
グロービス
2025/9/18
SHIグループは、北米や中南米、欧州、アジアなどで事業を展開する総合機械メーカーだ。同社の海外事業展開が急拡大したのは2010年ごろ。主にM&Aで海外企業を傘下に収めたことがその背景にある。海外の製造子会社は現在、主要なものだけでも28社、海外の売上高比率も2024年度には約6割に達した。
このように海外事業展開が急拡大する中、同社は人事本部内に「グローバル人事グループ」を設置している。同グループ課長の前田信次氏によると、様々な課題に取り組んでいるが、やはり重要課題に据えているのはグローバルリーダー人材の育成だという。
「当社グループでは、もともとグローバル人材を体系的に育成する仕組みが出来ていませんでした。以前は事業部門ごとによる語学研修やOJTを通じた教育が主体で、海外展開が加速する中でマインドセットが追いつかず、グローバル環境への対応力を備えた人材を計画的に育成する取り組みが不十分という実態があり、当グループがそこを改革しなければならないと考えました」(前田氏)
新卒で入社以来、人事畑を歩んできた同グループ主査の浅見知弘氏も、「グローバル化が加速し始めた2010年頃から全社的に海外に関する話題が日常的になり、様々な事業課題も策定されてきた一方、人事としてはそれをリードできる人材が不足している状況に直面しました」と振り返る。

現在同社の中期経営計画には、人的資本経営施策の一つとして「グローバル人材マネジメント基盤の整備」が掲げられており、グローバルリーダーの育成や確保がその中心課題に位置づけられている。
「SHI様が取り組まれているようなグローバルリーダーの育成は、事業をグローバル展開する企業にとっての共通課題です」と語るのは、グロービス・コーポレート・ソリューション・チームでマネジャーを務める小林竜也氏だ。一方で、「中期ビジョンや中期経営計画でグローバル事業の拡大に向けた戦略を示している企業は多くあるものの、それを実際に実行できる組織・人材のグローバル化が思うように進んでいる企業は多くありません」と説明する。
SHIグローバル人事グループ主事の田中奈津子氏が「全社的な育成の仕組みを考える上で、事業部門ごとにグローバル化の進捗が異なり、全体的にどう取りまとめるかということも課題の一つでした」と語ると、グロービス・コーポレート・ソリューションのコンサルタント、小林綾氏は、「多くの企業でグローバルリーダーの育成が進んでいない背景には、田中様がおっしゃった事業部門ごとの進捗など“変数”の多さがあります。対象者が海外駐在する人材なのか、日本の本社で海外業務を担う人材なのか、現地で雇用しているナショナルスタッフなのかによってそれぞれアプローチが異なります。またこうした変数について、本社からは海外の実情がつかみづらいという課題もあります」と応じる。

こうした困難がある中で、SHIグループが新たに導入したのが、全社的にグローバルリーダーを育成するための核となる研修プログラム「SHI Global Seminar」だ。同プログラムの設計はグローバル人事グループが担当した。
まず大枠として「SHI Global Talent Program」という全体フレームが構築され、その下に「SHI Global College」と「SHI Global Seminar」、「海外トレーニー」などのプログラムを設置した。「College」ではオンラインの英会話やeラーニング講座で、グロービスの『GLOBIS学び放題』なども活用されており、これにより幅広い階層のグローバル対応力の底上げを図っている。そして、核となる「Seminar」は全くのゼロから立ち上げたプログラムだ。受講者は指名型で、メンバーが集合する対面方式で実施している。
「メンバーは毎年各事業部門が人選し、最大25人程度。今後のグローバルビジネスの前線をリードしていく人材を育成したいので、30代から40代前半の中堅社員を主な対象としています。期間は3月から10月までの8カ月間で計9回のセッションを行い、約半年後に再度集合して振り返りの会を開催します」(前田氏)
「SHI Global Seminar」は2024年の1期生に続き、現在は2期生が受講しており、今後も長期的に継続していくという。「海外事業比率はさらに高まっていくと考えるので、グローバルビジネスをけん引できる人材も計画的に育成しプール化していく必要があります」と前田氏はその理由を説明する。
「SHI Global Seminar」は、日本語と英語を組み合わせたセッション構成になっている。
「最初の4日間は、グローバルリーダーとして必要となる知識や考え方、日本と異なる複雑なビジネス環境下における判断軸等について日本語で学びます。SHIグループ社員として大切にすべき価値観を育み、しっかりマインドセットを身に付けることが狙いです」(前田氏)
前田氏は続ける。「続く5日間は、英語を使ったコミュニケーションやプレゼンテーション、ファシリテーションを実践的に学びます。最終日にはグロービス経営大学院の英語MBA生に対して、自社事業と自身のアクションプランを英語でプレゼンテーションします。セッション終了の約半年後には再びメンバーが集まって研修終了後の振り返りができる機会も組み込みました」。
