2023年、昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合して誕生したレゾナック。「化学の力で社会を変える」をパーパスとする同社が注力するのが、リーダーの早期発掘・育成の「タレントマネジメント」だ。村岡美菜子さんは同社にキャリア入社し、タレントマネジメント施策を担当。「日本から世界で勝つ企業を」という想いを胸に人事戦略を推し進めている。そんな村岡さんに多様なキャリアのステップアップと挫折、そして仕事と子育ての両立について伺う。
夫の海外赴任でキャリア中断
2022年に旧昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)にキャリア入社し、同社の経営の核となる人材開発戦略を最前線で推し進める村岡美菜子さん。新卒で大手重工業メーカーに就職するが、夫の海外転勤に伴い退職して子連れでスペインへ。帰国後は元の会社に再雇用されるも、7年後にITスタートアップの人事部長として転職。2022年11月からはレゾナックで現職という多様なキャリアが目を引く。
スペインマドリードのマヨール広場にて長男と
「学生時代に難民支援のNGO(非政府組織)活動を行っていたこともあり、社会に役立つ仕事がしたいと考えてインフラ系メーカーに就職。長崎の事業所で人事・教育・採用担当をへて、念願の発電用機器関連の部署に異動することができました」
やりがいをもって働いていた営業部には5年間在籍。その間に同僚のエンジニアである夫と結婚、長男を出産する。しかし、2012 年には退職し、約3年夫のスペイン転勤に帯同することに。
「海外転勤があることは夫と結婚したときから覚悟していたこと。当時は復職制度がなく退職しましたが、それも帰国後の再雇用を前提に考えていました。スペイン滞在中は次男も出産し、専業主婦として子育て中心の生活でしたね」
当初の予定通り、帰国後は嘱託として復職し、約1年後には正社員に。しかし、今度は夫の横浜転勤が決まり、村岡さんも横浜本社の海外営業部に異動することになる。
「本社では米国拠点の営業部隊のバックオフィス業務が中心。自身の裁量で動かせる範囲が限られやりがいを感じづらいというのが正直な気持ちでした」
そこでもっと主体的に働きたいと、人事部へ異動。
「海外拠点の同僚達と多く仕事をする中で、これからグローバルで勝ち残るには、地域に根差した科学的マーケティング戦略や、日本人に欠けがちな大胆で斬新な発想や交渉力が不可欠と痛感。一方で、日本にはしっかりと物をつくり、お客様にお届けする現場力がある。多様な能力を掛け合わせることで、強い組織を作っていく仕事をやりたいと考えるようになりました」
スタートアップに抱いた夢と現実
前職の人事部ではタレントマネジメントのグローバル展開を担当。信頼するチームとともに、IT(情報技術)を活用しデータを可視化するなど、先を見据えた人事システムの導入を行う。しかし、2年ほどすると組織改正があり、それまでの施策も仕切り直しを余儀なくされることに。同じタイミングで、IT系スタートアップから「一緒に最強の組織を作っていこう」とスカウトがあり、転職を決意する。
「人事システムの導入でITに興味を持つようになっていたことがひとつ。もうひとつが、自分の目指す方向と会社の方針にズレを感じたことがあります。それまで、私はいろいろなことを理由にして“あきらめてばかり”だったんじゃないか、という想いがあったのも大きかったですね」
大学院で学びたい、もっとやりがいのあるプロジェクトに参加したい、スペインでMBAを取りたい──。自分の心に芽生えていた挑戦したい意欲も、「女性だから」「子育て中だから」できなくても仕方ないと妥協してきた。そんな自分に「挑戦して失敗するのと、挑戦しないで後悔するのではどっちがいいのか」と改めて問いかけて、選んだスタートアップへの転職だった。
レゾナックで挑む「3度目の勝負」
しかし、その挑戦は大失敗だったと村岡さんは笑う。大企業と違い、あらゆる点で変化が激しいスタートアップ。その環境で実力以上の役割を果たす必要性に迫られる一方で、自分が大切にすることと、会社の価値観やカルチャーにギャップを感じるようになり、人事部長としての役割を果たすことはできないと感じた。しかし、同時に「本当に自分に向いている仕事、やりたい仕事とは?」を教えてくれる経験でもあったという。
「私はゼロイチを創るより、あるものを積み重ねて行くタイプだとよくわかりました。そして、グローバルで日本企業が復活することに役立つことで社会貢献がしたい。それにはメーカーで働くのがベストだと思いました」
ITスタートアップは半年で辞めることを決め、メーカーへの転職活動をする中で最も魅力を感じたのがレゾナックだった。
「グローバルでの地位が低下している日本メーカーですが、化学メーカーはグローバルで戦える数少ない領域。外部出身のCEOが経営の重要戦略に人材育成を打ち出していることにも魅力を感じました」
以前のメーカーではやりきれなかった人事戦略がここなら実現できる──。そんな思いで、レゾナックへの入社を決めたという。
タレントマネジメントで経営者候補育成
村岡さんは2022年11月に入社。まだ1年にも満たないが、レゾナックの人事戦略、特に社長自らが先頭に立つ「タレントマネジメント」の実現に向け、精力的に活動している。
「レゾナックではトップの号令のもと、グローバルなタレントマネジメントを進めています。経営陣もそれぞれの言葉で日本の製造業再生への強い決意を語っており、それをかたちにして全社に定着させていくのが私のチームのミッションです」
