Empowerment Report

エンパワーメントレポート

自分らしいリーダーシップ追い求め 聞いて支えて、部下の成長を喜ぶ

コヴィディエンジャパン
サージカルイノベーション リモートソリューション

絹田 記子さん

2022.10.26 掲載

リーダーにはカリスマ性が必要か――。医療機器大手メドトロニックの日本法人3社の一つ、コヴィディエンジャパン(東京・港)でシニアマネジャーを務める絹田記子さんは、必ずしもそうではないと考える。「支えるリーダーシップがあってもいいのでは」。聞き上手なうえ、主役ではなく人の右腕となって働くのを好む性格を生かし、新しいタイプのリーダー像をつくり上げて実践する。会社側も傾聴とコミュニケーションのスキルに優れた女性は管理職に適任と判断。「女性管理職比率を2026年4月までに30%に」という目標に向け、女性社員の背中を押してマネジャー輩出を促している。

戸惑いの中、心に刺さった上司の一言

 コヴィディエンジャパンに入社して9年半、絹田さんの前に1台の「バス」が来た。マネジャーという新たなステージに連れて行ってくれるバスだ。マネジャーになりたいと思ってはいなかったので戸惑った。「支えるリーダーシップというのがあってもいいじゃないか」。上司からの一言が心に刺さった。そういう形で自分らしさを出したリーダーなら、できるかもしれない。それに今乗らなかったらこのバスは二度と来ないかもしれないし、来たとしてもすごく遅いタイミングになるかもしれない。「頑張ってみます」とマネジャー職の内示を受け取った。

 最初は近畿6府県の広域を6人でカバーするチームのセールスマネジャーだった。新しくできた組織だが花形部署ではないので、メンバーのモチベーションは高くない。そんな状況でも各人に輝いてほしいと、チームづくりに地道に取り組んだ。メンバーは自分より年上で社歴の長い人ばかり。「これをやって」と指示すればやれるだろうが、そんな言い方をされては嫌がるだろう。そのため1対1の面談などで一人ひとりの話に耳を傾けた。それぞれが心の芯に持つ医療への熱い思いを聞き出し、チームに課せられた使命と結びつけてモチベーションを高めていく。営業の企画もいろいろと打ち出して「最終的にはとてもいいチームにもっていけた」と振り返る。

マネジャーになった絹田記子さんは自分らしいリーダー像をつくり上げていった

 マネジャーをめざしたいと勇んでコヴィディエンジャパンでの一歩を踏み出すも、早々に「私には難しいな」と諦めの気持ちが生じたという。周りの同僚たちがあまりにも優秀だったからだ。絹田さんが当時から抱いていたリーダー像、それはカリスマ性を持っている人。ジャンヌ・ダルクのごとく常に先頭に立ち、「さあ行くぞ」と人々を率いるのがリーダーシップであると考えていた。「私にはそういうリーダーシップは絶対に無理」。マネジャーという言葉は頭の中でずっと封印していたが……。

自分でなくメンバーが主役になればいい

 「支えるリーダーシップ」という言葉に後押しされてマネジャーになると、自分らしいリーダー像をつくり上げていった。大事にしたのは部下としっかり向き合うこと。何をおいても部下の話を聞くようにした。今はコロナ禍で雑談をする機会が減っている時代だからこそ、頻繁に電話をしたり、オンライン会議システム「Zoom」で面談したりして、相手が満足するまで話し合う。どんなに忙しくても必ずゆったりとしゃべり、「最近どう?」から始まるコミュニケーションは時に1時間を超えることも。その間、自分は聞き役に徹している。

 聞き上手になれたのは、充実した社内研修の中で絹田さんが欠かさず受講してきたコーチングに関するプログラムのおかげだ。5年前、新人研修などで自社製品について教えるセールストレーナーだったときに受け始めた。今でもコーチングがテーマの新しい研修が導入されると「率先して受講している」。マネジャーになって特に役立っているのがコーチングで学んだ質問力。質問の引き出しがコーチング学習でどんどん増えており、そこで得た知識、ノウハウをアウトプットする日々だという。

リモートソリューションのシニアセールスマネジャーとしてオンラインで仕事を進める

 絹田さんの新しいリーダー像には性格が影響している部分もあるだろう。「人の右腕となって活躍するのがずっと好きだった」。仕事ではリーダーの自分がチームを引っ張るのではなく、メンバーを後ろから支えるようにしている。「私の支えるというリーダーシップは、自分は主役じゃなくていい、メンバーが主役になってくれたらというスタイルです」。それがマネジャーとしてのやりがいにもつながる。部下が表彰されたり、称賛されたりすることが何よりもうれしい。評価の対象が自分と一緒に考えて成し遂げられたことであれば、喜びもひとしおだ。

