アフリカに対する大いなる誤解

 アフリカといえば、戦争や貧困や差別などの深刻な政治問題か、サハラ砂漠やサバンナやジャングルの大自然の素晴らしさか、というイメージが先行し、リアルなアフリカの素顔が伝えられる機会は限られていました。

 それがいま、アフリカの新しい側面が脚光を浴びています。
 アフリカの「経済」です。

 途上国の底辺層をBOP(ベース・オブ・ピラミッド)といいますが、アフリカでは、インフラの整備に伴い、一般の人々の生活水準が向上し、生活必需品や食品などを中心に、このBOP市場が急速に成長しつつあります。

 資源面でも、価格の高騰や掘削技術の進歩により、これまで発掘できなかった深海の石油や天然ガスが開発され、さらにはレアメタルと、希少な地下資源へのアプローチが可能となりました。

 アフリカは歴史に翻弄されてきました。

 20世紀半ばまでのヨーロッパの植民地支配から独立戦争。その後の政治的混乱。紛争や内戦。インフラの整備もままならない国がたくさんありました。学校教育の機会が奪われた国や地域もありました。医療サービスが質量ともに不足しているところも少なくありませんでした。

 近年ではアラブ文化圏の北部アフリカで、エジプトやリビア、チェニジアで独裁者が倒され、既存政権が敗退する「アラブの春」が起き、皮肉にもその影響で新たな政治的な混乱が生じました。

 マリ北部ではイスラム過激派武装勢力が実効支配を強め、旧宗主国のフランスが軍事介入を行いました。隣国のアルジェリアでは、やはりイスラム過激派によって、天然ガス施設が襲撃され、プラントの建設と運営を担っていた日本人をはじめとする他国の技術者やビジネスパーソンが命を落としました。

 最後の巨大経済市場として、前途有望なアフリカ。
 いまだにテロや内戦のリスクがある、危険なアフリカ。

 恐らく今、多くの日本人が、アフリカに対して、2つの相反するイメージを持っているかと思います。

 アフリカの経済が成長すること。
 アフリカの治安が安定すること。

 これは2つで1つ、両方同時に達成されるべき目標です。経済成長が、貧困を廃絶し、社会不安を取り除く。治安の安定が、海外からの投資を招き、経済成長を促す。どちらが止まっても、アフリカは豊かになりません。

 では、そんなアフリカにいま、そしてこれから日本は何ができるでしょうか?

 アフリカで活動するさまざまな専門家に取材し、そして私自身もアフリカの地を訪れ、これからあなたと一緒に考えていきましょう。

 その前に、アフリカに関する、おそらく多くの日本人の皆さんの頭の中にある思い込みや偏見を取り除く話をいたしましょう。今回の企画のタイトルと矛盾するようですが、なんといっても「アフリカ」をひとつの地域ととらえすぎないこと。これがいちばん重要です。

 なぜでしょう。理由は明確です。

 アフリカはいろいろな意味で、とても「大きい」のです。

 まず、土地が大きい。
 アフリカはユーラシアについで世界第2位の巨大大陸です。北米より南米より大きいのです。ヨーロッパ全土が3つ入る大きさです。

 その上、アフリカは南北に長い。赤道直下の熱帯イメージがありますが、北部アフリカは地中海に面しており、ヨーロッパと海を挟んで面しています。一方、最南端の南アフリカはオーストラリア南端と同じ緯度であり、ワインの産地であり、ペンギンが住むような土地柄です。

 日本からの位置関係でいうと北部アフリカ、たとえばアルジェリアの首都アルジェはなんと関東より北、赤道直下の中央アフリカはシンガポール、南アフリカはオーストラリアに位置することになります。

 そしてアフリカは大変に国の数が多い。
 アフリカには54もの国があります。ちなみにアジアは48カ国、ヨーロッパは50カ国。しかもそのうち16カ国が海に面していない内陸国です。

 さらに文化的に多様です。
 南北でみるとアフリカは4つの地域に分けられます。

 一番北部の地中海に面した北部アフリカ、エジプトに加えて、リビア、モロッコ、チェニジア、アルジェリアなどのマグレブ諸国は、イスラム教のアラビア語圏であり、文化的には中東圏とつながった地域です。「アラブの春」が起きたのもこちらになります。「マグレブ」とは、フランス語で「日の沈むところ」の意です。

