぜかうまくいかない。同期が店長に昇進する中、いつまでも仕事を任せてもらえませんでした。飲食業は向いていないのかと考えて転職を2回ほど繰り返しましたが、やはりうまくいきませんでした。ADHDの診断を受け、転職をしても同じことになるだろうと企業での就労をあきらめ、自分の強みを生かして収入を得る道を探して、現在に至ります。

転職をあきらめたとのことでしたが、医療や福祉の支援を受けることは考えなかったのですか。

リト:もちろん考えましたよ。診断された当初はADHDの治療薬を処方され服用していました。確かに頭の中は静かになるのですが、服用したからといって仕事ができるようにはなりません。

:医師によると、ADHDの特性の一つである多動は、様々な思考が次から次へ浮かぶという脳内多動もあり、当事者の方はそれを「頭の中が賑やか」と表現することが多いとのこと。また、ADHD治療薬の服用により、脳内多動が緩和され、それを「頭の中が静かになる」と表現する当事者は多い。「頭の中を少し静かにしたい」との要望で処方の要望を受けることが多いという医師もいる。

 また、障害者枠での就職も考え、精神障害者保健福祉手帳(以下、福祉手帳)を取得してハローワークに仕事を探しに行きました。しかし、求人が少な過ぎてハローワークには頼れないと思いました。その時ですね、「自分でなんとかするしかないんだ」と強く感じたのは。それまでは、医師や役所など、誰かに頼れると思っていましたが、誰にも頼れないと思いました。

医療も福祉も頼れないと感じる中で至った逆転の発想

リト:それで、自分の力で生計を立てていく術を必死に考えましたし、勉強もしました。医学書や自己啓発本はたくさん読みましたし、他の人にはなくて自分にあるものを本気で考えました。また、そのプロセスをSNSで発信していました。同じ悩みを持つ人の共感を得られればと、という思いもありました。

 そんな中で、徐々に自分を客観視できるようになりました。そうすると、例えば、過集中のために会社では怒られていたけど、逆にこれを強みにできないか?とか、衝動的に発言してしまうので余計な一言が多くこれも怒られていましたが、発言できることをうらやましいと思う人もいるんじゃないかとかと思えるようになりました。それまでコンプレックスに感じていたことを直そうとするのではなく、逆に生かせないかと考えたのです。逆転の発想ですよね。

※過集中とは、時間を忘れて過剰に集中してしまう状態を指す。

リトさんのSNSでの発信は、ADHDについての発信が先だったのですね。

リト:そうです。SNSでADHDについて発信するかたわら、落書きのような絵を描いていました。学生の頃から、美術が特に得意というわけでもなかったのですが、過集中という自分の特性を使って、どこまで細かな絵が描けるかなどを試していました。

 すると、ADHDについての発信よりも、描いた絵を掲載したときに反応が良くて、「もしかしたら、アートを仕事にできるのではないか?」と考えるようになりました。絵は下手ですが、細かなものをたくさん書くのは好きでしたし、その頃は仕事をしていなかったので時間はたくさんあって、ボールペンでぎっしりと細かな絵を描いてみたり、粘土を使ってみたり、紙で切り絵も作ってみたりしていました。

 そんな中、葉っぱを用いた切り絵の存在を知りました。葉っぱを材料とするのであればお金がかからないということもあって、葉っぱ切り絵をスタートしました。当時、お金がなくて、材料費がほとんどかからないというのが大きかったんです。また、絵の専門的な勉強をしていないので、平面的な絵しか描けないのですが、そもそも切り絵は平面的なので、自分に向いていたのだと思います。

アーティストを目指していたわけではなく、企業という組織に所属せずに生計を立てるために切り絵を始めた、ということですか。

リト:そうです。最初は、SNSに投稿し反応を見ながら試行錯誤を繰り返しました。技術だけでは勝負できないとも思い、見る人に喜んでもらうにはどうしたらいいかを特に考えました。可愛い動物を登場させると見る人たちにも喜んでもらえるので、動物たちの作品が多くなっていきました。

ADHDの特性を制作に生かしているとのことですが、もう少し詳しく教えていただけませんか。

リト:まず、過集中です。一般的な仕事では、一つのことだけに没頭していると、他の仕事ができなくて困ります。実際、飲食チェーンで働いていた頃は、自分の作業に集中し過ぎて、周囲が忙しくしていることに気づけないなど支障がありましたが、一人で作品を作る際は、逆に強みになります。また、発想力も作品作りには役立っていると思います。自分の場合、連想ゲームのように頭の中に次々とアイデアが浮かびます。例えば、12月、クリスマス、クリスマスと言えば・・・・・・というようにです。その連想ゲームの中で、面白そうなアイデアをピックアップして作品に生かしたり、子どもの頃の思い出や日常生活からインスピレーションを得たりしています。SNSへの投稿を介して、物語性がある方が見る方に喜んでもらえると分かったので、1枚の葉っぱの切り絵の中に物語性を入れるようにもしています。

[画像のクリックで拡大表示]

ハリネズミ
大収穫大収穫♪
今夜は栗ごはんに決まりかな。
おや、ずいぶん大きな栗だ。
これもついでに拾っておこう。
[画像のクリックで拡大表示]
キミのせなか、まん丸お星さまがいっぱい!/:『葉っぱ切り絵いきものずかん』(講談社)

カメレオン
まねっこ好きなカメレオンの男の子。
今日は朝からすっかりテントウ虫さん気分で、
みんなと一緒に並んじゃいました。

リトさんの作品は、かわいいだけでなく、クスッと笑えるユーモアを感じるものが多いのですが、それはADHDの特性の一つといわれる思考の上での多動(脳内多動)から生まれているのですね。また、自己分析し、セルフプロデュースもしているのですね。葉っぱ切り絵を始めたのが2020年で、たった4年で個人美術館の開設に至ったわけで、やはり、ADHDの特性をうまく生かされているのでしょうね。

リト:実は、あのまま会社員をもう少し続けていたらうつになっていたと思っています。その前に仕事を辞めて、もう戻れないし戻りたくない、この道しかないと思って必死にやってきました。自分を信じないと心が折れそうな状態でもあったので、今日のようにインタビューでエピソードとして語れるようになると信じてやってきました。会社員の頃は、組織に所属せずに生計を立てていくなんてできるわけないと思っていましたが、今は、社会のレールから外れてもなんとかなると思えるようになりました。

 葉っぱは保存できるよう加工してあるので、美術館で実物を見ていただけます。僕の作品を見るために国内外から多くの方に来ていただける場になるといいな、というのが一つの夢です。

実物を拝見させていただくと、予想以上に細かくて驚くだけでなく、一枚一枚、微妙に色や形が異なる葉っぱと、リトさんの手で新たに加えられた物語のコラボレーションを感じます。実物を見ることができる場を喜ぶファンは多いでしょうし、実物を見てからファンになる方も多いのではと思います。最後に、ADHD当事者の方や、その周囲の方にメッセージをいただけませんか。

リト:ADHDの特性は、生涯変わりません。本人はつまらないと感じると嫌になりますし、複雑すぎると失敗するので、周囲はどう対応したらいいか分からないこともあるかもしれません。個人の経験ではありますが、その特性を生かすためには、適材適所という発想が役立つのではないかと感じています。ありがたいことに僕の家族は、僕がつらい状況だった時、それを理解し好きなことをやらせてくれました。だからこそ、今があると思っています。一例として参考にしてもらえたらうれしいです。

ニューロダイバーシティ関連記事一覧へ

TOPへ戻る