沓掛 クルマの機能や性能をソフトウエアによって実装し、クルマの販売後もソフトウエアのアップデートを通じて新たな価値を提供する「SDV」も、新たなトレンドに挙がっています。
中西 SDVの動きも活発ですね。私はかねがね、EVの進化とSDVの進化は完全にひも付いていると話しています。EVは当初はエンジン車をベースに開発されましたが、最近ではEV専用のプラットフォームが使われ、サプライチェーンは垂直統合化に進んでいます。2026年頃に登場するであろう第3世代のEVでは、生産方式も改められ、ラインを順に流していく従来のシリアル型から、鋳造やプレス成型などをサブラインで並行して行うパラレル・シリアル型へと進化していくでしょう。
併せて、SDVの実現に向けて、内部の電気/電子アーキテクチャの見直しが行われ、従来の分散型から一部を集約したドメイン型へ、さらには中央に高性能プロセッサを置いて各ゾーンを高速なネットワークで結ぶゾーン(ゾーナル)型へと進化していくと見込まれています。
沓掛 スマートフォンとそのアプリにもたとえられるSDVは、どういったメリットをもたらすとお考えですか。
中西 SDVは視点を変えると「SDX」ともいえて、ソフトウエアを通じてクルマがエネルギーや社会インフラなど色々な「X」とつながっていく可能性を秘めています。サービスの創出を含めて大きな事業チャンスがあるわけですが、SDV化の流れに乗り遅れたのでは勝負の土俵に上がれませんから、第3世代EVが登場すると見込まれる2026年までに、SDVのレベル3相当の機能を備えたクルマを市場に投入する必要があるでしょう。
沓掛 アナログ・デバイセズは、SDVにおける車載ネットワークのエッジ通信に最適なEthernet 10Base-T1S 「E²B™」をはじめ映像伝送バス「GMSL™(ギガビット・マルチメディア・シリアルリンク)」、音声信号バス「A²B™(オートモーティブ・オーディオ・バス)」といった豊富な車載ネットワーク・ソリューションを持っています。統合制御用プロセッサに安定した低ノイズの電源を供給するパワー・マネージメントIC、そしてEVに不可欠なバッテリの充電、およびその健康状態を監視するためのバッテリ・マネージメント・ソリューションを展開しています。またロードノイズ・キャンセレーションを実現するための統合ソリューションを提案するなど、エッジ・ノードのインテリジェント化をリードすることを目指しています。
クルマの電子化・電動化が進むにつれて搭載される半導体デバイスの種類や数はさらに増えていくことは確実で、旺盛な需要に応えるために、大々的な投資を行って生産能力の増強に努めているほか、同じデバイスを複数のファブで生産することで、安定供給に向けた取り組みも進めています。
中西 感染症や地政学的な問題もあり、サプライチェーンの組み直しは避けられません。持続的なサプライチェーンを構築するためにも、おっしゃる通り生産の二重化は、自動車メーカーやサプライヤからみて安心できる取り組みだと思いますね。
沓掛 市場の中心が中国にシフトしつつ、メーカーとサプライヤの関係、サプライチェーン、生産方式、車載ソフトウエアなども変化していくとのご指摘がありました。日本の自動車産業を取り巻く環境がさらに厳しくなっているともいえますが、どうあるべきだと思いますか。
中西 日本の自動車メーカーやサプライヤは、既存のビジネスを守りながら、EV専業メーカーと伍するクルマを開発し市場展開していかなければなりません。新しいクルマやサービスを作っていくには、何よりも意思決定や開発のスピードが重要であり、デジタル・ネイティブである若い世代の発想を取り込むことや、自動車業界にはない視点を持った異業種と連携することが不可欠です。かつての日本車で成功体験を積んだベテラン世代が社内の抵抗勢力になってはいけないんです。まずは第3世代のEVが登場すると見込まれる2026年を見据えて、市場の「チャレンジャー」として覚悟を持って取り組んでほしいです。
沓掛 当社としても、半導体デバイスを単体で売るのではなく、ソフトウエアやシステムをパッケージ化したターンキー的なソリューションや、エネルギー効率を高めるソリューションを通じて、脱炭素社会の実現に少しでも貢献しながら、日本のお客様をしっかりとサポートしていきたいと考えています。
中西 半導体メーカーの技術開発と適切な供給がなければ未来のクルマは設計できないんですね。貴社の役割もますます重要になってくると思います。
沓掛 本日は貴重なお話をありがとうございました。