アナログ・デバイセズ Vol.2 「移ごこちデザイン」が示すクルマの未来 移動体験に新たな価値を次世代車が追求する快適性とは

SDVを加速する仮想化技術

──快適性においても注目したいのが、ソフトウエアがクルマの価値に貢献するSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)です。取り組みを教えてください。

水山 SDVの実現には、ソフトウエアをクルマごとに作り込むのではなく、車種や世代を超えて共通化を図り、発展させていかなければなりません。そのためには、ハードウエアの互換性を維持することも重要です。そこで、ハードウエアの機能をクラウド上の仮想空間で実装し、その中でソフトウエアを開発する、という仕組みを2018年頃から構築してきました。仮想空間で互換性が確認できれば、それを現実のハードウエアに落とし込めば良いわけです。

 こうした仕組みにおいてチョークポイント(戦略上の急所)とも言えるのが、ハードウエアの仮想化です。そこで当社は、「VirtIO(バート アイオー)」と呼ぶ仮想化技術の車載適応版をオープンソースとして公開し、業界全体での利活用と標準化の推進を進めています。

沓掛 仮想空間と現実のハードウエアでは、その間にもギャップが生じると思うのですが、その点はどのように考えればいいのでしょうか。

水山 動作タイミングなどは当然異なりますので、最終段階では現実のハードウエアを使った検証はもちろん必要です。ただし、現実のハードウエアを使ったとしても、あらゆるタイミング条件を検証することは難しいわけです。一方、仮想環境であれば、莫大なコンピューティングパワーを使ってさまざまなタイミングを再現してテストすることができますので、逆に品質を高められるという考えになります。

沓掛 なるほど、すごく腹落ちしました。なお、標準化やエコシステムがますます重要というお話は当社も同じ認識で、2025年7月に車載電子制御システムの標準化や共通利用を促進する一般社団法人JASPARに正会員として加盟しました。JASPARではSDVを含め標準化活動が進められていますので、半導体ベンダーとしてハードウエア寄りのデバイスドライバからミドルウエア、アプリケーションに近い各種アルゴリズムまで広範なソフトウエアを提供することで貢献していきたいと考えています。

 また、映像の伝送インターフェースとして多くの自動車メーカーやサプライヤに採用されている当社開発のGMSL™(Gigabit Multimedia Serial Link)に関しては、2025年6月に「OpenGMSL Association(OGA)」という業界団体を設立し、オープンな規格として提供しています。

水山 インターフェース仕様を標準化して、さらに抽象度高くアクセスできるようになれば、アプリケーションソフトウエアのエコシステムが一気に発展していきます。その意味でも、今後のOGAの活動にはとても期待しています。

変革が進む車載ネットワーク

──SDV化によって、車載ネットワークも大きく変わると言われています。

沓掛 クルマは、機能ごとに多くのECUを置くこれまでの構成から、高性能なコンピュータを中央に置くゾーン・アーキテクチャに進化していくと見込まれています。また、カメラやセンサーの搭載数が劇的に増えているため、大量のデータを信頼性高く伝送する仕組みも必要です。

 アナログ・デバイセズは、快適性を高める手段として広がりつつあるノイズキャンセリングやパーソナルな音場制御に最適なA²B™(Audio Bus)、ADASや自動運転を支えるセンサーやアクチュエータの接続に最適なE²B™(Ethernet to Edge Bus)、さらにはビデオ伝送用のGMSLなどの車載ネットワークソリューションを通じて、こうした課題の解決を提案しています。加えて、ノイズキャンセリングのアルゴリズムなど、ソフトウエアの提供にも取り組んでいます。

水山 「移ごこちデザイン」の実現にあたって、車載ネットワークは基本的なビルディングブロックとして非常に重要です。車室に配置したセンサー、アクチュエータ、ディスプレイなどをリーズナブルなコストで結ばなくてはなりませんし、性能やリアルタイム性も必要です。アナログ・デバイセズのソリューションは制御信号も伝送できるなど技術的にも優れており、当社のビジョンの実現には不可欠と考えています。

──最後に今後の展望をお聞かせください。

水山 「移ごこちデザイン」のコンセプトを通じて、自動車メーカーそれぞれの世界観を具現化したいというのが当社の想いです。こうした取り組みを進める上でも、製品の提供だけではなく技術を発展させて業界に貢献されようとしているアナログ・デバイセズにはこれからも期待しています。ビジョンを実現する上で、ハードウエアはどうあるべきか、といった議論もぜひ一緒に進められると嬉しいです。

沓掛 こちらこそ、よろしくお願いいたします。お客様がビジョンに辿り着くためにいかに貢献できるかが、アナログ・デバイセズの価値だと考えています。快適性という新たなトレンドの中、半導体デバイスの提供にとどまらず、ソフトウエアなどの提供も通じて、快適性の追求や「移ごこちデザイン」の具現化に少しでも協力できれば嬉しく思います。