 マネジャーとして最初に担当したチームの部下が社内の年間表彰で新人賞を取ったことがある。評価が芳しくなかったその部下は心が折れそうになった時期もあったようだが、絹田さんは諦めずに向き合い続けた。その結果、手にした賞だ。表彰式の壇上に上がる部下を見て「自分のことのようにうれしく、涙が出るほどだった」。以来、人の成長を諦めない、成長しないのは相手が悪いのではなく、自分がかける言葉がまだ少ないからだと考えるようになった。

「1番になりたいからよろしく」と宣言

 コヴィディエンジャパンに転職するまでの絹田さんの職歴は多彩で、多才ぶりを発揮している。運動神経の良さを生かせるからと大学で中高保健体育教員免許を取得したものの、卒業後の就職先に選んだのは証券会社だった。大手2社をわたり歩き、リテール営業に従事した。その後はクラブ歌手という夢に向かってチャレンジ。神戸のクラブでジャズなどを歌い、一方で小説家をめざしたり、結婚式場で司会者のバイトをしたりもした。最終的にコヴィディエンジャパンへと進路を定めたのは「もっと社会貢献度の高い仕事がしたい」との思いがあったからだ。

 入社してまず、外科手術で使う電気手術器や血管を閉じるデバイスなどの営業に携わった。そのとき心がけたのは、医師などの顧客や製品の代理店から信頼されるために自分が今できることをしっかりとやること。言われたことをそれ以上にして返すのを自らに命じ、例えば1週間でのレスポンスを求められたら「3日以内に返します」と言って、その通り実行した。

入社以来、「こうしたい」「こういう人でありたい」と宣言し続けている

 競合他社が食い込んでいる代理店に行くと、女性の営業だし、すぐにいなくなるだろうと全く信用されない。絹田さんは「私についてきたら、あなたの成績も上がる」と断言。実際に代理店の売り上げが伸びていき、その喜びを共に味わうと家族のような感じで付き合えるようになった。また、ある代理店では「私、営業で1番になりたいからよろしくね」と宣言した。プレッシャーは感じたが、宣言することで協力者が必ず現れる。そうした協力者たちの役に立ち、期待にしっかりと応えていけば自分の夢、やりたいことを手助けしてくれるようになるものだという。「こうしたい」「こういう人でありたい」という宣言は入社以来、今に至るまで常に発し続けている。

 自身が志向する「人を支える、人の成長を喜ぶ」というリーダー像について、絹田さんは「子どもを育てているママさん営業の方にはきっと合っている」と話す。そういった立場の女性社員や後輩社員には、人を支えるというスタイルのリーダーになることも考えてみては、と伝えたいそうだ。ただ、今後はまた違った形のリーダーシップが生まれてきてもおかしくない。だから「一例としてあるよ」といった程度にとどめようと考えている。

広がるつながり、自分に適した仕事は…

 今年5月、サージカルイノベーションのセールスマネジャー(東日本リージョン 埼玉山梨ブロック)に昇進した渡辺紗耶加さん。絹田さんを「会社が女性の営業を増やそう、女性マネジャーを増やそうと取り組んでいる中で、先駆者的なイメージで見ていた」。絹田さんとは同じチームで仕事をした経験はないものの、セールスの年間成績上位に入り、米ハワイへの報奨旅行へ一緒に行った仲である。マネジャーの内示を受ける際、先輩女性マネジャーである絹田さんから電話が来た。いろいろ悩みながらも「ちょっとやってみようと思って」と話すと、絹田さんから「すごくいいんじゃない」という言葉をもらい、ほっとさせられたという。

 営業担当時代の渡辺さんのマネジャーに対するイメージは、困ったときに頼りになる存在。いざ自分がマネジャーになって、これまではアドバイスや経験談として伝えていたことが、立場が変わることで命令になりかねないところに難しさを感じている。「自分に相談してくれる部下がどう考えているかをよく聞いたうえで、アドバイスするようにしたい」。仕事上の困難に直面した部下が話しやすい環境、メンバーが進んで考え、自由に仕事ができる環境をつくっていくことを、今後のテーマとしている。そんな渡辺さんを絹田さんは「彼女らしいリーダーシップのスタイルを模索しながらやってくれているので、すごく安心して見ていられる」と目を細める。

