D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を経営戦略に掲げ、さまざまな施策に取り組むアフラック生命保険(以下、アフラック)。D&I先進企業としても高い評価を得ている同社では、男性管理職ネットワークとして「D&I Allies」も発足している。D&Iや女性活躍を推進する男性管理職中心の活動について、同ネットワークのリーダー、歌田皇一郎さんに話を聞いた。
壊せ「OBN」、自覚したバイアス
女性の活躍推進を阻害する社員の言動をまず知ることが大切です
アフラックでは、2023年6月に男性管理職ネットワーク「D&I Allies」が発足し、男性サイドから積極的に社内のD&Iを推進する活動を行っている。そのリーダーを務めるのが、顧客・代理店システム開発部長の歌田皇一郎さんだ。
「D&I Allies」は、NPO法人J-Winが主催する「男性ネットワーク」研修に参加経験のあるメンバー10人で構成。歌田さんも2019年に研修に参加し、1年間、他企業の男性管理職と一緒に「オールド・ボーイズ・ネットワーク(以下、OBN)」をテーマに議論を深めてきた。「OBN」とは、男性中心の組織で培われる仕事の進め方や文化で、それが女性の活躍推進やイノベーションを阻害する要因のひとつとされている。
「この研修ではグループごとにテーマを設定するのですが、私のグループでは『男性の行動を変える10箇条』を作成。『OBN』と言われても、自分たちの何が悪いのかがわからないので、それを知ることで行動を変える行動原則にしようと考えました」(歌田さん)
研修を通して痛感したのは、「自分ではフラットなつもりでも無意識のバイアスが自分にもある」(歌田さん)ということだった。その学びは、アフラックの「ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会」で報告すると共に、社内に還元するチェンジエージェントになることを宣言。実際、2020年には、管理職向けに行動変容を起こすための研修も行った。しかし、本業と並行して継続的に活動するのは難しく、「チェンジエージェントになると宣言しておきながら、1度研修をやっただけで終わってしまったという反省が自分の中には残っていました」(歌田さん)
社長も全面支援、ネットワーク始動
一方、アフラックD&I推進部では、これまでJ-Winの研修に参加した男性管理職がネットワークをつくることで、その知見を全社D&I推進に役立てたいというアイデアが浮上。ネットワーク発足にあたり、リーダー就任の打診を受けた歌田さんは、「2020年の反省を踏まえて、継続的なD&I推進にかかわる好機」と考え快諾したという。
「このネットワークのオーナーは社長の古出眞敏です。キックオフにも社長自らが参加し、我々への大きな期待を語ってくれました。また、事務的な部分はD&I推進部がサポートしてくれます。このように会社が全面的に応援してくれる体制が整っているので、メンバーの我々は、課題を特定して企画・実行することができ、心強さややりやすさを感じています」(歌田さん)
1年目の活動テーマは「無意識のバイアス」に決定し、2つの活動を実施。そのひとつが、管理職に対して2023年1〜2月に実施した、自由参加型の「多面観察テスト」だ。テストでは管理職本人の自己評価と、部下による他者評価を「性別」「世代」「ワークライフマネジメント」「育成・リーダーシップ」「仕事の進め方・評価」の5カテゴリーに分け、各4点満点で評価。参加者は合計500名に及び、男性2:女性1の割合だった。
テストを作成する過程では、J-Winの女性管理職候補者向け研修に参加した女性グループにも協力を要請。男性だけに偏らない、多様な視点も取り入れることができた。例えば「細やかな心遣いで気が利くのは女性だと考えていますか」という質問に、管理職本人は「そうは思わない」と回答したとする。しかし、部下からは「結構、上司は庶務的な仕事を女性に任せがちだ」に「そう思う」と回答された場合、自己評価と他者評価のギャップが大きくなり、無意識のバイアスが強いという結果になる。
多面観察テストにより、D&I実践に関する自己評価と他者評価を可視化した
「結果としては、全体的にそれほど大きなギャップは見られませんでした。こういうテストに参加する時点で、D&Iへのリテラシーが高い人財だというのも要因のひとつだと思います。また、男性よりも女性のほうが、無意識のバイアスが強いという結果も目立った点です」(歌田さん)
「多面観察テスト」の目的は、これをきっかけに自身の無意識のバイアスに気づき、部下とのコミュニケーションを図るツールとして活用することにある。「自己評価とのギャップがあるのはなぜか」で終わらせることなく、日々の行動をどう変えていくべきかを考えてもらうことが重要だ。「今後はD&I推進部が主導で全社施策としてこのテストを行ってもらうなど、さらにバージョンアップした形で継続していけたらと考えています」と歌田さんは語る。
