新たな成長を模索する東京海上日動火災保険は多様なバックグラウンドを持つ人材を積極的に受け入れている。各分野でキャリアを磨いてきた社員がノウハウや技術を持ち寄り、交流することで社内の化学反応を狙う。2021年にキャリア採用で入社したデジタルイノベーション部の岡田紗英さんもその一人。〝チーム東京海上日動〟で、デジタルやテクノロジーを徹底的に活用し、新たな価値の創造に挑む。
代理店にプラットフォーム提供
オフィスはフリーアドレスで、社員は思い思いの席で仕事に取り組む
「お客様の使いやすさを考えると、この機能はブラッシュアップしたほうがいいよね」
再開発が進む東京駅エリアの一角に建つ常盤橋タワー。見通しのよいフロアではカジュアルな服装の2人組が飲み物片手に打ち合わせ、その隣にはディスプレイを前に白熱した議論を展開するグループが。一見、外資系IT(情報技術)企業の風景だが、これまでお堅いイメージを持たれがちだった保険会社のオフィスだ。
東京海上日動の岡田紗英さんは広告会社からの転職組だ。前職で培った知識と経験を生かし、保険領域におけるデジタル活用の加速へ向けた取り組みに注力する。
新型コロナの感染拡大により、これまで対面が主だった保険業界にもデジタル活用の波が押し寄せる。だが、「保険にはまだアナログな部分も多くある」と岡田さん。
彼女が所属するデジタルイノベーション部での業務は大きく2つある。1つめは保険代理店のデジタルマーケティング支援だ。代理店へのプラットフォームの提供や、その後のデータ分析・施策の支援等を行う。2つめは東京海上日動独自のデジタル人材育成プログラム「デジタルマーケティングユニバーシティ」の企画・運営だ。
デジタル人材育成へ〝大学〟開講
講師役を務めるデジタルマーケティングユニバーシティでは自宅からオンラインで教鞭(きょうべん)をとることもある
代理店のデジタルマーケティング支援の一つであるプラットフォームの提供では、代理店のウェブサイト上に掲載するコラムや動画など保険関連のコンテンツを制作・提供することで、保険商品の魅力の訴求やニーズの喚起を狙う。
代理店のウェブサイトの閲覧数や離脱率といった指標を割り出し、効果的な施策につなげるのがデータ分析の役割で、保険加入に至るまでの顧客行動を可視化する。例えば保険商品を案内する紙のチラシにサイト誘導のための2次元コードを印刷し、チラシやメールのリンクからサイト誘導の効果がどれだけあったかを計測する仕組みを整える。どのチラシやメールから「いつ」「どんな人が」「どれだけ」サイトに訪問してくれたのか、流入数や滞在時間などのアクションを解析し、効果的かつ効率的なマーケティング手法を提案する。
2つめのデジタルマーケティングユニバーシティは社内のデジタル人材育成を目的に今年発足した企業内大学で、岡田さんらキャリア社員5人が講師役を務めている。受講者は「顧客理解」「集客・ナーチャリング」「UI(ユーザーインターフェース)・UX(ユーザーエクスペリエンス)」「分析」の4領域の必修科目に加え、自身の業務や習得したいスキルに合わせてコンテンツを選択して受けることができる。
受講者は規定の出席数をクリアした上で修了テストを受験すれば、社内の人事・研修システムに登録される。「これらのデジタルマーケティング支援を通じて、代理店さんや社員が目指す姿を一緒に考えていきたい」と岡田さんは意気込む。
社員の面倒見の良さを実感
社員間の距離が近く、会議も和気あいあいとした雰囲気で進む
大学の経営学部で消費者行動論を専攻していた岡田さんは広告会社で5年間、クライアント企業のデータ分析・活用に携わってきた。やりがいを感じていたものの、業務はクライアントの意向次第という面もあった。「事業会社で主体的にデジタルマーケティングに携わりたい」という思いが次第に強くなり、転職を思い立った。
転職先の条件は「事業会社であること」と「これまでのスキルを生かせる職種であること」。業界はあまり考慮せずに化粧品・日用品メーカーや電機メーカーなど数社にエントリーしたという。その中で東京海上日動を選んだ理由は「保険業界はデジタル活用の領域で伸びしろがあると判断したのと、業界リーディングカンパニーの東京海上日動でデータ活用が進めばさらに成長できると考えたから」。約2カ月間で数度の面接と懇談を経て入社が決まった。
