Ethernet TSNは、一般的なイーサネットとの互換性を維持しながら、産業用に求められるリアルタイム性や定時性を「OSI参照モデル」におけるレイヤー2とその上位レイヤーに追加した標準規格だ。
「メーカーが独自に拡張した既存の産業用イーサネットは相互運用性がありません。そこで業界として標準化を進めることで、10年以上を掛けて開発した標準規格がEthernet TSNです。当社も長年にわたって標準化活動に携わってきました」(石井氏)
アナログ・デバイセズはEthernet TSN対応スイッチ・デバイスとして「ADIN6310」(6ポート)および「ADIN3310」(3ポート)を開発した。単一の規格ではなく複数の規格で構成されるEthernet TSNにおいて、およそ10種類の規格に準拠しているのが特長である。具体的には、時刻同期の基本仕様であるIEEE 802.1AS-2020の他、タイムセンシティブ・ブリッジングIEEE 802.1Qの各種規格、および冗長化を実現するIEEE 802.1CBなどだ。
「一部の規格のみ対応したソリューションが多い中で、当社は複数の規格に準拠しており、業界をリードしていると考えています」と、石井氏は説明する。
PHYとしては「ADIN1300」(1Gbps)と「ADIN1200」(100Mbps)が用意される。IEC 61000-4やEN55032などの各種EMC規格に適合しているため、ノイズの多い環境でも堅牢性を維持できる。ADIN6310またはADIN3310にPHYを組み合わせた評価ボードも提供中だ。
他方、SPEはアクチュエータやセンサーなどの接続を対象にした物理層だ。フィールドバス、HART、アナログ信号やデジタル信号などの置き換えに適している。
2芯ケーブルで接続できるため、ケーブルコストの削減や配線の簡素化が図れる他、画像伝送にも対応できるデータレートの確保、ノイズ耐性やセキュリティ性の向上、10BASE-T1Lの場合で最長1000mの接続が可能、化学プラントなどでも使える防爆対応といったメリットが得られる。シリアル通信分類プロトコル(SCCP)に対応したSPoE PSEコントローラ「LTC4296-1」とSPoE PDコントローラ「LTC9111」を使用して最大60W(防爆環境では500mW)の電力供給も可能だ。
アナログ・デバイセズでは、SPE規格の一つである10BASE-T1Lのソリューションとして、MAC内蔵マイコン向けのPHYデバイス「ADIN1100」、マイコン側にMACが不要でIEEE 1588時刻同期にも対応したMAC/PHYデバイス「ADIN1110」、およびデイジーチェーン接続も可能な10BASE-T1Lスイッチ「ADIN2111」を提供している。いずれも最長で1700mの伝送が可能である。
25mの間で8ノード以上のマルチドロップが可能な10BASE-T1S用のソリューションとしては、MAC/PHY「AD3306」と、車載用途にも適したトランシーバ「AD3300/3301/3304/3305」(E²B™:Ethernet to Edge Bus)を提供する。
SPEはセンサーやアクチュエータなどのメーカーにとっても重要になると石井氏は補足する。「EUでは2027年12月以降はサイバーレジリエンス法(CRA)を満たさない製品の販売ができなくなると見込まれていて、製品開発にセキュリティ・バイ・デザインの考え方を導入するなどの対応が必要です。SPEを使ってエッジ製品をイーサネット化すれば、従来のインターフェースに比べて、セキュリティを確保しやすくなると考えられます」。
アナログ・デバイセズの産業用ネットワークに関する取り組みについて、石井氏は、「当社は2016年から産業イーサネット用マルチプロトコルのソリューションを展開し、2020年には『ADI Chronous™(クロノス)』というブランドも立ち上げました(図2)。堅牢性を高めるノイズ対策技術、PHYに不可欠なA/DコンバータやD/Aコンバータ技術など、創業から60年の中で培ってきたアナログ技術を盛り込んでいることが強みの一つと考えています」と訴求する。
同社はEthernet TSNやSPEのソリューションを制御機器メーカーやセンサー機器メーカーなどに提案して、産業用ネットワークの変革を後押しするとともに、標準化活動にも引き続き貢献していく考えだ。
なお2025年7月2日に刈谷市産業振興センター、7月9日に東京都立産業貿易センターにて催される「産業オープンネット展2025」に出展を予定しており、ここで説明したEthernet TSNやSPEのソリューションに触れられる機会になるだろう。