
グロービス
2025/1/16
清水建設は1804年創業、220年の歴史を誇るゼネコン大手だ。平安神宮や東京大学安田講堂など、施工を手掛けた名建築には枚挙にいとまがない。
2019年に策定した長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」では「スマートイノベーションカンパニー」を目指すことをうたい、これを基にした「中期経営計画〈2024-2026〉」で、「挑戦し共創する多様な人財」の育成を打ち出した。同社人事部人財開発グループのグループ長を務める上原俊夫氏は、この点についてこう説明する。
「当社の強みは、依頼された建物を完成させるという明確な目標を完遂する技術力や総合力です。しかし、中計策定を進める中で、与えられた課題で100点満点を出すだけでは不十分だという議論が出てきました。イノベーションを起こすには、従来の発想を超えて幅広く力を結集していく必要があり、社内外の枠にとらわれず新たな価値創造に取り組める人財を育成しようという思いを込めて、『挑戦し共創する多様な人財』という言葉を中計に盛り込みました」(上原氏)

同社では、これまでも階層別研修や会社側が選抜する形での研修など、様々な研修制度は整備してきたというが、社員が自主的に参加するスタイルの研修は前例が少なかったという。同社人事部人財開発グループで研修の企画運営を担当する石井愛氏も、「自律的な学びの意識が醸成できていなかったのが課題でした」と語る。
企業側が用意する研修は、業務に必要なプログラムとなるため、どうしても画一的になりがちだ。こうした研修のあり方が、自律的な意識の醸成を阻害している面もあるだろう。グロービスの法人営業チームでシニア・アカウント・エグゼクティブを務める髙橋伸太郎氏もそうしたニーズを感じると語る。
「多くの企業様でキャリアの複線化が進んでいるので、OJTをはじめとする従来の研修に自律性を前提とした能力開発を組み合わせていくのが今後重要になってくると考えています」(髙橋氏)
清水建設の上原氏は、自律的なキャリア形成の重要性について、採用も含めた人財の多様化をポイントに挙げる。
「新卒一括採用だけでなくキャリア採用が当たり前になって、バックグラウンドの違う社員が増えています。従来の階層別のプログラムで組織基盤を築きつつ、自律的なキャリア形成も支援していくという、両輪での人財育成が必要になってきていると考えています」(上原氏)
清水建設が「挑戦し共創する多様な人財」の育成を進めるために導入したのが、グロービスの「グロービス・マネジメント・スクール(以下、GMS)」だ。GMSは挙手制で3カ月間・全6回のプログラムに参加する研修だが、単に座学で研修を受けるだけでなく、ケースメソッド形式による学びと職場での実践を繰り返すのが特徴となっている。また、1つのクラスには1社から3人までの参加としているため、多様性のあるクラス編成で学ぶことにもなる。清水建設にとっては、これも導入理由の一つだったという。
「従来は、社外の人と交流するスタイルの研修が少なかったため、社内ではなく業界内でも自分のレベルを測る機会があまりありませんでした。イノベーションを生むには社内外にとらわれない人のつながりが必要ということもあり、いわば他流試合のような形で外部に目を向けてほしいという思いがありました」(石井氏)

グロービスは清水建設に対し、GMS導入以前から新任役職研修と動画コンテンツで学べる「GLOBIS 学び放題」を提供している。こうした関係性があったことも導入の理由になったと上原氏は語る。
「新任役職研修ではリーダーシップとマネジメントを教えていただきましたが、研修を通してビジネスのベースとなる論理的思考力に改善の余地があることは分かっていました。また、『GLOBIS 学び放題』の受講状況から積極的に学びたい人財が社内にいることも把握していました。こうした課題感やニーズを満たす研修としてグロービスさんからご提案いただいたこともGMS導入に至った理由の一つです」(上原氏)
この点はグロービス側も意識していたという。
「導入に至るまでの数カ月間、何度も検討会議を開催し、多くの論点について意見交換させていただきました。挙手制の研修は前例が少ないため、本当に集まるのかといったご懸念も頂きましたが、受講科目だけでなく応募の動線なども含めご提案させていただきました」(髙橋氏)

GMSは3カ月周期で、1・4・7・10月の4期がある。23年夏ごろから導入を検討し、役職者のみの30人の枠を設けたトライアルとして初回が実施されたのは24年1月だ。
「髙橋さんのご提案のおかげもあり、役職者以外からも応募があるほど大きな反響がありました。24年7月期と10月期には定員を各回30人から40人に増員し、さらに課長以上からという対象役職も主任まで広げ募集をかけましたが、当日のうちに定員が埋まるほどの人気でした」(石井氏)
石井氏によると、応募者の内訳で意外な驚きがあったという。
「当社は建設会社なので、現場監督のような立場で働く外勤の社員がいるのですが、外勤社員からの応募者が半数近くいたのが意外でした。現場は技術職ですが、内勤社員と同様のビジネススキルや経営的な目線が必要だという意識を持って応募した社員も多く、自身の専門分野と異なる『クリティカル・シンキング』や『マーケティング・経営戦略基礎』の科目を進んで受講しているのが印象的でした」(石井氏)
清水建設ではトライアル以降、社内のイントラネットにGMSの特設サイトを設け、受講者インタビューを掲載するなど、社内での意識共有にも取り組んでいるという。
GMS導入からまだ日が浅いこともあり、具体的な効果についてはこれからとのことだが、石井氏は「受講者からは継続的に学ばせてほしいという声も出ていて、自律的な学びのスタートラインには立てていると思います」と手応えを口にする。
上原氏も実際にGMSを受講する中で、新たな発見があったという。
「私が受講したのは『組織行動とリーダーシップ』という科目で難易度は低いものではありませんでしたが、当社の現場監督のような立場の社員も参加していました。現場での人財育成はどうしても我流になりがちなので、体系的に学べることは本人にとって自信になると思います。こうした姿を見て、自ら学べる機会をもっと整備していくべきだと実感しました。機会さえあればキャッチアップして学んでいける人財が当社にはたくさんいることが分かったのは大きな収穫です」(上原氏)
髙橋氏はGMSが清水建設にマッチすることを予測していたという。
「普段から意見交換をする中で、自律的な学びの必要性を感じていらっしゃるというのは推察していましたし、ご支援している新任役職研修を通して、勤勉な社風であることは理解していたので、挙手制の研修は社員の皆様に受け入れられるとは思っていました。ただ、数時間で定員に達したとか継続を希望される声が多いといった話は初めてお聞きして、うれしさと驚きがあります」(髙橋氏)
自律型人財育成を推進する中で清水建設が目指すところ、今後グロービスに期待することを聞いた。
「GMSはトライアルでは役職者が対象でしたが、現在は主任クラスにまで対象を広げています。引き続き『挑戦し共創する多様な人財』を育成しながら、同時に経営基盤のコアの部分も強化し、人財と組織が共に成長し続けるサイクルを実現させたいと考えています。そういう意味では、新任役職研修とGMSが両輪として還流するとさらに大きな効果が生まれるのではないかと期待しています。グロービスさんにはこれからも助言を頂きながら、カリキュラムの構成や効果測定なども含め、成長意欲をかきたてるような有効な機会を提案いただければと思います」(上原氏)
これを受けて髙橋氏は、「新任役職研修やGMSだけでなく、役員様や若手の社員様など、様々な階層への研修、さらに当社はテクノベートなども得意分野ですので、DX人材育成もサポートできればと考えています」と答えて締めくくった。
