
第一三共がServiceNowのソリューションを最初に導入したのは16年のことである。同社がDX推進ユニットを立ち上げ、本格的にDXを始動する4年も前から活用が始まっていた。ビジネスで使用するITインフラやハードウェア、アプリケーションなどの運用を維持管理するためのソリューションである「IT Service Management」を採用したのが、そもそも始まりであった。
その導入経緯について、「14年ごろから事業のグローバル化が本格化し、複数のリージョンをまたいで使用されるアプリケーションなどが増えてきたことから、ITサービス管理・ヘルプデスクもグローバルに行う必要性が生じました。体制はそのままに、プロセスとツールの標準化の実現に対応できるいくつかのソリューションを検討した中から、最もふさわしいと判断してServiceNowのIT Service Managementを選定したのです」と振り返るのは、同社 DX企画部 主幹の山光由佳氏である。
ServiceNowのIT Service Managementを導入するまで、第一三共におけるITサービス管理は各リージョンが行っていた。それぞれの目的や用途に応じてアプリケーションなどを導入しているので、その管理もリージョンごとにバラバラだったのだ。
しかし、「がん領域の新薬の研究開発など、リージョンをまたいで取り組むプロジェクトが増え、それに使用するアプリケーションも複数のリージョンに導入されるようになりました。このようなグローバルで使用するアプリケーションの管理は一本化したほうが合理的なので、そうしたアプリケーションに限定してITサービス管理を統合する方向で各リージョンと合意しました」と山光氏は説明する。
ソリューションの選定は、第一三共の中でもとくに事業規模の大きな米国とヨーロッパ、そして本社のある日本の3拠点が共同で行った。グローバルで使用するソリューションのため、国や文化の違いを超えて受け入れられやすいものを主要リージョンの合議によって選ぶことにしたのである。
こうして日米欧の3拠点が最終的に選んだのが、ServiceNowのIT Service Managementであった。山光氏はその選定理由として、「グローバルに利用できるという当社の要求を満たしていることに加え、ServiceNowのプラットフォームやソリューションが世界的に高い評価を受けていること、開発から実装に至るまでの支援体制が整っていること、高い品質を求められる製薬業界の規制事項に対応できることなどが、大きな決め手となりました」と明かす。
こうして、ServiceNowのIT Service Managementを基盤にグローバルなITサービス管理体制を構築することは決定した。しかし、その上でどのような管理プロセスを回すのか、サービスメニューはどのように構成するのかといったことは、3拠点の中で意見が分かれたそうだ。
「グローバルなITサービス管理が目的なので、すべてのリージョンを統合した『グローバルワンインスタンス』(グローバルで一元化されたプラットフォーム)で運用することは合意できました。しかしプロセスやメニューについては、各リージョンが慣れ親しんできたやり方に合わせてほしいといった要望がぶつかり、意見を集約するのが容易ではありませんでした」と山光氏は明かす。
その調整役として、第一三共が高く評価したのはServiceNowがプロジェクトに派遣したエンゲージメントマネジャーの存在だ。IT Service Managementの機能を最大限に引き出せるプロセス構築やメニューづくりの知見を持ち合わせた上で、3拠点の要望に客観的な立場から耳を傾け、開発ベンダーのプロジェクトチームと共にグローバル全体が満足できる最大公約数の解決策を提案した。
「エンゲージメントマネジャーがプロジェクト全体をうまくコントロールしてくれたことが、滞りなく稼働に漕ぎ着けられた要因の一つだと思います」と山光氏は語る。
第一三共のグローバルなITサービス管理基盤は16年に整備された。ただし、この基盤によって管理するのはあくまでもグローバルで使用されるアプリケーションのみで、各リージョンが独自に使用するアプリケーションについては、それぞれが個別のプラットフォームで管理することにした。
「いずれリージョンごとのITサービス管理もServiceNowによるグローバルワンインスタンスに統合したいと考えていたのですが、グローバルとローカルを同時に統合することはハードルが高いので、まずはグローバルで使用するアプリケーションから管理を統合したのです」と山光氏は説明する。
その後、同社は各リージョンのアプリケーションについても順次プラットフォームを統合することを決定した。ServiceNowによるグローバルワンインスタンスの基盤上でリージョン固有のアプリケーション管理も運用することにしたのだ。
そしてこの際にも、リージョンごとの利害調整を行わざるを得なくなる状況が再び発生した。