Empowerment Report

エンパワーメントレポート

「患者さんを第一に」糖尿病でも自由な生活を 子育てと両立、仕事に生きる親目線

日本メドトロニック ダイアビーティス クリニカルソリューションズ シニアペイシェントケア スペシャリスト

小笠原 亜奈さん

2022.12.09 掲載

医療機器大手メドトロニックでは「患者さんを第一に」との考えが社内に浸透している。4つの事業領域の1つであるダイアビーティス(糖尿病)は患者が日常生活で身につけて利用する製品を扱うだけに、とりわけ患者に寄り添い、思いをくみ取りながら仕事をすることが求められる。そのダイアビーティスで活躍するのが、自社製品を使う糖尿病患者向けのサポートを担当する小笠原亜奈さん。「『患者さんを第一に』を具現化している」と評される仕事ぶりに、親としての目線も生かされている。2度の育児休業を取って復職、働きがいを高める会社の取り組みや周りのサポートにも助けられながら、子育てと仕事の両立という充実の日々を送っている。

インスリンポンプで毎日の注射から解放

 「糖尿病は眼鏡をかけるのと同じようなもの。個性だと思えた」。1型糖尿病を患って十数年という50歳ぐらいの女性がこう話すのを聞いて、小笠原さんは目頭を熱くした。その患者は糖尿病治療では一般的なインスリン注射を毎日打っていたが、友人と食事をするときにはトイレで注射したり、趣味の旅行を避けたりするようになっていたそうだ。メドトロニックのインスリンポンプを使い始めると、体が楽になり行動的になれたという。健康な人と同じように自由に生活できるので、糖尿病はもはや個性の一つでしかない。小笠原さんは「私なんかが想像できないご苦労があったのだろうな」とおもんぱかる。

 糖尿病には大きく1型と2型があり、メドトロニックが扱うのは主に1型向けの製品だ。1型糖尿病は主に自己免疫によって起こり、インスリンを出す細胞が壊されてしまう。乳幼児から高齢者まで誰でも発症する可能性があり、小児期から思春期が発症のピークとされる。血糖値を正常に保つためにインスリンを毎日、食事ごとに何度も注入しなければならない。インスリンを注入しないと高血糖になり、量が多すぎると低血糖にもなりうる。インスリンとの付き合いが一生続く慢性疾患だ。

入社11年目、子育てと仕事の両立で充実の日々を送る小笠原亜奈さん

 インスリン注射は腹部や太ももなどに打つので人前では難しく、外出時には人目を避けて打てる場所を探すことがある。注射針を1日に複数回刺さないといけない大変さもある。メドトロニックが開発したインスリンポンプは、標準的なスマートフォンよりやや小さく、厚みはその2倍ほど。ポンプにつながる細いチューブの先をおなかに刺し、2~3日挿入したままにしておける。インスリンが24時間、ポンプからじわじわと出ており、食事の前などに追加のインスリンを注入したり、必要に応じて自動で止めたりする機能もある。ボタン操作でいつでも設定・変更でき、何よりも人目を気にせず注入できるのが魅力だ。

アクセサリー販売のECサイト立ち上げ

 小笠原さんの現在の業務は自社ポンプを使う糖尿病患者向けのサポート。問い合わせに対応するコールセンターのマネジメント、製品案内や使い方を説明する資材・動画コンテンツの制作、メールマガジンの配信などを行っている。ダイアビーティスで作ったビジョンには「糖尿病患者さんの幸せのために」とある。小笠原さんも「自分だったらこの製品を使うかなと常に自分ごととして捉えている。毎日の生活と切り離せない治療のため、便利で役に立つという枠を超えて患者さんの日々の生活が楽しく豊かになるようなサービスを目指している」。

 例えば、メルマガは誰が読んでも分かりやすく、小学生でも読めるよう心掛ける。資材・動画の制作では、新製品やリニューアルした製品に対して患者が理解や使用につまずきそうなところを予見し、書き方・見せ方を工夫する。コールセンターのオペレーターには、直近の電話で多く寄せられた項目などをまとめ、「こういう傾向があるので案内してください」とお願いする。

 最近手がけたのがポンプに装着するアクセサリーの販売だ。カバーやケース、スクリーンフィルムなど、ポンプを「自分らしくカスタマイズできる」商品をそろえる。走ったり跳ねたり、スポーツをしたりするときに、ポンプを体に固定できる伸縮性を持ったベルトもある。これらの製品は病院を通して患者に販売していたが、ほとんどの病院で取り扱ってもらえなかった。そのため、誰でも手軽に買ってもらえるようにと電子商取引(EC)サイトを立ち上げた。子どもや女性の患者も多いので、かわいらしいカバーやケースは喜んでもらえるという。