東京海上日動やその社員の印象に〝コミュニケーションのスピード感〟と〝面倒見の良さ〟を挙げる。他社はエントリーしてから返事が来るまで1、2週間かかることがあった。一方で東京海上日動はエントリーしてすぐに「明日面接はどうですか」と連絡が来た。こうした対応の速さから仕事の進め方のスピード感をイメージできたことが入社を決める大きな動機となった。
東京海上日動には学生時代の友人が既に在籍していて、忙しい中でも親身になって転職の相談に乗ってくれた。面接相手の社員からも詳しい業務内容や、会社が目指すミッションについて熱意を持って説明してもらった。こうした社員の誠実さのイメージは、入社後の現在も変わっていないという。
他部署に短期留学、経験深める
「データ分析手法を伝授した社員がお客様から感謝の言葉をかけられたと聞くと、自分のこと以上に嬉しい」と岡田さん。
岡田さんは東京海上日動に入社してから記憶に残る出来事として、デジタルマーケティングユニバーシティの集客の取り組みを挙げる。
上司の理解を得て、これまで制作経験のなかったプロモーションビデオを企画・構成段階から短期間で作り上げた。研修の集客を目的としてプロモーションビデオを制作するといったアプローチは社内初の取り組みだった。こうした熱のこもった取り組みに周囲も次第に心を動かされ、結果的に予想以上の反響があった。「定員の3倍以上もの応募者が集まったときのフロア全体の盛り上がりに感動したのと同時に、チーム一体となって目標に向かって仕事をしている充実感があった」と振り返る。
一般的なキャリア社員は特定の部署や職種に固定されがちだが、東京海上日動では社員の知識やスキルを広げる試みを始めている。その一つが社内留学制度だ。自分が所属する部署とは異なる部署に〝短期留学〟することで、他部署の仕事を通じて経験を深める。岡田さんも22年9月に2週間、エネルギー系企業を担当する営業部署に加わり、一営業社員として実際にお客様や代理店のもとへ足を運んだ。
これまでは営業部店の支援という役割を担っていた岡田さんだが、第一線の営業社員となって東京海上日動の社員の動きを肌で感じ、顧客に寄り添うことで「お客様や営業社員のすぐ隣りにいる感覚」に目線が切り替わった。留学後は上司や同僚から「今まで以上に仕事に熱が入っているね」と言われる機会も増えたという。
「データ活用×人事」に興味
また同社は業務の一環として、自身が所属する部署の業務を担いながら本店コーポレート部門のプロジェクトに参画する社内副業制度「プロジェクトリクエスト(プロリク)制度」も用意している。岡田さんは現在、人事企画部のプロリクに参加。デジタルマーケティングで得た経験を人事企画部にフィードバックすることで、これまで気付かなかった課題が見えてくることもあるという。
岡田さんが所属するデジタルイノベーション部でもプロリクで他部署のメンバーを複数人受け入れている。営業部署から9人のメンバーが参加するデータ分析チームでは岡田さんがチームリーダーとしてデータ分析スキル向上を目的に社員育成を担う。「キャリア社員だけが専門スキルを発揮するのではなく、自分たちの経験や知識を社内に広め、デジタル人材育成や会社のデジタル領域の強化に貢献し、東京海上日動の進化につなげていきたい」と語る。
そんな岡田さんに今後やってみたいことを聞くと、「今までの自分のキャリアを横展開するために、グループ会社への出向にも興味がある」と話す。プロリクで培った人事の知識を生かせる〝データ活用×人事〟の取り組みにも興味があるという。
デジタルの活用で急速に変化を遂げる保険業界。岡田さんの活躍の場は広がり続ける。
PROFILE
岡田 紗英(おかだ・さえ)
広告会社勤務を経て2021年8月、東京海上日動火災保険にキャリア入社。22年6月、プロジェクトリクエスト制度を活用して人事企画部のプロジェクトにも参画。