中立では変われない カギ握る「女性寄り」
もう1つは、2月15日にオンライン・オフラインで実施したトークイベントだ。このイベントもJ−Winの女性管理職候補者向け研修に参加した女性チームと協働で主催。出野真執行役員、橋本ゆかり執行役員(チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO))にデロイトトーマツグループ・パートナーの栗原健輔氏を迎えたトークセッションと、参加者50名によるディスカッションという2本立ての内容で実施された。トークセッションでは、役員目線で女性の活躍推進が組織にどのような成果を上げているのかを語り合う内容に。さらにトークセッションを踏まえて、自分たちの行動をどう変えていくかを参加者が議論し、具体的に宣言して終えたという。
「今までわかったようでよくわかっていなかったD&Iへの理解を深めることができ、たくさんの気づきがあった」という声が、参加者から多く寄せられた。特に反響が大きかったのは、「男性がまだまだマジョリティの中、中立では足りず、女性に寄っていくことで格差を是正する行動が必要だ」というトークイベントでの発言だ。
「私自身、メンバー全員が仕事に働きがいを感じてほしいですし、プライベートも充実させてほしいと感じています。だからこそ、家庭と仕事との両立など、何かが仕事上でマイナスに働くことが無いよう、私自身がマネージャーとして積極的にサポートする必要があると思っています。具体的にできることとしては、やはり日頃から常にD&Iへの意識を持ち続けることです。意識があれば発言のひとつひとつが変わってきます。それは私自身が実感していることでもあります」(歌田さん)
D&Iへの意識を常に持つことで、自分の発言が変わると実感しています
子育てで意識した「誰もが働きやすい社会」
このように、IT部門の部長職という本業のかたわら、「D&I Allies」のリーダーとして、全社のD&I推進にも力を注ぐ歌田さん。自身の中で今のように大きく意識が変わったのは、2014年に生まれた長男のおかげだという。
「子育てをしていると、いろいろな場面で社会から配慮してもらったり、幸せを感じさせてもらったりすることがあります。それにどう恩返しをするかを考えたとき、社会に価値を提供しているアフラックという会社で働くことだと気づきました。同時にワークライフバランスや女性の働きやすい社会の実現についても、かなり意識するようになりましたね」(歌田さん)
夫婦ふたりだけの共働き時代には、仕事中心の毎日だったが、長男の誕生を契機に、家庭の時間もしっかり確保するようになった歌田さん。長男の出産はリスクが伴うこともあり、10年前はまだ珍しかった男性育児休暇を1カ月ほど取得。その後も、共働きをしながら育児や家事に積極的に参加してきた。
まだ、リモートワークが普及する以前。保育園への送りを担当する歌田さんは、雨の降る中、片手に子どもを抱え、片手で傘をさしながら、朝9時前の会議にスマートフォンから参加したこともあったという。子どものお迎えで、夕方5時以降の会議を欠席することもあった。「子育て中の女性社員の多くは、そういう大変さや罪悪感を抱えながら仕事と子育てを両立していることを痛感しました」(歌田さん)
積極的に子育てに参加し、幼かった長男も今では10歳に
「育児」を理由に職場で罪悪感を抱くことなく、誰もが働きやすい環境にしたい──。そんな思いの積み重ねが、J-Winの研修や「D&I Allies」にリーダーとして参加することにつながっていった。
1年間の活動を経て、2年目に突入した「D&I Allies」。次の課題は、社員の間に生じている「D&Iへの意識の、格差の広がり」だ。D&Iに関心を持たない人やネガティブに捉えている人に対して、どう届けていけばいいのか。
「まずは、そういう人たちの思いを理解して歩み寄ること。やらされるのではなく、自ら組織を変えていくことで仕事のやりやすさや成果にもつながると理解してもらいたいですね。それによって、会社全体でD&Iの意識の底上げを実現したい。構成メンバーも、より幅広い属性に拡大していくことで、より多様な視点を取り入れていこうと考えています」(歌田さん)
ある意味、D&Iの成否を担う中核的存在でもある男性管理職。歌田さんたちの挑戦はこれからも続いていく。
PROFILE
歌田 皇一郎(うただ・きみいちろう)
2000年大学卒業後、2つのIT企業でプログラミングやシステム開発を担当。2007年にアフラック入社後は、IT・デジタル部門に従事し、2024年から顧客・代理店システム開発部長として、システム開発、IT戦略、人財育成、ベンダー戦略など幅広い業務を担う。プライベートでは妻と小学4年生の息子と3人暮らし。
