「守りのIT」から「攻めのIT」へ

グローバル全体のシステム変革に挑む日産自動車

EA活動のベースとなる
システム情報の収集と鮮度維持の難しさ

日産自動車が取り組むエンタープライズアーキテクチャーの活動は、例えるなら「都市計画図」に応じた街づくりのようなものだ。

「まず、エンタープライズ全体のグランドデザイン(都市計画図)を描き、それらを構成するシステム(建物)を部門ごと、拠点ごとに構築するのです。その際、システムの設計手法やアーキテクチャー、ユーザインターフェース等(建物の高さや色)をそろえ、作り方も極力統一することで、アーキテクチャー全体としての一体感を実現していきます」と蓬澤氏は語る。

エンタープライズアーキテクチャーの活動により、情報システム部門で開発しているアプリケーションの標準化と可視化が進み、部門全体としての管理ができるようになってきた。一方で、クラウドやSaaSの流れにより情報システム部門を取り巻く環境も変わってきた。

「クラウドの活用が始まった2018年ごろから、各部門や拠点ごとのアプリケーション開発が進み、ガバナンスを利かせるのが困難になりました」と明かすのは、グローバルエンタープライズアーキテクチャー部 主管で、チーフISアーキテクトの氏家尚之氏である。

氏家氏
日産自動車株式会社
グローバルデジタルプラットフォーム本部
ITインフラストラクチャー、
デジタルワークプレース&
エンタープライズアーキテクチャー部
主管
チーフISアーキテクト
氏家 尚之
日産自動車に入社後、システム開発部署にて各ビジネスドメインのBA/SAを経験後、インドの情報システム拠点に駐在。帰任後、エンタープライズアーキテクチャー部署にてアーキテクチャーの標準化・最適化活動や部門横断でのモダナイゼーション活動などを推進。

クラウドのサービスを活用すれば、各部門や拠点は、社内で情報システム部門が管理しているデータセンターやサーバを使わなくても自分たちの使いたいアプリを外部に構築することが可能になる。

「その結果、情報システム部門の目の届かないシステムやアプリが増えることにつながり、どの部門がどんなシステムを使っているのか、そのシステムはどんなビジネスにひもづいているのかといったことを把握する作業が、非常に煩雑になってしまいました。そのため、情報システム部門だけでなく各部門が保有している資産を可視化し、標準化していくことが必要だと考えました」と氏家氏は振り返る。

グローバルエンタープライズアーキテクチャー部は当初、各部門や拠点が開発・利用しているシステムやアプリの状況をスプレッドシートのやり取りによって把握していた。

「しかし、全世界の部門や拠点からメールに添付して送られてくるスプレッドシートのデータは、整理するだけでも大変で、内容が変更されるたびに整理したデータを1件ずつ修正するのもひと苦労でした」と語るのは、同部 アシスタントマネージャーのタナセガラン・スバナ氏だ。

スバナ氏
日産自動車株式会社
グローバルデジタルプラットフォーム本部
ITインフラストラクチャー、
デジタルワークプレース&エンタープライズアーキテクチャー部
アシスタントマネージャー
タナセガラン・スバナ
日産自動車に2020年3月に入社。グローバルでの社内標準技術の選定やアプリケーションポートフォリオマネジメントの推進を行う。社内のアプリケーション担当、ベンダ、オフショアセンタと連携し、標準プロセスとツールの構築に貢献する。

すべての部門や拠点からデータを集め、最新の状況にアップデートするまでには3カ月ほどの時間がかかっていた。氏家氏は、「最新のシステム利用状況を報告してほしいと上層部から言われてもすぐに対応できず、スプレッドシートの内容を手作業でまとめた報告では、情報の精度が粗いことにも課題を感じていました」と語る。

アプリケーションのレポジトリを
簡易スクラッチ版から
ServiceNowを活用した新システムに入れ替え

そこでグローバルエンタープライズアーキテクチャー部は2019年、プライベートクラウドを基盤として、各部門、拠点が利用するシステムやアプリの情報が収集できるシステムをスクラッチ開発した。

スプレッドシートなどによるデータ収集の仕組みをこのシステムに置き換えた結果、作業効率やデータの精度は格段に向上した。

「スプレッドシートにまとめて報告していたものが、システムの画面上に入力するだけで済むようになったので、各部門や拠点の業務が大幅に省力化され、私たちも非常に効率的に取りまとめられるようになりました」とスバナ氏は語る。

ただ、このスクラッチ開発システムでは、レポーティングや外部システムとの連携が、とても複雑だった。また、ビジネス部門で動いているアプリの一覧を作成するのもカスタマイズが必要で、開発工数がかかっていたという。

上記課題の解決のため、スクラッチ開発のシステムをリリースしてからわずか2年後の2021年、新しいシステムへと入れ替えた。ServiceNowのEnterprise Architectureを基盤とするシステムである。

なぜ、スクラッチ開発したシステムを、たった2年で新しいシステムに置き換えたのか? それは、ServiceNowのプラットフォームに組み込まれているCMDB(構成管理データベース)が、各部門・拠点のシステムやアプリの管理を行う上で非常に有効だと判断したからだ。

「CMDBがあれば、どの部門や拠点が、どのようなシステムを導入し、運用しているのか。それらのシステムがどのビジネスとひもづいているのかといった基本的な情報が自動的に収集されます。構成内容が更新されれば、その情報もリアルタイムにアップデートされるので、いちいち報告を受けて修正する手間が省け、常に最新の状況が正確に把握できるようになるのです。業務効率が格段に効率化し、データ精度も向上することが分かったので、システムを置き換えることにしました」と氏家氏は明かす。

そもそも日産自動車は、別の用途でServiceNowを導入しており、そのプラットフォームに組み込まれているCMDBを利用すれば、各部門・拠点のシステムやアプリの管理も効率化できると判断したのが、置き換えのきっかけだった。「せっかく導入済みの機能を、もっと活かさない手はないと考えました」と蓬澤氏は振り返る。

また、スバナ氏は「スクラッチ開発したシステムは、各部門・拠点のシステムがどのビジネスにひもづいているのかという関係性まで見ることはできなかったので、それを可能にするServiceNowを基盤としたシステムのほうが好ましいと判断しました」と語る。