
日本能率協会
2023/11/21
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、地政学的リスクが増大した。中東における不安定性も予断を許さない。先行き不透明な世界経済の影響は、日本でも物価高や円安となって生活を直撃している。
岡田氏は状況をこう分析する。「単純な経済合理性を超えた政治や国家の影響力がますます大きくなっています。世界がフラットな自由貿易主義に再び傾斜するのか、それとも経済のブロック化が進行してさらに保護主義へ向かうのか。ビジネスのみならず社会全体を取り巻く環境があまりに不確実性をはらんでいるため、見極めが大変難しいですね」。

並行してAI(人工知能)やEV(電気自動車)、医療・バイオ技術、エネルギー、宇宙開発などに代表される技術革新が急速に発展を続ける。こういった経営環境のトレンドを踏まえ、企業が新たな価値を創出するためのポイントについて岡田氏は次のように話す。「変化の激しい時代には、技術もしくはエネルギーを縦軸に、地政学的なトレンドを横軸に据えた4象限を設定し、しっかりと不確実性に対応できるシナリオを構築しなくてはなりません。4象限のどれもが起こり得ることを想定して価値を創出する姿勢が重要です」。
だが、そうしたシナリオを想定し、時代の風を読み、優れた経営戦略を立案・実行するのは人間である。岡田氏は日本企業が抱える根本的な課題として「自律的に思考・決定・行動する人材の不足」を挙げる。背景には、日本企業の多くに見られる“リスクを取らない文化”があるという。
「複数の戦略シナリオは経営層が道筋を立てるものですが、経営層と現場をつなぐミドルマネジメントこそ、それらのシナリオに基づく経営戦略を理解し、自らの判断基準をもって戦略を選択的に遂行していくことが不可欠です。ところが日本企業のミドルマネジメントはリスクテイクの思考が極端に低い。上からの指示に従うことに慣れてしまい、コンフォートゾーン(心地よい領域)から抜け出せなくなっている。これを解決するには、いかに組織の中で同調圧力のわなを断ち切って、異才・異能が許容されるのか。そうした多様性が鍵を握ります」(岡田氏)
リスクを取るための体制づくりに関しては、人事評価と事業評価のスキームを見直すべきだと岡田氏はいう。覚悟して声をあげた人材に対し、はね返り者として低い評価しか与えられないようでは行動を起こす人間が二度と現れなくなってしまうからだ。
「ダイバーシティーを徹底させ、異彩を放つ人材を高く評価するシステムを整備する必要があります。そしてリスクを承知で多産多死型の複数プロジェクトを競わせることが差別化要因につながるのです」(岡田氏)
では多様性を育み、ミドルマネジメントが自律的に意思決定できるような戦略思考力を身につけるにはどうすればいいのか。岡田氏はまず、日本の経営教育における構造的な問題を指摘する。
「企業内の経営教育が、同質化した集団の中でしか行われていないことが問題だと考えます。同じ環境、同じ空気の中で生きてきた人たちが集まって意見を交わしても、多様な視点は生まれません。自分が慣れ親しんだ組織で『こうすれば上から評価される』というぬるま湯につかっていては進歩がないですし、世の中の変化と断絶されたままです。その壁を打ち破らなければ前進しません」(岡田氏)
例えば慶応義塾大学のビジネス・スクールでは、世界10カ国から集まったエグゼクティブたちが一斉に参加するプログラムを対面で開催している。業種・業態、立場もそれぞれ違う彼らが、1つの普遍的なテーマを掘り下げて議論することにより「同じ環境で育った日本人だけの議論とはまったく異なり、テーマの立体度が格段に上がる」という。これを受け、岡田氏は1つのヒントとして次のように提案した。
「安全地帯から踏み出し、意見の対立や想定外の意見が百出するような場で教育を受けることでようやく自分自身の評価尺度が相対化されます。それをいとわずに取り組んで初めて、世の中にどんな考え方、アプローチがあるのかが見えてきます。だからこそ、企業の人事責任者は多様性の高い教育研修機会に人材をさらすことが重要です。社内であれば世界各国の現地法人と日本の事業所を対等に扱って学習機会を設定するのが効果的ですし、人材育成、能力開発にたけた外部機関の力を借りて、他流試合ができる場を積極的にセッティングしてもよいでしょう。いろんなバックグラウンドを持つ人たちが集まる経営教育の機会は、今後の経営戦略の構築と実施にとって重要な意味を持ちます」(岡田氏)
次世代に向けた戦略を推し進め、それを新たな評価手法で世に発信している企業もある。ヤマハ発動機は事業戦略の環境や社会への創出価値を金銭的に数値化するインパクト加重会計(IWA)を採用。アフリカや東南アジアなどに設置した浄水機器の経済効果を22億円と算出し、外部に発信している。
「ヤマハ発動機の例にあるように企業戦略にはパラダイムシフトが起きる可能性があります。株主価値の増大とともに社会環境価値を向上する『戦略2.0』へのシフトです。消費者や株式市場は敏感に企業の動きを見定めていますから、能動的な戦略転換を図ることが競争優位の持続性をもたらします。さらに長期的に見れば、今後は経済価値の単調増加を目指さず、現状維持か縮小を許容しつつ、社会・環境への価値を増大させる『戦略3.0』の時代が来るかもしれません。ミドルマネジメントがハブとなって、自らリスクを取り、内側から変革を起こすことを期待しています」(岡田氏)
経営戦略に関する基礎知識、ビジネススキル、人材育成支援を行う各種プログラムを提供する日本能率協会。2020年には「社員の戦略思考力を底上げしたい」というニーズに応えて人材育成プログラム「戦略思考強化シリーズ」が誕生した。個人の戦略思考力を可視化・数値化して診断し、弱みを強みに変える研修を展開している。
メニューは診断の「戦略思考力アセスメント」、個人学習の「戦略思考力 学習動画」、集合学習の「戦略思考力強化研修」から成り、2023年には学びの振り返りをサポートする「戦略思考力テスト」を提供する予定だ。
対象となるのはミドルマネジメントや次期幹部候補。研修受講後に再び診断したところ、「スコアが伸びた」「経営的な視点、長期的な観点を持つきっかけになった」といったポジティブな意見が多数寄せられた。今回の記事で示したミドルマネジメントの戦略思考力強化に役立ててみてはいかがだろうか。