──SDVのメリットや技術的な課題をどのように捉えているか、改めてお聞かせください。
野村 エンドユーザーのお客様にとっては、クルマの機能を継続的にアップデートできる点や、自分好みにパーソナライズできる点が主なメリットです。
ただしSDVを実現するには、今まで車内に分散していた種々の機能をセントラルECUに集約させなければなりません。これは想像以上に複雑で膨大な作業になるため、これまでとは協調領域の考え方を変え、自動車業界が一丸となって取り組まなければなりません。先ほど述べたJASPAR APIも、その覚悟で開発を進めています。ひいては、個社都合を乗り越えて、これまでのレガシーのアーキテクチャから、いかに共通的な中央集権型のアーキテクチャに持ち込めるかが試されるポイントだと思っています。
また、JASPARの次世代高速LANワーキンググループの副主査の立場でお話をすると、ゾーンの構成法も重要な課題です。SDV界隈ではセントラルECUへの機能集約に目が向きがちですが、セントラルと対になるゾーンの構成法も同じくらい重要です。ネットワーク技術を駆使して、ゾーンやエッジデバイス群を研ぎ澄まされた神経網にしていかなければなりません。SDVの実現には、ゾーンとセントラルを同時並行で考えていく必要があります。
谷島 センサーやカメラなどのエッジデバイスをどう接続するか、さらにはそれらのエッジをどう抽象化、共通化するかは、我々半導体ベンダーの役割の一つです。技術的には、センサーなどの接続に適した軽量なコネクティビティと、カメラをつなぐ高速大容量なコネクティビティの両方が少なくとも必要と考えています。
野村 私は前職でネットワーク機器の開発に携わっていたので、ソフトウエア・デファインドと聞くとまずSDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーク)を思い浮かべます。ベンダーごとに異なるネットワーク機器の設定を抽象化、共通化して、どのベンダーの機器でも同じインタフェースで制御できることを目指したのがSDNです。そうした考え方をクルマに当てはめたときに、谷島さんも言われたように、エッジデバイスやゾーンをいかに抽象化、共通化して、セントラルから同じ言語でコントロールできるかがSDV実現の肝になると思います。
──アナログ・デバイセズはSDV向けにどのようなコネクティビティ・ソリューションを提供しているのでしょうか。
谷島 エッジ向けのコネクティビティとしては、オーディオ信号の伝送やアクティブ・ノイズキャンセリングなどに最適なA²B™(Audio Bus)、センサーなどの出力を車載イーサネットの標準規格10BASE-T1Sで伝送するE²B™(Ethernet to Edge Bus)を提供しています。加えて、カメラ映像を伝送する高速大容量のGMSL™(Gigabit Multimedia Serial Link)は、既に多くの市販車に搭載されています。
GMSLは元々当社の独自技術ですが、より広いスタンダードにしていくべきと考え、2025年6月に業界およそ20社とともに「OpenGMSL Association(OGA)」という標準化団体を設立しました。今後はオープンなテクノロジーとしてOGAが仕様の公開や規格の開発を進めていくことになります。
野村 まさにオープンなテクノロジーとしての進化と繁栄を体現したのがイーサネットだと思います。車載をはじめ、万能と言って良いぐらい幅広いユースケースに適応し、今も進化し続けています。圧倒的な市場規模を背景に、安価で、どこからでも入手できる理想的な姿です。究極的にはその姿を目指すべきで、そこにチャレンジするOGAの取り組みはご英断だと思いますし、自動車業界の活性化につながることを期待しています。
谷島 ありがとうございます。GMSLの規格開発は既にアナログ・デバイセズの手を離れていて、今後はOGAが定めた仕様に則ってオープンな市場環境の中で競争しながらソリューションを開発していく計画です。
──SDV時代に向けた今後の取り組みを教えてください。
野村 最初にお話したように、JASPARは来るSDV時代に向けて活動のアップデートを進めています。これまでは外部に情報をあまり出してきませんでしたが、今期は自動車関連の展示会に初めてブースを出展して、我々の活動成果を多くの来場者の皆様に見ていただきました。セミナーなどのイベントも検討中です。これまで以上に多くの企業にJASPARの活動に興味を持っていただきたいと思っていますし、日本のSDV開発を推進する原動力として、力をお借りしたいと考えています。
谷島 先日JASPARで開催されたワーキングループの活動報告会に参加して、SDV関連技術に対する会員各社の関心の高さを改めて実感しました。正会員となった今、ハードウエアに関連するHAL(ハードウエア抽象化層)やデバイスドライバなどのソフトウエアの提供を通じてビークルAPIワーキングループの活動にも貢献していきたいと考えていて、当社の欧米のチームも交えながら検討を進めています。SDVに最適な半導体ソリューションのさらなる拡充に努めていきます。