大和ブルーフィナンシャルの川原朋子社長は、自らスタートアップ向けの融資を手がけるベンチャーデットを創業、今年大和証券グループの傘下に入った。伝統的な金融業の枠組みで、従来は取引しづらかったスタートアップに特化、金融面から成長をサポートする。
幹を太くしたい、広げたい
川原さんは、はきはきとした口調、明るい笑顔が印象的で、スポーツにも長年いそしんでいる。大学時代は、女子ラクロス部に所属、卒業後もトライアスロンを趣味にしてきた。その仕事ぶりは、スポーツに通じる。「ちょっと違うことをやりたい」「できるだけ自分の幹を太くしたい。同じことを続けるより、中心を持ちつつ広く」と新たな場を求め続けた。
自ら提案し、中小企業向け融資事業を創業
金融業界へ飛び込むきっかけは、運動部時代の先輩からの紹介。卒業後に入ったスタートアップから米メーカー傘下の金融子会社に転じる。しかし、リーマンショックのあおりを受け倒産。その際も「幹を太くしたい」と不良債権を手がける職を探していたところ、東京スター銀行が専門部署を立ち上げることになり入行する。債権回収も事業再生も「お客様を支える」という面では同じと感じ、双方を同時に手がけるようになる。そこで、民事再生や会社更生といった法的な手続きなど多くの知識を身につける。
しかし、そんな中でも「幹を太くしたい、広げたい」気持ちが頭をもたげる。再びスタートアップへ。そこで、スタートアップの資金面での厳しさにも身をもって直面する。
このときも身近な人がまた手を差し伸べてくれた。銀行時代の知人から資産運用会社トパーズ・キャピタルを紹介され入社、そこで中小企業を金融面から支える融資事業への参入を提案し、創業、自ら社長に就任する。
諦めなければなんとかなる
その業務は、常に運転資金がほしいスタートアップに、出資ではなく、融資で資金を提供すること。信用が乏しく、赤字続きが多いスタートアップに、銀行などから資金を調達して貸し付ける。事業が軌道に乗った後に、メガバンクなどと健全な付き合いを始めるためにも「融資という形式が重要」という。また、融資なら、新規公開時に創業者の持ち分が希釈、創業者利益を享受できない事態を避けることもできる。
自ら増資を提案して歩いた
事業構造上、いつも資金調達には苦労した。そこで、趣旨に賛同し、協業シナジーが考えられる企業を探して増資を提案して歩いた。そんな中で、大和証券グループに出会う。「大和は元々すごく新しいことに挑戦している会社」と川原さんは語る。業務内容もスタッフもそのままに、組織や規則、法務の面では大企業らしいサポートを受けられるようになる。兼務者の優秀さにも目を見張った。
資金面でのサポートは特にありがたいという。調達コストが下がれば、利益も上げやすい。一方で、もっと収益性のある事業があれば、そちらに資金を投じた方がいいことも分かっている。健全な利益をどれだけ上げられるかを目標に、常に結果が出せるよう心がける。
融資は、投資に比べ貸し倒れリスクは低いものの、1社でも回収できないと利益を出すことが難しくなる。しかも業種の幅が広く、杓子定規にはいかない。日々試行錯誤の連続だ。1社ごと、多くの顧客と共に頭を悩ませる。「最終的には誰が経営しているかにかかっている」と面談を繰り返す。
そんな中でも特に川原さんを悩ませたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。顧客と二人三脚で悩み、取り組む。しかし、そうしたスタートアップへの逆風は「ベンチャーデットがお役に立てる機会が増えている」ことでもある。日々プラスになる支援ができるよう心がける。「諦めなければなんとかなる」と前向きに顧客と向き合っている。
仲間はとても大事
仕事をする上でいつも心がけているのは「考えることをやめない」。今提供しているサービスが最善とは限らない。新規参入のライバルにも「いつか負けてしまう可能性もある。いいところはまねしてでも取り込む」と対峙する。海外の文献などにも積極的に目を通す。金融、マーケットの世界は欧米が先を行くケースが多い。最新情報にアンテナを張り、仲間と議論し、取り入れる。
スタッフへの共感は欠かせない
スタッフの世代は幅広い。子育て世代、子育てを終えた世代、既婚者、未婚者…。リーダーとしては、そうしたメンバーへの共感、想像を忘れないようにしているという。今後は、大変そうな所を補い、さらにチーム力がアップするような人員構成を目指す。
来し方を「実績が数字として出やすい金融業界は、女性も活躍しやすい」と振り返る。その意味でもパワフルな女性が多いという。一方で、女性比率が低いのも確か。「だからこそ、女性同士仲良くなりやすいし、連帯感につながる」とも語る。
「今、男女は関係ない。今のチャレンジをそのままありのままにやってみればいい」とは後進の女性たちへのメッセージだ。自らの経験も踏まえ「そのためには一緒に成長していく人たちといい縁を持つこと。その先につながる」とも語る。
「仲間はとても大事」。チームプレーの重要さは、女子ラクロス部時代に肌で感じた。仕事でも「そういう仲間を増やしながらやればいいんじゃないかな」。
現在では、けがしやすい自転車は避け、もっぱら海など自然の水域を長距離泳ぐオープンウオータースイムに励む。日焼けした肌で「美味しくお酒が飲めるから運動している」と語るその笑顔は、いかにも健康的だ。「ベンチャービジネスの成否は人次第」をその笑顔で、自ら証明しているかのようだ。
PROFILE
川原 朋子(かわはら・ともこ)
米メーカー傘下の金融子会社などを経て、2010年に東京スター銀行に入行、不良債権処理と事業再生を手がける。18年に資産運用会社のトパーズ・キャピタルに入社、社内でベンチャーデットを手がけるブルートパーズを創業。22年、ブルートパーズが大和証券グループの大和PIパートナーズに買収され、大和ブルーフィナンシャルと改称、引き続き代表取締役社長を務める。