「SHI Global Seminar」の設計にあたって、SHIはグロービスをパートナーに選んでいる。これには、それまでの両社の関係性が影響していたようだ。グロービスは、SHIが長年実施している経営人材育成の重要な仕組みである「住友重機械工業グループ・ビジネス・スクール(SBS)」等に参画してきたという。
グロービスの小林竜也氏は、「弊社にお声がけいただき、私自身、SHI様の別の研修プログラムで講師として登壇させていただいた経験もあったため、社風や受講者の皆様の傾向を踏まえた研修プログラムのご提案・設計が比較的スムーズに進められたと考えております」と語る。
実際、SHIの前田氏も「基礎となる知識を日本語、実践スキルを英語で学ぶという大まかなイメージはありましたが、グロービスさんには、当社に合う形で要望に応えてもらいました。また、豊富な研修実績による知見に基づいた多角的な視点での提案をもらいながら、一緒にプログラムを作り上げていけるという安心感がありました」と振り返る。
受講生の中には、初めはグローバルな環境でのリーダーシップに対するイメージがなかなか持てないメンバーもいるという。そこで「SHI Global Seminar」では、これを前半の日本語セッションを通じてクリアするように設計されている。
「グロービスでは、学ぶ人の『志』や『内発的動機』を重視しています。この考え方は、企業の文脈に置き換えると『パーパスへの共感』となります。実際、駐在員は会社を代表して海外に赴くので、現地では会社のパーパスに基づいた『自社らしい』意思決定をぶれずに行うことが求められますし、これは日本で現地幹部とディスカッションする場合も同様です。そのため、今回のセッションの中でもSHI様のパーパスを自分事化していくワークを導入させていただきました」(小林竜也氏)
受講者の反応については、自身も1期生の一人であるSHIの浅見氏に聞いた。
「弊社の従来の研修の主体は、経営知識やマーケティング理論を活用した事業戦略の立案がベースであるのに対し、『SHI Global Seminar』はグローバルな視点でマネジメントを広く学べることがポイントです。同期とも話しているのですが、グローバルに視野を広げ、視座を高めた上でリーダーを目指していく意識に繋がったと感じています。また、各事業部門から人材が集まり、後半は英語でディスカッションするというハードルも共に乗り越えましたので、いわば同志として、部門を超えた横の繋がりを築けることにも価値を感じています。今後このメンバーと共に切磋琢磨して、SHIグループのグローバルビジネスに携わっていきたいという思いを強く持ちました」(浅見氏)
事業部門とグローバル人事グループの意識共有が深まっていると振り返るのは、同じくSHIの田中氏だ。「研修後の人材配置も考えた上でメンバーを選出することが、各事業部門に計画的な育成の重要性を理解してもらうきっかけになっていますし、本研修が事業部門と二人三脚で長期的な育成を推進する有効なツールになっていると感じています」。実際、受講生の中から、グローバル関連でより大きな役割に就いた、海外に赴任することになった、といった報告があり、研修を生かした人事が実施され始めているという。
「SHI Global Seminar」の今後について聞くと、SHIの浅見氏と田中氏からは「研修プログラムは状況に応じて変化させる必要があり、実際に1期生と2期生では変更したプログラムもあります。アップデートに際しては、グロービスさんにも有意義な提案をもらい、より良いものにしていければと思います」とのコメントがあった。
これに対してグロービスの小林綾氏は、「実際の海外駐在時に直面する課題への備えや、海外関連業務の成果にしっかり繋がることが大切だと考えています。 海外赴任された受講生の声なども頂きながらブラッシュアップしていきたいですね」と応じた。
またSHIの前田氏は、「これから3期生、4期生と続いていく中で、社内全体に対してこのプログラムの意義が浸透していくものと確信しています。このプログラムで培われたスキルを皆が実践していくことが何より大事であり、それをどのように仕掛けていくかを、事業部内と共に考えていきたいと思っています。さらに将来は海外地域統括会社とも連携して、海外を含めたSHIグループ全体のグローバルリーダー育成プログラムに発展させていければと考えています」とのことだ。
グロービスの小林竜也氏は、こう応じて締めくくった。「SHI Global Seminarを通じて、各事業の今後のグローバル成長をけん引するリーダー同士の横の繋がりができ、事業ごとではなくより全社でのシナジーを生かしたグローバル展開が進むことを期待しております。加えて、弊社は現在米国・欧州・シンガポール・中国・日本でビジネス展開をしておりますので、将来的にはSHI様の全世界の拠点における人材育成・組織変革をご支援させていただければと考えております」。