角山信史マネジャー(右)は「小笠原さんが手がけるプロジェクトの〝打率″はすごく高い」と話す

 そんな小笠原さんを直属の上司、角山信史マネジャーは「会社として掲げている『患者さんを第一に』を具現化しているような方」と評する。患者が製品をどれだけ安全に使い、一番好きになってもらえるか。「言うと簡単そうに思えるけれど、形にするとなるとすごく難しい」(角山さん)ことを実現できているのは、小笠原さんが患者を気にかけつつ、現場の医療従事者や自社の営業担当者を含め全体に気配りができる人だからだ。

 入社以来、ダイアビーティス一筋の小笠原さんはマーケティング、営業サポート、医療従事者や営業社員向けのトレーニングといった業務を担当してきた。そのため患者、医療現場の人々、営業社員がそれぞれ抱える課題、苦労していることを理解でき、「この3方向に対する問題の解決策をシステムとしてつくり上げられないか」と常々考えている。一方で医療業界にとどまらず、他業界やデジタルの世界にもアンテナを高く張り、最新のトレンドを研究して取り入れようとしている。だから「手がけるプロジェクトの〝打率″がすごく高い」(角山さん)。

「家族が一番」社内に浸透するカルチャー

 小笠原さんは育休を2度取得している。長女のときは2015年2月から1年半余り、次女のときは18年12月から1年4カ月、仕事を休んだ。かなり大きなブランクになったが、仕事からいったん離れたことで新たな気持ちになれたという。2度とも「仕事がしたい。次にやらせてもらえる仕事に一生懸命取り組み、仕事を大事にしたい」と強く思い、職場に戻ってきた。

 ただ、時間的にはどうしても制約がある。最初の職場復帰の際は当時9時~17時30分の就業時間を1時間、前倒ししてもらった。夕方、保育園に子どもを迎えに行く時間をつくるためだ。周りの心づかい、サポートにも助けられた。小さい子は突発的に熱を出すことがある。「今日の午後、お休みをください」とお願いすると、「ああ、いいですよ」と二つ返事で返ってくる。保育園が新型コロナで休園になったときも快く休ませてくれた。今でこそ泊りがけの出張に行けるようになったが、最初のころは遠方への出張を最小限に抑えてくれた。

 会社も子育て中の社員に限らず、働きやすさを実現するための様々な制度を用意している。病気の子どもを病院に連れて行かなければならないとき、小笠原さんが利用するのが時間単位で利用できる「看護休暇」だ。家族の介護の際などに使える「ファミリーケアリーブ」もある。有給休暇とは別に、最長6週間の特別休暇を24カ月間の中で2回まで分割して取得できる。また現在はリモートで、コアタイムなしのフレックス勤務のため、昼休みなどに夕飯の仕込みを終え、子どもを夕方それほど遅くない時間に迎えに行けるのでありがたい。こうした働く環境の良さに、小笠原さんは「社内には『家族が一番でいいよ』というカルチャーがあるのかなと思う」と目を細める。

様々な社内制度に加え、周りのサポートもあって小笠原さんは働きやすさを実感している

 一方で、小笠原さんは周りに刺激を与えてもいる。「デジタルに強くなるなど、彼女のおかげでチームはこの5年ぐらいでいろいろと変わった」と角山さん。復職後の小笠原さんは子育てもあって残業を長くできるわけでなく、働く時間は他の社員と比べて短い。それでも、オンラインのアクセサリーショップ立ち上げのほか、様々な患者向けサポートサービスを作り出し、社内でいくつも賞を受けるだけの実績を残した。その頑張りの背景には「育休から復職した女性社員の評価を下げてはいけないという責任感のようなものもあった」と明かす。

当面は「一に育児、二に仕事、三に家事」

 現在、娘は7歳と4歳。子育てとの両立の中で、仕事に親目線も加わった。「ポンプユーザーには子どもも多い。もしわが子がポンプを使っていたらと想像し、幼稚園・保育園や学校生活ができるだけ楽しくなるようなアクセサリー商品をそろえたい」。「親」として幼い患者の生活に寄り添い、困っていることを想像できるので、アイディアが豊富でそれを形にすることができる。

 ある日、ツイッターで「3歳の子どもがポンプポーチをつけたら1人でトイレができた」といった投稿を見つけた。ポンプをズボンのポケットに入れていると、トイレでズボンを下したとき、チューブとつながったポンプが飛び出てぶら下がったり、最悪の場合にはトイレに落ちてしまったりする。この3歳児はアクセサリーのポーチやベルトを使い、ズボンの上げ下げに影響されないところにポンプを格納したのだろう。小笠原さん自身も子どものトイレトレーニングで苦労した覚えがあるだけに、同じ年代の子を持つ親として「本当に良かった」と感動した。

 上司の角山さんは「現在は海外のアクセサリー商品を輸入して販売しているけれど、今後はオリジナルなものも考えていきたい」と話す。「新たなサービスを立ち上げると、商品の拡充など新たな課題が見えてくる。この仕事には終わりがない」と感じている小笠原さんだが、その発想力が生かされる場面がさらに増えることだろう。ポンプを使った治療は月に3万円ほどかかる。主婦の立場から「このコストに見合うQOL(生活の質)が達成できているか」というコスト意識も敏感に持っていたいそうだ。

