男性の育児休業取得を促す法改正を機に、企業は男性社員が積極的に育休を活用できる環境づくりが求められる。東京海上日動火災保険は社員が仕事と子育てを無理なく両立するための社内ネットワークの整備や福利厚生制度の充実などを積極的に進めている。同社の宮原裕一さん、戸山知美さん夫婦は長男の誕生を機に2人で育休を取得。宮原さんは「2カ月の育休の経験をしたことで家族の絆(きずな)が深まり、仕事の幅も広がった」と話す。
仕事の生産性高め、家族の時間確保
夫婦で家事の分担は決めておらず、「手が空いている方がこなす」と宮原さん
宮原家の一日は早い。日の出とともに長男、直央(なお)君(生後6カ月、取材時)の空腹を訴える〝モーニングコール〟で始まる。
息子の誕生を機に朝型生活に切り替えた宮原さんの始業も早い。オフィスに出社する日は「だいたい7時台には席に着いている」という。家庭で過ごす時間を確保するため、早めの帰宅を心掛ける。「仕事の成果を落とさないために生産性を高め、柔軟に働ける仕組みづくりを組織全体で進めている」(宮原さん)。
これまで企業営業や米国駐在を経験してきた宮原さんは現在、企業向け保険の商品開発の業務に携わる。新型コロナや加速する脱炭素化など世界情勢が目まぐるしく変わる中、保険会社も経済や社会の変化にいち早く対応し、企業活動を後押しする保険サービスの開発が求められる。宮原さんのグループはESG(環境・社会・企業統治)にも着目 。宮原さんはその中でも「E」に当たるグリーントランスフォーメーション(GX)実現を支援する保険商品を開発している。
現在育休中の妻、戸山さんは宮原さんと同期。グローバルコースとして2009年に入社後は一貫して企業営業を担当し、2年間の米国駐在も経験した。19年の結婚後も仕事を続けていたが、21年12月の直央君の出産を機に育休に入り、現在は育児に追われる毎日だ。
宮原さんも21年12月末から2カ月間、育休を取得した。「家事や育児に対する苦手意識は経験不足から来るものだと考え、誕生から日を置かずに経験を積んでおきたかった」と宮原さん。その甲斐あって今では直央君のお風呂入れやおむつ替えなど何でもこなす。
上司や後輩の理解に支えられる
休日は自宅近くの植物園や大学構内などを散歩して過ごす
宮原さんは以前から長時間残業や「男性は仕事、女性は家庭」という考え方はこれからの時代になじまないと考えており、戸山さんが妊娠中の時点で育休の取得を決めていた。だが当時、同社では男性社員が2カ月という長期間育休を取るケースは珍しかった。
折しも中小企業の男性社員の育休取得に対し保険会社として商品やサービスで支援できることはないかをチーム内で議論していたタイミング。育休取得は自身も成長する好機と捉え、上司や同僚に伝えたところ「職場の反応はポジティブだった」という。仕事の割り振りや後輩の人材育成など、社内のバックアップ体制は宮原さんも打ち合わせに入って決めた。
「メンバーに負担をかけてしまい申し訳ないという思いも正直あった」と宮原さんは振り返る。そんなある日、後輩社員から「宮原さんに安心して育休を取ってもらえるように自分たちが成長して頑張る」と声をかけられたときは「涙が出るくらいうれしかった」と話す。
復職に向け社内制度フル活用
戸山さんは在宅勤務などを活用しながら通常の勤務形態での復帰を目指す
今秋の職場復帰を目指す戸山さん。「幸い自宅近くに同じ会社の先輩ママ社員が住んでいるので、彼女から育児に関する情報を教えてもらって助かっている」。
育休明けはスムーズに職場復帰できるのか。そうした悩みに対し、同社は産・育休中や短時間勤務中の社員とその配偶者を対象にした外部講師による講演や、復職後の働き方や家事分担などについてペアで話し合うセミナーを開催していて、戸山さんも夫婦で参加した。宮原さんは「会社との接点が少なくなりがちな育休中も上司との定期的なミーティングが制度化されているなど、 会社の取り組みは心強く感じる」と話す。
共働き家族にとって「保活」はその後の働き方やキャリア形成を左右する重要な要素の一つだ。「保活コンシェルジュ」は仕事と育児の両立を支援する同社の福利厚生制度で、居住エリアやサービス内容など条件に合う保育施設をリストアップしてくれる。「今まで近くにありながら知らなかった保育園も紹介されていて参考になる」(戸山さん)。
在宅勤務や、午前5時から午後10時までの範囲内で自由に勤務時間を選べる制度などライフイベントに応じてフレキシブルに働くことができる制度も整っているという。
夫婦で支え合い、互いにキャリア磨く
同僚の後輩社員(右)も宮原さんに続き、今年9月から育休を取得予定だ
戸山さんは今後のキャリア形成について問われ、「引き続き企業営業部門で国内外に進出する企業の支援をしていきたい。将来はさらに視野を広げるため、これまでと違う角度から会社に貢献できる部署異動にも挑戦してみたい」と話す。
ロールモデルは米国駐在時の女性役員だ。「米国は男女関係なく家庭を持ちながらバリバリ仕事をしている人が多い。私たち2人も多様な人材として東京海上グループでキャリアを磨いていきたい」と意気込む。日本でも男性社員が育休を取得する機運が高まっている。「共働きを前提とする夫婦にとって、互いに支え合う気持ちが大切」と宮原さん。「日本は国際的にみても制度面・法律面で整備されているが、職場の雰囲気や企業文化で取得をためらう男性社員は多い。誰もが心理的な負担を感じずに育休を取得できるよう、そうした壁を破る一役を担っていきたい」と抱負を語った。
PROFILE
宮原 裕一(みやはら・ゆういち)
2009年東京海上日動火災保険にグローバルコースで入社。総合営業第二部を経て12年から企業商品業務部。16年に同部付米国駐在、19年に帰国。
戸山(宮原) 知美(とやま・ともみ)
2009年東京海上日動火災保険にグローバルコースで入社。本店営業第六部を経て14年に米国駐在。16年から本店営業第二部。21年11月から出産・育児休暇を取得中。