絹田さん(左)は先輩女性マネジャーとして渡辺紗耶加さんのメンター役を務める

 絹田さんの現在の仕事はメドトロニックにとって新しい営業スタイルとなる、リモートソリューションのシニアセールスマネジャー。リモートソリューションは全国を営業エリアとして、ウェブやZoom、電話などを使い、完全リモートで製品を提案・提供する。営業担当1人が取り扱う製品群が大幅に増える中、多くの施設を担当するのが難しくなってきたことに対応する。訪問するのが大変な遠隔地の施設にも情報提供できるという利点もある。絹田さんはリモートソリューションを推進するもう一つの意義を強調する。「子育て中の女性の営業担当者が働き方の選択肢の一つにできる。どこにいても仕事ができる、そういうチームを今めざしている」

 今後については「こうなりたいというものはなく、どちらかというとこんな仕事がしたいという気持ちが強い」と語る。今とは違う社内のビジネス、役割の中で「人の成長をサポートする仕事があればやってみたい」。シニアマネジャーになり、ほかの部門やいろいろな部署とのつながりがどんどん増えており、自分に適した仕事を改めて探してみたいともいう。一方で、周りの人の方が自分のことをよく分かっているとも思っており、基本的には「あなたはこれに向いているよ」と言われたら、「やってみます」と答えるスタンスでいる。

 そうして「次に来るバスに乗るのかな」と絹田さん。行先に表示された新たなステージはどこだろうか。

「女性、対人関係のスキルに優れる」~日本メドトロニックの芳賀聡バイスプレジデント

日本メドトロニックの芳賀聡CRM and Diagnosticsバイスプレジデント

――メドトロニックをはじめ、現代の企業で女性がリーダーシップを執ることの重要性をどのように考えますか。

 「メドトロニックは創立以来、メディカルテクノロジーの会社として基本的にイノベーションで大きくなってきた。歴代のCEO(最高経営責任者)も口々にイノベーションはメドトロニックの血液のようなものだと言ってきた。イノベーションを進めるうえで重要なのは、均質化したチームでディスカッションをするのではなく、違ったバックグラウンド、いろいろな考え方の人間が一つのテーブルに集まり、議論を交わしながら切磋琢磨(せっさたくま)し合うこと。その中には当然、女性も含まれる。そのあたりの大切さは社内でかなり浸透している」

 「現代の企業、特に日本企業は生産性がなかなか上がらないことが課題になっている。生産性を上げるためにもイノベーションは避けて通れない。取締役の女性比率が高い会社群とそうではない会社群を比較すると、企業の成長率に有意な差があるという統計もある。これを見ても、企業における女性のリーダーシップの重要性は増してきていると考える」

――社内の女性管理職を増やすためにどんな取り組みをしていますか。

 「今後のキャリアについて上司と1対1で面談する機会を定期的に設けているが、『管理職キャリアについて興味はあるか』と問いかけられた際に、女性社員の多くが『私なんかには管理職はとてもとても』とリアクションする。後々管理職になった女性に『とてもとても』と言ったときの心情を尋ねると、最初は管理職を全く想像していなかったので面食らい、日本人の美徳もあって、断るような返事をしてしまったという話をよく聞く。一方で、その日の夜からいろいろと考えて、考えているうちに自分もちょっと挑戦したくなってきた、具体的な目標として考えるきっかけになったと振り返る方もいる」

 「女性社員がいったん管理職を断ったとしても、それは本心なのかを確かめる必要がある。必要に応じて何回もキャリア面談を重ね、他の部門の上司にメンタリングもしてもらい、いろいろと視野を広げてもらうことでその女性社員が今まで考えていなかったマネジャーポジションというものに挑戦しようという気になってもらえれば。そういう取り組みを積極的にしようと現在進めている」

――マネジャーに必要な資質、能力はどのようなものだと考えますか。

 「対人関係のスキルとして、部下ときちんと向き合って傾聴する力が大事だ。コーチングをしながら部下のいいところを引き出す、コーチ型のマネジャーを必要としている。もちろん、ビジネスの中身に関して長けた人であることも求められる。ビジネスに対する理解、業界の環境に対する理解、打つべき戦略を考える能力に優れていてほしい。ヒューマンスキルとビジネススキル、この両方を兼ね備えていてもらいたいと考えるが、女性マネジャーは特に傾聴のスキルとコミュニケーションのスキルに関して優秀な人が多い。ヒューマンタッチの優しいところは男性マネジャーよりも優れていると思う」

PROFILE

絹田 記子(きぬた・のりこ)
2001年に大学を卒業後、証券会社勤務などを経て、10年10月コヴィディエンジャパンに入社。大阪営業所に配属され、外科手術で使う製品やソリューションの営業を担当。19年5月近畿全域を管轄するセールスマネジャーに。22年2月から全国向けにリモートでセールスする部署でシニアセールスマネジャーを務める。趣味は読書、食べ歩きにゴルフを少々。「死ぬこと以外かすり傷」が座右の銘。岡山県出身。

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