東京海上日動は社員の働きがいや多様性を重視し、彼らの挑戦を後押しする制度を整備している。同社名古屋営業第二部営業第二課の末石晴菜さんは自身の成長のために雇用形態の転換を決意し、社内副業やグループ内のビジネスコンテストなどの制度をフル活用。さらなる飛躍を目指してMBA(経営学修士)の取得も目指す。結婚と出産を経験し、「家庭のありがたみを実感する」と話す。彼女の人生の選択には家族の理解も欠かせない。
家事は効率重視、夫婦で連係
自身を「きのうの自分よりもレベルアップしていないと気が済まない性格」と分析する
オフィスビルが建ち並ぶ名古屋有数のビジネス街、中区丸の内。夕暮れの桜通を行き交うビジネスパーソンの中に末石さんの姿がある。終業時間の午後5時になるとオフィスを飛び出して1歳8カ月の長男が待つ保育園に大急ぎで向かい、車で通勤する夫にピックアップしてもらい帰宅する。
出産直前に外部の経営大学院に入学し、取材時点で23年3月に修了予定の末石さんは「家事は効率重視」と話す。同7時に始まるオンラインの講義に間に合わせるため、ご飯づくりや洗濯、子どものお風呂入れなどは夫と分担・連係してこなす。「今のところ子どもが病気で保育園を休むことも少なく、毎日7時には就寝してくれて助かっている」という。
現在、末石さんは主に名古屋の住宅産業系の上場企業を担当。担当先企業のリスクマネジメントなど保険の枠にとどまらない提案や、企業が個人の顧客向けに保険商品を販売する際の支援などを手がける。一方、社内では課長代理として営業数字の管理などを統括する重要な立場にある。仕事、育児、MBAの3足のわらじを履き多忙を極める生活だが「大変なこともあるが、それも含めて充実した毎日だと感じる」と話す。
仕事では本業に加えて社内副業制度「プロジェクトリクエスト制度(プロリク)」やグループ内のビジネスコンテスト「TIP(ティップ)」などの制度を昨年から立て続けに経験し、キャリアの幅を広げ続ける。「夫の理解や子どもの存在がなければ、こうした挑戦はしてこなかっただろう」と末石さん。
「自社の良さ」問い、法人営業へ
10年後に部下を指導する自分の姿を見据えて、今から能力や経験を高めていたいという
末石さんが東京海上日動に入社したのは2014年。横浜生まれ、横浜育ちの彼女は転居を伴う転勤がない「エリアコース」として入社し、横浜中央支店に配属された。同社の保険商品を専門に取り扱う専属代理店の営業支援が主な業務で、中小企業向けの火災保険や労災保険の販促支援などに注力してきた。
そんなある日、長年同社の専属の専業代理店(保険販売を専業とする代理店)であるベテラン経営者からふと「東京海上日動の良さって何だと思う」と尋ねられ、返答に窮した。専属専業代理店以外担当したことのなかった末石さんは、それまで自社商品の特徴や自社の優位性について深く考えたことがなかった。
「他社とダイレクトに比較される環境に身を置いて自分の力を試してみたい」。そうした思いが次第に強くなっていった。そのころ、新たな仕事にチャレンジできる「JOBリクエスト制度」の存在を知った。募集ポストのうち「競合の激しいマーケットの営業担当」に手を挙げ、18年に法人営業を担当する本店の部署に移った。
夫の後押しでコース転換
法人営業では持ち前の行動力とガッツで新規開拓を続け、それまで取引実績のなかった大手飲料メーカーからの契約を獲得するなど着々と実績を残していった。一方でこれまで取引していた顧客を他社に奪われることも目の当たりにし、法人営業の厳しさを肌で感じたという。
そんな環境でもまれる中で実感した自社の強みは総合力。自分に足りないものを他のメンバーに補ってもらい、ときにはグループ会社のソリューションの協力も仰ぎながらチームを挙げて提案をすることで結果を出すことができた。