レゾナックのタレントマネジメントでは、早期から優秀な人材を選抜し、経営者候補を可視化、各候補者の個別育成プランを作成。その最大の特徴は、村岡さんもいうようにCEOがオーナーシップを持っていることにある。経営陣が全社最適の視点で組織課題や後継者候補・次世代リーダー候補人材をオープンに話し合う「全社組織・タレントレビュー会議」も発足。2023年度は、レゾナック単体で約1300ポジションあるマネージャークラス以上全員の後継者計画を作成し、すでに8割を超える後継者リストがシステムに入力されている。
タレントレビューの仕組み
「タレントレビューはボトムアップ形式で行われます。具体的には、各組織のリーダーが自身の後継者候補をリストアップし、それを組織のレビュー会議で横並びで評価。より最適な人材配置を判断し、最終的にはCEOにリストが上がります。今年も7月から8月にかけて、全部門長とCEO/CHROによる個別の「タレントレビュー会議」を計15回実施し、各部門の組織や人材課題や人材育成の方針について協議をしました。この後、全執行役員が集まりほぼ一日かけて「全社タレントレビュー」を実施します。このようなタレントレビューをシステム導入初年度からここまで徹底的にやっている会社は、レゾナックくらいではないでしょうか」
それだけではない。同時に、各部門の若手から将来の幹部候補生をピックアップし、将来の経営幹部としてのキャリアを育成していく。
「優秀な人材をその部署で囲い込むのではなく、全社視点で優秀者には必要な経験を検討し、さまざまな部署でキャリアを積めるようにします」
プロジェクトの浸透、CEOも後押し
汐留の新オフィスにて
入社直後から、タレントマネジメント施策を他部門に説明したり、調整を行ってきた村岡さん。そのものおじしないバイタリティーには、他部門から驚きを持って迎えられたほどだ。
「決して私ひとりがバリバリやっているわけではなく、3名のチームで一丸となり、且つ各部門のHR Business Partnerをはじめとする現場の人事チームにも協力してもらいながら進めているプロジェクトです。特にチームリーダーは優秀で全幅の信頼をおけること、心理的安全性のもと忌憚のない意見交換ができることは、大きなやりがいにつながっています。
何よりトップの後押しがあることは、大きな力になっていますね。これは恐らく多くの日本企業の課題かと思いますが、前職のメーカーではボトムアップで施策を進めていたため、トップ承認を得るまでに多くのステップを踏む必要がありました。レゾナックのように初年度からこのように広範囲で後継候補者計画が進むのは珍しいとITコンサルの方からも伺っています。」
一方で、会社が統合したばかりゆえに、新たな課題が出てきていることも事実だ。
「全社に展開する中で、特に現場との温度差を埋めるコミュニケーションは重視しています。しっかりと理解をしてもらうことで誰も取りこぼすことなく、会社が一丸となって将来につなげていきたいですね」
子連れ海外赴任にも意欲
全社プロジェクトに邁進する一方で、プライベートでは中1と小3の男の子の母として忙しい日々を送る村岡さん。夫は2022年4月から兵庫に単身赴任中で、ワンオペ育児中だが、「子どもたちもある程度大きいのと、在宅勤務も可能。夫も月に1,2回ほど帰宅できるので、それほど大変さは感じていません」と言う。
実は、ワンオペ育児は今回で3回目。一番大変だったのは1歳の息子を抱えて、夫が先にスペインに赴任したときだった。
「子どもも小さくて仕事も忙しいうえ、スペインへの引っ越し準備もすべて私ひとりで、本当に大変でした。その後も、夫が横浜に先に赴任したときも、『小1の壁』で苦労しました」
子育てのペースがある程度落ち着いたいま、どうせワンオペ育児なら、国内でも海外でも同じだと、「チャンスがあれば子どもたちを連れて海外赴任にも挑戦したい」と意欲を見せる。
「これまでは子育てやコロナ禍などもあって、海外出張もほとんどできませんでした。グローバルで勝負したいという気持ちが強くあるので、ぜひ海外で腰をすえてチャレンジしたいですね」
子育てもキャリアもステージがある
自らのキャリアを振り返ったとき、「決してキラキラな道を歩んできたわけではない」と村岡さんは語る。
「メーカーで営業をやっているときも怒られてばかりでしたし、スタートアップではボコボコになるくらいの挫折を経験しました。そもそも、3年間も専業主婦でキャリアも中断。順風満帆な仕事人生ではなかったと思います。ただ、職場や家族の支えがあってなんとかここまでやってこられました。」
多くの女性は出産・子育てとキャリアの両立で悩んだりするが、そんな後輩たちに村岡さんは「それはあくまでも一時的なこと」だとアドバイスする。思うように仕事ができないと、焦りを感じがちだが、いずれリカバリーできるときがくるとエールを送る。
「最近はビジネス環境もどんどん変化しており、直線的なキャリアを築くことの重要性が薄れてきています。今は70%しかできなくても、100%頑張れるときがやってくるし、たとえキャリアが中断しても、またやり直せばいいんです。そのときできる自分のベストを尽くせば大丈夫。そんなふうに人生を気楽に捉えることで、道が拓けていくのではないでしょうか」
PROFILE
村岡 美菜子(むらおか・みなこ)
2022年レゾナック・ホールディングスにキャリア入社し、組織・人材開発部 組織・人材開発グループのプロフェッショナルとして、同社の経営の核となる人材開発戦略を担当。
