
各リージョンのITサービス管理をServiceNowのプラットフォームに統合するに当たって問題となったのは、リージョンの運用に合わせたプロセス変更要望などが、グローバルの運用領域に影響を及ぼしかねないのではないかということだった。
「ローカルのITサービス管理としても使っていくと各リージョンからの要望が増えます。それによってグローバルのプラットフォームに影響が出ないように3極でその都度、調整を図っていく必要があります」(山光氏)
あるリージョンからの変更内容が日本サイドでの常識では考えられないほど突拍子もないものだったことがあるという。各リージョンからのアイデアや要望が出てきた際、グローバル全体として運用の安定性を優先して、リージョンからの要求は跳ね返すこともできる。しかし山光氏は、「むしろその要望を取り入れれば、グローバルのプロセスの大変革に結びつくかもしれないと思いました。リージョンで実現したいことをグローバルの領域でも取り入れる方向で検討を行い、3極で合意して採否を決めていきました」と語る。
ビジネスをグローバルに展開する上で、リージョンからの要求をあまり聞き入れず、ヘッドクォーターとしての方針を一方的に押し付けるやり方もあるが、第一三共のアプローチは全く逆である。
上杉氏は、「何度も話し合いを重ね、リージョンごとの主体性と、グローバル全体としての整合性との折り合いをつけながら、結果的に全体としての変革が進むようなアプローチを実践しています」と説明する。
これこそが、第一三共ならではの“グローバルDXの流儀”と言えそうだ。
ServiceNowのIT Service Managementを利用してグローバルなITサービス管理体制を構築した第一三共は、さらなるステップとして、より広範囲な業務でServiceNowの活用を始めている。
ServiceNowは、IT Service Managementの他にも、IT投資プロジェクトなどを管理するStrategic Portfolio Management、人事サービスを効率化するHR Service Deliveryなど、業務に応じた様々なソリューションを提供している。
これらのソリューションは、いずれも「Now Platform」と呼ばれるServiceNow独自のデジタルプラットフォーム上で動くため、IT Service Managementでこのプラットフォームを利用している第一三共は、他のソリューションも容易に導入できるのだ。
山光氏は、「すでにグローバルワンインスタンスが構築されているので、グローバル全体でも、リージョンごとでも、新しいソリューションを比較的短期間で導入できる環境は整っています。実際、20年には米国が先行してHR Service Deliveryをリージョン利用として導入しました」と語る。
またグローバルにおいては、世界のがん事業を統括する部門が21年に発足したことを受け、リージョンをまたぐ承認申請のためのワークフローをServiceNowのApp Engineで開発した。
冒頭にも述べたように、同社はここ数年、がん領域の研究開発を強化しており、グローバルでの事業体制を強化するため、リージョンを超えた新たな事業部門を設けた。それに伴って、承認申請のフローもリージョンをまたぐようになり、そのためのツールが急きょ必要となった。そこで着目したのが、ノーコード・ローコードでアプリケーション開発できるServiceNowのApp Engineであった。
「すでにグローバルのプラットフォームは整っていますし、App Engineを使用すれば開発も短期間で済みます。開発ベンダーの尽力もあり、結果的に、わずか4カ月ほどで稼働させることができました」(山光氏)
この他、同社はServiceNowのStrategic Portfolio Managementを使って、グローバル全体のIT投資プロジェクトを管理する仕組みづくりも進めている。現在は各リージョンの投資計画や予算申請をスプレッドシートなどで管理しているが、DX推進の本格化とともに案件が増加し、手作業によるグローバルでの取りまとめは困難である。
各リージョンからの申請を自動的に取りまとめ、ステータスまで確認できるStrategic Portfolio Managementの導入によって、業務は格段に効率化しそうだ。
最後に上杉氏は、「ServiceNowは、開発の簡便性や、グローバル共通で使えるUX(ユーザーエクスペリエンス)の高さなど、DX推進のためのプラットフォームとして理想的な条件をいくつも備えています。当社はITサービス管理の領域から使い始めましたが、より幅広い業務や、お客様へのサービスにも利用の可能性を視野に入れて、DXをさらに加速させていきます」と抱負を語った。