日経ビジネス電子版 Special

内側を磨くことで従業員に巡る好循環 人事DXが資生堂を内面から強くする

アジャイル開発によって
短期間での実装を実現

 プロジェクトチームには、資生堂の人事部、資生堂アステック、資生堂インタラクティブビューティーの精鋭スタッフが結集。休業や退職といった申請カテゴリごとに小グループを編成し、それぞれの申請の特徴に応じたプロセスや、最適なUI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザー体験)などを検討していくことにした。

 「最初に決めたのは、デジタル化する申請カテゴリや、デジタル化を適用する会社の優先順位です。900種類以上もある申請書類のすべてを一気に置き換えることは不可能なので、それらの申請書類の統廃合も検討しながら、利用頻度が高く着手しやすいものから段階的にデジタル化していきました」と田村氏は説明する。

 また、なるべく多くの従業員に、できるだけ早く効果を実感してもらいたいということで、デジタル化を適用する会社は、オフィスワークが多い事業所とし、まずは資生堂本社と研究所。アステックをスタートし、次に最大ボリュームである資生堂ジャパンに展開し、その後段階的に他のグループ会社にも広げていくことにしたのである。

 実際の開発では、小グループごとに、人事部と資生堂アステックのメンバーが申請内容に応じた要件定義を行い、それに基づいて資生堂インタラクティブのメンバーがモックアップを制作。実際に動かしてみて改良点を洗い出し、修正を加えるという作業を繰り返した。

 いわゆるアジャイル開発であるが、「ServiceNowのHR Service Deliveryはノーコード・ローコードに対応しており、出来上がったモックアップはITの専門知識がない人でもイメージしやすい形に仕上がるので、スピーディに修正を繰り返すことができます。おかげで、開発は非常にスピーディに進みました」と鈴木氏は振り返る。

 その結果、21年5月には1万3000人もの従業員に向けた人事サービスのデジタル申請が正式にスタートした。まだ、申請できるメニューは限定的ではあるが、今後少しずつ増やしていく計画だ。

 また、「他のグループ会社についても、22年中にはすべて適用させる計画で開発作業を続けています」と田村氏は説明する。

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ServiceNowのHR Service Deliveryを基盤として開発した資生堂の人事サービス申請用ポータル。申請カテゴリやアイテムごとに、ボタンが分かりやすく整理されている。

マニュアルは一切不要
申請作業が格段に効率化

 すでにデジタル申請がスタートしている資生堂本社と資生堂ジャパンの従業員からは、反響が届いているという。

 「わざわざ紙を取り寄せて記入する必要がなく、手持ちのパソコンやスマートフォンで空いた時間に申請できるので、ビューティーコンサルタントを中心に『とても便利になった』という声をもらっています。コロナ禍によって在宅勤務にシフトした従業員からも、『申請に印鑑をもらうために、わざわざオフィスに行かなくて済むのが助かる』といった感想が寄せられています」(鈴木氏)

 また、紙の申請書では、氏名や所属部署といった情報をいちいち書き込まなければならないが、「HR Service Deliveryは人事マスタと連携させることができるので、社員番号を入力すれば、プロフィール情報はマスタから呼び出して自動登録されます。申請書やマニュアルを検索する時間、記入する時間も大幅に削減され、紙の申請と比べて1申請当たり平均約60分は削減されました。おかげで、『申請作業が格段に楽になった』という従業員も大勢います」と鈴木氏は語る。

※紙とHRSDにおける1申請当たりのシステム登録までの差分

 デジタル化によって、むしろ手続きや操作が面倒になるのではないかと考える人もいるが、そもそもHR Service DeliveryはUI/UXが非常に優れているので、初めて使う人でも、ほとんど迷うことなく申請が行える。

 「誰でも簡単に使えると思ったので、あえてマニュアルは作らず、事前トレーニングも一切行わない状態で導入しました。それでも、人事部には従業員からの問い合わせがほとんどありませんので、問題なく使いこなせているのではないかと思います」(田村氏)

 申請を処理する人事部や資生堂アステックの業務負荷も、大幅に軽減されたようだ。

 田村氏は、「従来、各部門・事業所の承認が必要な申請については、申請書類をいったん人事部が中間チェックしていたのですが、デジタル化によってこのプロセスが省略され、担当者1人当たり月間40時間分の作業が削減されました」と語る。

 また、申請のデジタル化によって、誤記入によるやり直し工数の削減、受け渡し・保管時の紛失リスクの削減、申請書統合による申請書数の削減などのメリットも生じているという。

 資生堂は今後の展開として、HR Service Deliveryを他のシステムと連携させることも検討している。

 渡邉氏は、「例えば、現在はHR Service Deliveryと給与計算システムがバラバラに運用されており、HR Service Deliveryが管理する休業などの情報は、給与計算システムに手入力しています。ServiceNowの強みであるシステム連携・自動化に着手して、2つが連携すれば入力作業が自動化されるので、ぜひ実現したいですね」と構想を明かした。

 申請業務のデジタル化によって従業員体験の向上と業務の効率化を実現した資生堂は、それに満足することなく、さらなる改善を求め続けているようだ。

HR Service Delivery インテリジェントなワークフローにより従業員のサービスエクスペリエンスを簡素化することで、生産性を改善します。
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