
ServiceNowのIT Service Managementはノーコード・ローコード開発に対応しており、あらかじめ用意された“パーツ”を組み合わせ、必要な設定をするだけで、簡単にポータルやアプリケーションが開発できるのも大きな特徴だ。三井物産のITサービス用従業員ポータルが開発開始からわずか3カ月で本稼働したのは、このようにアジャイル開発に適したソリューションであったからだと言える。
下田氏は、「FAQや各ITソリューションのマニュアルといったコンテンツはあらかじめ整備されていたので、その窓口をワンポータルに統合する作業だけで済みました。その点でも開発にはさほど手間がかからなかったのですが、ポータルを使いやすくすることについては、かなりの時間をかけ、試行錯誤を重ねました」と語る。
「ユーザーエクスペリエンス改革」を使命とする同室にとって、従業員ポータルに限らず、あらゆるソリューションやサービスのUI/UXを最適化することは重要なテーマだ。そのために同室は、今回の導入プロジェクトと並行して「UI/UXガイドライン」を作成しており、従業員ポータルのデザイン作りにおいても、このガイドラインの内容が反映された。
例えば、従業員ポータルのホームページには、前述したように、中央に検索窓があり、その下に左から「FAQを見る」「申請をする」「パスワードリセット」「問い合わせをする」というボタンが並んでいる。
これは、知りたいことがあったら、まずは自分で調べてみる(検索)。次に、よくある質問を見てみる(FAQ)。それでも分からなかったら、問い合わせてみる、という行動を促すための配置だという。
「人間の視線は、上から下へ、左から右へと流れます。その順序に検索窓やボタンを配置することで、まずは課題の自己解決を試みてもらい、どうしても分からないときだけ問い合わせボタンを押してもらうという動線を作ったのです」と下田氏は説明する。
自己解決ができれば、わざわざ問い合わせをする時間が減るので、従業員の業務効率は上がり、一方で問い合わせに対応するサポートデスクの負担も軽減される。まさに一石二鳥である。下田氏は、「まだ本稼働して間もないので、定量的な効果は測定できていませんが、今後は前年同月比で問い合わせ件数が減っていくことを期待しています」と語る。
使いやすい工夫や、誘導の仕掛けを盛り込んで従業員ポータルをデザインする作業は、顧客向けのウェブサイトのデザインに通じるものがある。ユーザーエクスペリエンス改革室にとって、それまで手掛けたことのない作業であったが、「より良いUI/UXのあり方を考える上で、非常に勉強になりました」と下田氏は振り返る。
今後も、定期的なユーザー(従業員)へのアンケートによってデザインや使い勝手の改良を重ね、より良いポータルに進化させていく方針だ。
さらに、ServiceNowのプラットフォームに搭載されているデジタルワークフローの機能を使って、ポータルで受け付けた問い合わせや申請が自動処理される仕組みも構築したいと考えている。
例えば、現在の従業員ポータルには、パソコンやスマートフォンといった機器の手配やソフトウエアのインストールなどを申請するボタンが設けられているが、これをクリックしても、申請のためのページが開くだけで、申請の受理から手配、配布に至るまでのプロセスが自動的に動くわけではない。
「ServiceNowのプラットフォームに搭載されているデジタルワークフローの機能を使えば、これらのプロセスがすべて自動化し、従来はマニュアルで対応していたスタッフの業務負荷が大幅に軽減されます。自動化を実現するには、資産管理台帳やライセンス管理台帳の整備など、いくつかの課題を克服する必要がありますが、22年3月期中には何とか実現したいと考えています」(下田氏)
また、今後はITサービスだけでなく、その他の業務についてもServiceNowのプラットフォームを活用して業務プロセスの自動化を進めることを検討しているという。
「そもそも、数あるソリューションの中からServiceNowを選定したのは、ITサービスに限らず、幅広い業務に適用できるソリューションだったからです。三井物産が進めるDX戦略に役立つと判断すれば、業務の垣根を越えて積極的に採り入れていきたいと思っています」と下田氏は語る。
最後に下田氏は、ServiceNowの導入を検討している企業に対し、「当社は従業員ポータルの構築からスタートしました。同じようにまずは小さく始めて、効果を確かめながらスケールアップしていくのが望ましいのではないでしょうか」とアドバイスした。
小さな変革でも、積み重ねればやがて大きな成果につながる。三井物産のDX戦略は、着実にその成果を実らせているようだ。