次女の育休から復職後、朝の登園、通学前に家族4人で

 実は小笠原さんには1型糖尿病の叔母がいる。大学新卒で入社した電子部品メーカーからの転職活動をしているとき、メドトロニックの求人案内を見てインスリンポンプの存在を初めて知った。叔母に伝えると、ポンプがあること自体を知らない。そのうえ注射ではインスリンが大量に注入され、明け方になると低血糖に陥ることもあると悩みを打ち明けられた。そのとき直感した。「ポンプを広く知ってもらえれば、もっと楽に生活できる患者さんが増えるのでは」。メドトロニックに入る前から、ポンプはさらに普及するチャンスがあると考えていた。

 メドトロニックのインスリンポンプを使用する日本の患者は約1万人。「患者さんのために」という思いを胸に、メンバーが普及に努めた結果だ。製品の浸透に合わせるように、入社11年目の小笠原さん自身も成長を遂げた。「以前は与えられた仕事についていくのが精いっぱいで、居場所を探すような感じだった。現在は自分が何をすべきか、何を期待されているか、自分の仕事の意味は何かを少しずつ理解できるようになった気がする。仕事の面白さ、醍醐味を感じている」

 今後については「常に新しいことをインプットしながら自分なりに考えて行動したい」と話すものの、こうなりたいという目標は特になく、描くキャリアも定まっていないという。ただ、心の中で誓っていることが1つある。「自分の子どもに『働くって楽しそう、大人って楽しそう』と思われるような姿を見せていきたい」。現状のエネルギーの振り分けは「一に育児、二に仕事、三に家事」。会社のサポート制度を必要に応じて活用し、周りの協力を時にありがたく受け入れながら、子育てと仕事の両立を楽しむというスタイルがしばらく続きそうだ。

「糖尿病でも自由で安心安全な生活に」~岡光代ダイアビーティス シニアダイレクター

5年前、岡光代さんはメンバーと共にダイアビーティスのビジョンを作った

――ダイアビーティスのビジョンについて教えてください。

 「メドトロニックのミッションには『人類の福祉に貢献』『献身、誠実、高潔、奉仕を忘れず』とあり、会社全体が患者さんを第一に考えている。そのミッションを受けて、1型糖尿病の方に貢献する製品を扱う日本のダイアビーティスとしてさらに落とし込んだビジョンを5年前に作った。このビジョンでは『糖尿病患者さん及び、その人を大切に思う人の幸せのために』とうたっている。患者さん本人のみならず、患者さんを大切に思う親や子どもなどの家族、周りの方のために革新的で魅力のある製品、サービス、情報を提供すること、そして患者さん一人ひとりに合わせたソリューションを導くことを大事にしている」

 「我々が扱うインスリンポンプは24時間、365日使われる。患者さんは自宅のほか学校や会社でも常に身につけ、寝ている間も正しく機能しないといけない。性能が優れていることはもちろん、使い方の分かりやすさや使い勝手の良さも重要だ。このポンプを使えば健康な人と同じように食べ、風呂に入り、スポーツだってできる。糖尿病における『治療に合わせた生活から生活に合わせた治療へ』という流れに沿い、患者さんの自由で安心安全な生活の実現に貢献していきたい」

――メドトロニックでは社員の柔軟な働き方をサポートする制度が充実しています。

 「1日に働く長さや時間帯を柔軟に調整できるスーパーフレックス、リモートと出社を組み合わせられるハイブリッドワーク、家族の病気や介護などの際に使えるファミリーケアリーブなど、社内にはたくさんの制度がある。育休制度についていえば、私の部門では、毎年数人が取っている感じだ。昨年は女性社員に加えて、それぞれ1カ月ずつぐらいだったが、男性3人が順番に利用した。個人の働きやすさを尊重する仕組みはできていると思うので、必要なものを必要な人がうまく利用してほしい」

――メドトロニックで働く社員を見ていてどのように感じますか。

 「自覚を持ってバリバリ結果を出したり、出そうとしたりしている人が多い。外資ということもあって、みんなが自分の意見を積極的に提案しながら、製品やサービスをより良くしていこうと考えている。もともと会社のミッションに惹かれて入社してくれているところもあるので、患者さん第一、患者さんのために貢献したいという思いがどの部門、どの役割の社員にも広く浸透している」

PROFILE

小笠原 亜奈(おがさわら・えな)
2008年に大学を卒業後、電子部品メーカー勤務を経て、12年4月日本メドトロニックに入社。ダイアビーティスでマーケティング、医療従事者のトレーニングなどを行うクリニカルエデュケーション(現クリニカルソリューションズ)、営業を担当。17年クリニカルエデュケーションに再び異動。15年と18年の2回、育休を取得した。趣味は読書とランニング。スキルを身につけようとビジネス書を読んでいたが、最近は「精神的な充足や豊かに生きることをテーマにした本にはまっている」。埼玉県出身。

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