
グロービス
2023/4/25
伊藤忠商事には、20年ほど前にキャリアカウンセラーが今後のキャリアの相談に乗ってくれるキャリアカウンセリング室を創設するなど他社に先駆けて、社員のキャリア開発に取り組んできた歴史がある。
「ビジネス環境の変化のスピードが増す中で、社員の価値観も変容してきました。エンゲージメントサーベイでも世代ごとの違いが見えてきています。とくに若手社員は、主体的なキャリア形成や自己実現への要望が非常に高まってきているのです。こうした価値観を会社としてしっかりと受け止め、どのように対応していくかという課題感がありました」と伊藤忠人事総務サービス グローバル人材開発部 部長の林哲生氏は語る。

伊藤忠商事では、入社して最初の8年間を教育期間として位置づけている。その間、グループ会社への出向や海外勤務なども含め、実務の幅広い経験を積む。いわゆるOJT(On the Job Training)でビジネスの力を伸ばしてもらい、足りない部分を研修で補完するというのがこれまでのやり方であった。またこれまでは、一度配属される部門が決まると、その部門で伊藤忠商事の生活を全うするパターンが多かった。
「ただこれでは、自らキャリアを形成していきたいという若手社員の価値観に応えることができません。とはいえ、自分でチャレンジして別のビジネスに取り組めるチャンスが増えたとしても、基礎的なスキルを身に付けていないと難しいですよね。1つの領域を掘り下げていくことも、もちろん必要ですが、体系的に幅広い知識を習得する機会を提供することも重要だと感じていました」(林氏)
これらの課題に対応するために、伊藤忠商事が導入したのが、グロービスが提供する、必要なスキルを1科目(3カ月)から学べるスクール型研修の「GMS(グロービス・マネジメント・スクール)」だ。導入を決めた理由を、林氏は次のように語る。
「ビジネスパーソン向けのコースを持つ大学のプログラムなどと比較しましたが、GMSはビジネスの実務経験を持った講師陣が、理論を交えながら、ビジネス現場でどう活用していけばいいのかを教えてくれるのが大きな魅力でした。また、プログラムが体系的に整理されており、講義スケジュールがフレキシブルな点も良かったです。時間の変更がすぐできますし、オンラインでも受講できるため、時差のある海外駐在員も参加できます。こうしたことをトータルで考え、導入を決めました」
また、GMSの導入のきっかけになった要因として、優秀な若手・中堅社員をいち早く抜てきしていきたいという考えもあったという。
「伊藤忠商事は企業理念である『三方よし』を実践するための企業行動指針として『ひとりの商人、無数の使命』という言葉を掲げています。社員全員が、マーケットインの発想、つまり求められるものを、求める人に、求められる形でお届けできる『商人』として活躍しなければなりません。なので、特別なエリート教育をするわけではなく、全員に活躍の機会を与えたいと思っています。こうした学びの機会を提供することで、伊藤忠商事ならば成長できると思ってもらい、エンゲージメントの向上につながることを期待しています」(林氏)
ひとりの商人として、顧客と商売を作っていくのが伊藤忠商事の成長スタイル。これまでは、マーケティングや経営戦略なども、商売をしながらOJTで学んできた。しかし、配属先で習得できるスキルは人によって違う。そこでGMSのように自分の学びたいことが学びたいときに学べる環境が重要だったという。キャリア観が多様化する中で、会社から一律に学びをお仕着せするのではなく、自律的に学び続ける意欲のある社員を支援していきたいという思いがあった。
今回は、希望者が手を挙げて受講する公募制とした。この新しい制度を社内に浸透させるために、様々な工夫をしたという。
「ただ、アナウンスしただけでは広がらないと思い、会社が抱えている課題感やそれに対する打ち手などをストーリーとしてまとめ、動画にして伝えました。また、若手・中堅層の上司にも理解してもらう必要があったため、マネジメントの役割の大切さなどを伝えるセッションを別に実施するなどしました」と林氏は語る。
一方で、こうした様々な課題に対し、グロービス側はどのような貢献ができると考えたのだろうか。グロービス・コーポレート・エデュケーション 法人営業チーム シニア・アソシエイトの近藤健人氏は次のように語る。
「伊藤忠商事様は、カンパニーが多岐にわたるため、専門的なスキルや知識を学んでもらうとなると、キリがありません。そこで、カンパニー横断で分野が異なっても生かせる体系的なスキルを習得する部分では、貢献できるのではないかと考えました。また、伊藤忠商事様が目指す自律的な学習やキャリアの自律を実現するためには『健全な危機意識』の醸成が重要な要素の一つと考えています。様々な業種業態、年齢の人が集まり、他流試合ができる『GMS』なら、もっと学びたい、もっと成長しなければという気持ちが生まれやすい環境が提供できるとも思いました」
こうして2022年の秋に1回目を公募したところ、約100人もの社員から応募があった。さらに、23年の1月に公募した2回目も約70人もの応募があったという。こうした結果を受けて、どのような手応えを感じているのだろうか。
「まだ始めたばかりなので、実際に社員に変化が出てくるのはこれからでしょう。ただ、会社としては、若手・中堅社員が主体的、自律的に学べる環境の整備は進んだと思っています。グロービスさんには不明点に対してクイックレスポンスでフォローいただきました。常に伴走いただいている感覚があり、心細さはありませんでしたね」(林氏)

こうした公募制では、なかなか手が挙がらない企業が多い中、伊藤忠商事の受講希望者が多い要因を近藤氏は次のように見る。
「事務局の皆様が、制度の社内浸透に非常に積極的に取り組んでいたのがまず何よりも大きいです。それ以外では2つの要因があると考えています。1つは、伊藤忠商事様が総合商社であるという点です。若いうちからダイナミックな事業に関わることも多く、上流ビジネスに対応する体系的なスキルが求められるため、社員の皆様の感度が高いのだと思います。そしてもう一つが、若手・中堅社員が対象であった点です。30代の受講者がメインとなるため、キャリアについて考えている時期と合致したことも大きかったのではないでしょうか」
配属された部署でのOJT中心の学びから、自分でキャリアを選択しチャンスを広げるための学びへと改革を進めた伊藤忠商事。今後の人材育成について、どのような展望を持っているのだろうか。
「社員一人ひとりの自律的に学び続ける意欲に対し、継続的な支援を提供したいと思っています。成長に応じた学習機会と、実際の業務経験の両輪を回していくことが重要です。社員一人ひとりが世の中に存在する無数の使命を果たす商人として活躍し、お客様目線で価値を提供する。そんな力を身に付け、高めることができる環境を構築していきたいです」と林氏は語る。
グロービスとしても、今後も継続してサポートしていく予定だ。
「伊藤忠商事様が置かれている環境の変化や、大きな時代の流れを的確に捉えながら、サポートしていくことが重要だと考えています。エンゲージメントの向上や若手のキャリア形成への対応などは、近年、多くの企業にとって大きな課題となっています。そうした課題に柔軟に対応できるソリューション提供を目指しています」と近藤氏は語った。
