
「『使いにくい』というのが率直な感想でした。自分が『使いやすい』と思えるようなIT環境をなるべく早く実現するため、スピードを上げて改革に取り組んでいます」
黒澤氏は自身が指揮を執るUCCグループのデジタル変革について、そんな思いを明かした。
外資系企業を中心に、25年以上にわたってエンタープライズITの構築・運用に携わってきた黒澤氏は、19年9月、UCCホールディングスの経営陣に嘱望されて同社の執行役員CISOとなった。
「肩書はCISO(最高情報セキュリティ責任者)ですが、実質的に情報システム基盤を統括するCIO(最高情報責任者)と、デジタル改革を担うCDO(最高デジタル責任者)の役割も兼ねています。つまり、『UCCグループの変革をIT・デジタルの力で加速させてほしい』と経営陣に託されました」(黒澤氏)
UCCグループの社内ITは、主にシステム子会社のユーコット・インフォテクノが構築・運用を受託しているが、黒澤氏は同社の代表取締役社長も務めることになった。
「ユーコットのミッションは、UCCグループのビジネス課題をITで解決すること。その一環としてグローバルで使えるプラットフォームを構築しIT環境を整備する必要がありました」と黒澤氏は振り返る。
黒澤氏が目指したのは、とにかく『使い勝手の良いIT』である。その当時、例えば部下から上がってきた稟議や申請を社外で承認する場合、いったんパソコンを立ち上げ、VPNに接続し、社内システムの承認フロー画面を開かないと処理ができなかった。何度もパスワードを入力し、いくつもの操作をしなければならないのが非常に面倒である。
「最新のデジタルソリューションであれば、インターネットに常時つながっているタブレット端末で稟議や申請をチェックし、そのままボタン一つで承認が完了するという便利な仕組みが作れます。そんな仕組みにどんどん置き換えていこうと考えました」(黒澤氏)
インターネットセントリックで、クラウドファースト、モバイルファーストなIT環境の実現。それが、黒澤氏が思い描く理想像であった。
UCCグループのIT環境刷新プロジェクトは20年1月に正式に始動。手始めに足回りのネットワークからVPNをなくし、インターネットとSaaSを使って、社外にいてもオフィスにいるのと同じように業務が行えるゼロトラスト・ネットワーク環境を整えるところから始まった。テレワークを可能にするための環境整備だ。
その翌月には新型コロナウイルス感染症が拡大し、4月には初の緊急事態宣言が発出されている。「偶然とはいえ、多くの社員が在宅勤務せざるを得ない状況に追い込まれたことが、取り組みに拍車を掛けることになりました」と黒澤氏は振り返る。
UCCグループは、クラウドファーストなIT環境を実現するソリューションとして、様々な最新デジタル技術でワークスタイルを大きく変革するServiceNowを導入した。
そもそも黒澤氏がServiceNowに興味を抱いたのは、社内で利用されているいくつものアプリケーションを、1つのプラットフォームに統合できる点に魅力を感じたからだ。
「ユーザーがシステムを利用する際に、用途ごとに違うシステムの様々な入力画面操作を覚えるのは面倒ですし、作業効率も悪い。その点ServiceNowなら、ServiceNowをハブにしたシステム連携が容易に作成できるため、ServiceNowに入力画面を統一していくことができます。効率が上がるだけでなく、ユーザーエクスペリエンスも高まるので、『使いやすいIT環境を目指す』という目的にかなっていると思いました」(黒澤氏)
また、ServiceNowはJavaScriptで開発ができるため、黒澤氏は「クセのないプラットフォーム」だと感じたという。また、ローコード・ノーコード開発にも対応していることから、様々なアプリケーションが簡単に作れ、ITエンジニアを使って開発をする際に汎用性が高そうだと評価したことも選定のポイントとなった。
黒澤氏は、導入に当たってServiceNowのデモをいくつも見た。その中で、ServiceNowを使って開発したポータルのデザインが非常に優れていることに感銘を受けた。
「ひと言で言うと、シンプルでとてもカッコいいという印象でした。常々、当社のグループポータルはあまりデザインが良くないと感じていたので、手始めにポータルを改善するところから利用してみてはどうかと考えました。何かを変えるときには、ユーザーが『おおっ!』と驚くほど劇的に変えたほうが効果は大きい。ServiceNowのポータルを見たときには、まさにその効果が期待できると感じました」と黒澤氏は説明する。
従来のUCCグループのポータルは、各事業会社がいろいろな情報を詰め込みすぎて、関係のない情報も多く、どこに何があるのか分からない状態であった。
「旧来のグループポータルは見た目の印象が雑然としていて、欲しい情報を探すのが困難でした。もっとすっきりして使いやすいポータルにするため、各事業会社の担当者と話し合いを重ねて不要な情報を削り落としました」と明かすのは、グループポータルのリニューアルを担当したユーコット・インフォテクノ ICT & デジタル本部 UXデザイン マネージャーの大森晋介氏である。
大森氏が率いるUXデザインは、文字通り従業員のユーザーエクスペリエンスを向上させるために新設された部署だ。「どんなにシステムを新しくしても、使い勝手が悪くて利活用されないのでは意味がありません。ユーザーエクスペリエンスもしっかりデザインする必要があります」と大森氏は説明する。
UXデザインによって20年9月に刷新されたグループポータルは、見違えるほどシンプル、かつ洗練されたデザインに生まれ変わった。
黒澤氏は、「従業員が見た瞬間に『すいぶん変わったな』と驚くようなデザインにしました。何事もすぐに実感できるぐらい劇的に変えないと、その良さが伝わらないからです」と語る。
このように、目に見える変化が起こったことで、従業員のユーザーエクスペリエンス改善に対する欲求も次第に高まっていった。まだ変わっていないシステムも、どんどん変えていくべきだというチェンジマインドが起こったのである。そうした従業員の意識の変化が、UCCグループのデジタル改革を加速させることになった。