「法人営業に異動してから、海外や全国の様々な場所で経験を積んできた上司や同僚に助けてもらい、多くのことを学ばせてもらった」と末石さん。異動して1年がたとうとしていたころ「自分もエリアを変えて働くことで多様な価値観に触れてみたい」と、国内外を問わず転勤のある「グローバルコース」への転換が頭をよぎった。
ただ当時は、会社員である夫と結婚したばかりで、彼の勤務先は東京だった。ある日、反対されるのを覚悟の上で思いをぶつけてみたところ「自分のやりたいことを優先するべきだ」と背中を押してくれた。末石さんはグローバルコースへの転換を決意し、翌年に名古屋に転勤になった。夫は末石さんの異動に合わせて転職し、現在は名古屋で働く。「夫が背中を押してくれなければチャレンジできていなかっただろう」と末石さんは話す。
プロリクで視野広がる
プロリクには全国の社員がオンラインで参加。「色々なエリアの営業担当者の話が聞けて勉強になる」
異動翌年の21年5月には長男が誕生。出産前に任せられていた大きなプロジェクトをやりとげたいという強い思いもあり、同年8月には職場に復帰した。
今年度からは課の営業推進を統括する立場を任され、本部の最新情報をいち早くつかんで現場に展開する重要性を感じた。担当していた顧客企業に対しては、クリーンエネルギーへの転換で脱炭素社会を実現するグリーントランスフォーメーション(GX)に関するソリューションを提案していた。GXへの理解を深めながらコーポレート部門の仕事も経験したい。末石さんは企業営業開発部が実施するプロリク「GXビジネスプロジェクト推進」への参加に手を挙げた。
プロリクに参加する全国のメンバーは2週間に一度開かれる打ち合わせを通じてGXについて学び、新商品・サービスの開発に関わる。末石さんはプロジェクトと現場の橋渡し役として、顧客と直接やりとりしている営業の声をプロジェクトに反映させ、商品・サービスのブラッシュアップに努めた。「プロリクに参加したことでコーポレート部門の動きが分かり、顧客への提案の幅や仕事の視野が広がった」という。
原動力は「成長し続けたい」
週末は仕事や大学院の講義を入れず、家族と過ごす時間を最優先にしている
大学院で起業のプログラムを受講したことがきっかけで新規事業に関心があった。国際協力機構(JICA)に勤務する大学院の同級生から、すべての人が金融サービスを受けられる取り組みである金融包摂の話を聞き、「当社のソリューションやネットワークを活用すれば金融包摂に貢献するサービスができるかもしれない」。そう確信した。
早速、本店時代の同期に連絡を取り、TIPへの参加を誘った。TIPはイノベーションの創出を目的に社員から新商品や新規事業のアイデアを募る社内起業制度で、優れた案の応募者は人事異動を経た上で事業化を目指すもの。外部の人材がメンターとして付き、プランの具現化に向けた支援をしてくれる。声をかけた同期は「私とはまったく逆のタイプで、一緒に働いていたときは意見がぶつかることも多かった」(末石さん)。しかし「考え方の異なる人と組んだほうがいいものができる」と考え、あえてパートナーに選んだ。
末石さんらのアイデアは結果的に最終プレゼンの一つ手前まで進むことができたが、事業化には至らなかった。だが「ゼロから事業を検討する経験はとてもいい経験になった」と振り返る。
様々な社内制度をフル活用し、多くのことにチャレンジする末石さん。その原動力を問うと「成長し続けたいという気持ち」とポジティブな答えが返ってきた。「仕事を通じて自己実現をしている自分と、子どもや家族と向き合っている自分のどちらも大切。結婚、出産を経た今が一番充実して楽しいと感じている」。
「将来は大学院で学んだ経営学の知識を生かし、全社戦略に関わる仕事をしてみたい」と目標を語る。彼女の挑戦は終わらない。
PROFILE
末石 晴菜(すえいし・はるな)
2014年、東京海上日動火災保険にエリアコースとして入社。横浜中央支店を経て18年本店営業第四部営業第一課へ。グローバルコースに転換し、20年から名古屋営業第二部営業第二課。