 次にそれより南部の、サブサハラと呼ばれるスーダンやナイジェリアなどの地域。これらの国々では、北部がアラブ系民族でイスラム教を信仰し、南部がアフリカ在来民族でキリスト教と土着宗教を信仰する、という具合に国の中の文化が分断しているところが少なくありません。その結果、内戦が長引き、2011年にスーダンから南スーダンが独立するなどの動きも出ています。

 さらに赤道を挟んだ地域。ケニアやウガンダ、ルワンダなどですね。

 人類発祥の地とも近く、遺伝子的に見ても世界でもっとも多様な民族が住む地域です。そのため、かつては民族紛争が絶えませんでしたが、近年治安が安定し、急速に経済成長を見せ始めています。

 最後に南アフリカ周辺の、アフリカ南端。こちらはイギリスやオランダなどヨーロッパの植民地としての様相を最後まで残し、また気候もヨーロッパと同緯度のため多くのヨーロッパ人が住み着きました。かつては、激しい人種差別が起き、悪名高いアパルトヘイトがありましたが、こうした人種差別が撤廃された後は、経済拠点、消費拠点、貿易拠点として、アフリカ大陸随一の発展を遂げ、いち早く先進国の仲間入りをしようとしています。

 東西で見ると、サブサハラ=サハラ砂漠以南の地域は、3つに分けられます。インド洋に面し、いち早く経済成長の糸口を見つけた東海岸諸国、大西洋に面し、資源開発が始まった西海岸諸国、地勢的に欧州からもアジアからも遠く、貿易という面では不利な中央アフリカ諸国。

 どうです、アフリカがいかに「大きい」か、いかに「多様」かが、おわかりいただけたでしょう。とても「アフリカ」とひとくくりにはできません。

 この「大きさ」とこの「多様さ」がアフリカの潜在能力です。その一方で、この「大きさ」とこの「多様さ」が、近代的な発達が遅れた原因でもありました。国民国家が成立しにくい。内陸国や小国が多いため複数国家が連携しないと貿易産業が育ちにくい。宗教や民族間の対立が起きやすい-----。

 アフリカの大きさ、多様さが招いた以上のような問題点をひとつひとつを解きほぐす。

 ときには、国を越えて、複数の国を巻き込んだ地域全体で。アフリカの経済成長は、こうした取り組みが必要となります。

 そこで日本の役割です。
 アフリカの人々の雇用の創出や生活の改善には、民間企業やNGOの力が欠かせません。一方で、巨大インフラの整備や複数の国に跨る経済活性化の仕組み作りなどには、日本政府が協力するシーンも出てくるでしょう。

 アフリカのプラントの現場では、残念な事件が起きたばかりです。アルジェリアでは、日揮のエンジニアの方々10人の命が奪われました。ただ、あまり報道されていないのですが、事件の起きた地域はアルジェリアの首都アルジェからは1500キロ離れた場所であり、多くの人が暮らす地中海沿いの街や首都アルジェは平穏なのです。

 アフリカは大きい。広い。多様である。だからこそ、地域ごとにきめ細かく情報を収集し、リスク管理を怠らず、そのうえで最適な国際協力やビジネスを展開する。

 日本は歴史的に見て、アフリカ諸国とは関係が薄く、それほど目立った存在ではありませんでした。

 現在、アフリカ諸国は、ヨーロッパやアメリカから多額の援助も受け取っていますが、かつて植民地支配や奴隷など問題のため、アフリカの人々は欧米人に対して複雑な感情を抱いています。

 その点、アフリカ市場において「新参者」である日本やアジア勢は、アフリカ諸国からは、中立的ととられており、悪い印象はもたれていません。

 日本は、そうした歴史を生かし、アフリカの複雑な問題解決に貢献したり、経済成長のための政策・インフラ開発・制度作りや次世代を担う人材育成などを通じて、経済成長に寄与できる可能性があります。

 では、アフリカ経済を取り巻くさまざまな「今」をこれから探っていきます。
 連載をお読み頂ければ、あなたもアフリカ国際協力大使のひとりです。

INTRODUCTION 皆さんが思っているよりずっとアフリカは日本と近いのです 食料=農業 - 主食をつくれば、アフリカの未来がやってくる! 一番クリーンなエネルギー・地熱発電がケニアの未来を変える! ウガンダに進出したサラヤ 更家悠介社長に訊く ケニアの工場でトヨタと三菱と 軍用車が一緒に組み立てられるわけ そんなアフリカで、日本がお手伝いできることは?田中明彦JICA理事長に聞く、成長するアフリカと日本の未来
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