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「管理職クライシス」を招くメカニズムとは
5つのキーワードが示す「管理職になりたくない理由」

「最近の若手社員や中堅社員からよく聞くのは『管理職は罰ゲーム』という言葉です。『あんなの無理ゲーでしょ?』とひどい表現をする人も珍しくありません」とリードクリエイトの吉田卓氏は語る。つまり、管理職という「ゲーム」に参加するのはありえないとの感覚が当たり前になっているということだ。「実態を見ると、その感覚は正しいと言わざるを得ません」と吉田氏は続ける。

株式会社リードクリエイト
常務取締役
吉田 卓 氏

「人手不足が加速しているのに、取り組むべきことは増えています。新たな価値創造へのチャレンジをしていない企業はありません。上下左右から降り注ぐさまざまな課題に、いったい誰が対応するのか。『それはもちろん管理職でしょう?』となるわけです。管理職のタスクは積み上がり続けて、決して引き算されません。なのに、問題が起きると『管理職が悪い』となる。組織内の“多重債務者”となってしまっているのが、今の中間管理職のリアルです」(吉田氏)

株式会社リードクリエイト
常務取締役
吉田 卓 氏

一昔前はそうではなかった。「出世」がビジネスパーソンにとっての重要なキーワードであり、管理職になることがある種のステータスだったことは確かだ。なぜその価値観は真逆になってしまったのか。吉田氏は、時代の変化とともに管理職を取り巻く環境が大きく変わったことが要因だと分析する。そのキーワードが、以下の5つだ。

「管理職クライシスのメカニズムは、この5つのキーワードで説明できます。まず①の『無自覚な「パラドックス地獄」』。現在、多くの企業は『変革と挑戦』を謳っています。現状と違うことにチャレンジせよと号令をかける一方で、コーポレートガバナンスは厳格化され、コンプライアンスの圧力は増しているのです」(吉田氏)

中間管理職は、このジレンマを一手に引き受けているため、②の「メンバーへの心理的拒絶感」が生まれる。コンプライアンスの圧力が高まる中で、無難に接しようという意識が働くからだ。ハラスメントへ過度な注目が集まっているのも、そうした意識を助長する。

「属性の多様化が進んだ影響も大きいでしょう。Z世代からベテランまで、さまざまな属性を持つメンバーを束ねるのは大変です。しかも今は、『年上の部下』だけでなく『元上司の部下』も多くなりました。大きな負荷を感じている中間管理職は増えています」(吉田氏)

そうなると、メンバーにタスクを割り振るのにも気を遣う。「仕方がないから自分でやろう」となってしまう。分業化や働き方改革が進んでいるのも、そうした心理に拍車をかける。前述のように、積み上がった管理職のタスクが引き算できなくなるのはこのためだ。

「さらに、オンラインシフトの加速で、主に3つの隠れたコアコミュニケーションが失われています。同じ職場で働くことで感じられる『気配』のコミュニケーション、会議の前後5分での何気ない雑談で関係が深まる『隙間』のコミュニケーション、他のメンバーや管理職が話している内容を間接的に聞くことで生まれる『偶発』のコミュニケーション。さまざまなジレンマを抱え、多くのタスクを抱えたうえにこうしたコアコミュニケーションが失われたことが、中間管理職を追い詰めていると感じます」(吉田氏)

ミドルマネジャーが育ち、
活躍している企業の共通点

中間管理職を追い詰めると何が起こるのか。まず、冒頭の「罰ゲーム」「無理ゲー」発言に象徴されるように、若手・中堅社員が意欲を持てない。「ああはなりたくないという気持ちが、次世代にしこりを残すことを危惧している」と吉田氏は話す。

「これからミドルマネジャーになるという人材に長年接してきて感じることですが、いざ管理職を任せられれば、責務の重圧を担いながらも生き生きと活躍しているビジネスパーソンは存在します。でも、先ほど述べた5つのキーワードに象徴される現状は、一過性のものではなく、むしろ年々深刻化・肥大化しています。今後、『管理職クライシス』が誰の目にも明らかなくらい進むと、ミドルマネジャーのなり手がいなくなり、組織が立ち行かなくなる可能性は十分あると見ています」(吉田氏)

企業内におけるミドル層の厚さを考慮すると、そのタイミングは決して遠くない。吉田氏は「5年後に組織がガタガタになってもおかしくありません。今のうちにミドルマネジャーが生き生きと活躍できる環境を整え、育成の仕組みを構築していく必要があります」と声を強める。

具体的にはどうすればよいのか。吉田氏に、ミドルマネジャーが活躍している企業の共通点を聞いたところ、「①言語化」「②準備期間」「③目利きの多面性」「④建設的な分業」「⑤上司教育」の5つをポイントとして挙げた。

「ミドルマネジャーが活躍している企業は、まずしっかりとした『言語化』ができています。すなわち、その企業における管理職の役割や、求められるスキルと能力といったことをきちんと伝えています。逆にそうではない企業は、ビッグワードで終わらせてしまいがちです。『リーダーシップを発揮せよ』、『マネジメントが大事』、『コミュニケーションをもっと活性化して』といった具合で、これらは何も言っていないのと同じです」(吉田氏)

そうした上滑りの言葉では、期待が伝わるはずもない。加えて、役割が言語化されていないということは、あやふやな人選のもとになると吉田氏は指摘する。

「どんなコンピテンシーが必要な役職なのかを明確にしないと、昇進・昇格の基準も曖昧になりますし、育成体系も固めようがありません。管理職の定義が曖昧なままだと、あらゆる人事制度が曖昧になり、組織が脆弱化します」(吉田氏)

準備期間のなさも問題だという。「そもそも、多くの企業で管理職の要件を伝えるのは、昇格試験や管理職研修のときです。いきなり伝えられて、管理職としての能力を発揮できるわけがありません。能力開発というのは、少なくとも3年から5年をかけて行うものです」と吉田氏。問題は、ミドルマネジャーだけでなく、すべての階層で同様のプロセスを踏んでいることにある。部長になってから、役員になってから何をするべきか学んでも遅いのは言うまでもない。

「新入社員のときから『わが社の管理職の役割』を伝えてもいいとすら私は思っています。そうすることで、適性もわかるようになりますし、組織としての目利きもできるようになります。残念ながら、管理職の人選ミスは他の施策でなかなかカバーできません。メンバーにも大きな影響が出ます。『名選手、名監督にあらず』といわれますが、プレイヤーとして優秀でも管理職に適していない人材はいるものです。ミドルマネジャーが活躍している企業は、そうした目利きにシビアであることが共通しています」(吉田氏)

そういう組織は「建設的な分業」と「上司教育」も重視しているという。「建設的な分業」とは、事業や経営戦略と、メンバー育成・職場活性の担当を分けるなど、ヒトとコトのマネジメントを別々にすることを指す。すべてをバランスよくこなせるマネジメント人材が希少であることを踏まえ、マネジャーとして活躍しやすい環境を整えるということだ。また、「上司教育」も並行して行うことは、継続的な管理職教育の重要性を組織に浸透させるとともに、アッパー層も常に言語化の能力開発を行うという効果も期待できる。

「健全な評価」で目利き力を高めることが
継続的な成長支援につながる

この5つのポイントの中で、とりわけ重要なのはやはり「目利き」だろう。吉田氏は「一面的な評価だけだと目利き力は高められない」と話す。

「典型的なのが営業成績です。業績につながる成果は高評価につながりやすいですが、必ずしもマネジャーに適している人材とは限りません。私は『目利きの多面性が重要』と申し上げていますが、パフォーマンスだけでなく、ポテンシャルを含めたさまざまなアセスメントを組み合わせて判断することが重要です」(吉田氏)

これを自社だけで行うのは決して簡単ではない。客観性と公平性を担保するのが困難だからだ。長年にわたって同じ人事評価制度や管理職昇格基準を用いている場合はなおさらだろう。リードクリエイトは、そうした自社だけでは解決が難しい状況に伴走し、「目利きの多面性」を支えてきた。

「長年培ってきたノウハウで、個々のリーダーとしての能力や将来価値を高精度で測定できるのが、リードクリエイトの強みです。しかし、それだけで活躍するミドルマネジャーを育成できるわけではありません。なぜなら、個々の社内における価値は、やはり社内でないと見極められないからです。双方の評価を組み合わせて、その企業における管理職の役割と照らし合わせたうえで人選することが重要です」(吉田氏)

実際、リードクリエイトのアセスメントによる評価と、企業における評価でギャップが出ることも少なくないが、吉田氏は「どちらが正解で、どちらが間違っているかは問題ではない」と説明する。

「大切なのは、全く異なる角度から見た評価結果を組み合わせることです。その結果、抽出されるインサイトを適切に読み解き、意味付けをしてお伝えするのがリードクリエイトの最大の提供価値だと思っています」(吉田氏)

そうやって良質な揺らぎをもたらし、より最適な人事施策や育成施策につなげるプロセスに伴走することで、本質的なマネジメントの実現を支えたいと吉田氏は力を込める。

「管理職という名称に問題があると個人的に感じていますが、『管理』という概念が先行する限り、管理職クライシスの状況は好転しないと思うのです。上下関係である以上、メンバーに対する心理的な拒絶感から解放されませんし、タスクの多重化から抜けられません。一人ひとりの能力を引き出し、最大化できる組織にするためにも、ミドルマネジャーの役割を見直していただきたいですし、そのためのお手伝いを全力でさせていただきたいと思っています」(吉田氏)

マネジャーは「管理者」ではなく、「カタリスト(触媒)」であるべきだと語る吉田氏。そうなれば、組織も窮屈な上下構造ではなく、マネジャーを起点とした円状のつながりが自在に広がり、エンパワーメントを持続的に機能させることも可能になるだろう。そうした協創が競争力の向上を支え、持続的な成長を実現させていくのではないか。

その第一歩として、普段何気なく使っている「管理する」「部下」「やらせる」「させる」などの言葉を新しい概念に置き換えることから始めると良いのかもしれない、と吉田氏は指摘する。「概念はその組織の思考と行動を司る」からだ。

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