地震や台風などの自然災害が多発する日本。個人も企業も防災・減災の意識を高めて“いざ”という時に対処し、速やかに日常に復帰する術と力が求められる。東京海上日動火災保険は2024年7月に「レジリエンス室」を開設し、激甚化する自然災害に備えるソリューションの提供を始めた。同室の立ち上げメンバーの1人である寺島碧さんは、お客様の「万が一」に解決策を提案し、防災・減災のパートナーとして伴走する業務に挑戦している。
防災・減災の「プロ」として意見を求める経営者が増えたと喜ぶ
24年8月下旬から9月2日にかけて、台風10号は日本の南海上から九州へ上陸し、西日本から東海地区で停滞や進路変更を繰り返すなど迷走した。広い範囲で主に大雨による被害をもたらし、気象庁によると死傷者は19人、住宅の全半壊は50棟に及び、床上浸水も200棟を超えた(同年9月9日時点)。
大雨と強風に伴って刻々と状況が変わる中、稼働していたのがチェーン店を全国に展開する顧客企業に導入したリスクコミュニケーションプラットフォーム「Chainable(チェイナブル)」。このツールは、グループ会社である東京海上ディーアール(東京・千代田)が開発したもので、災害リスク管理のために使われている。顧客企業の本部から各チェーン店に対し、気象の変化見通しに基づいた被害予測や安全確保に対する情報を個別に提供できるほか、災害時の現地の情報を写真や店舗従業員の書き込みから把握することや、各店で働く従業員の安否確認などもできる。
「本部から全国各地の店舗に警戒や対策をリアルタイムで伝えられると同時に、各地の店舗から現在の状況について情報を吸い上げることが簡単にできます。今回の台風で、このプラットフォームを使っていただいたお客様から『情報の伝達がとてもスムーズにできて助かった』との声をいただきました」
寺島碧さんはそう話し、「Chainable(チェイナブル)」の効果に、安堵した表情を見せる。
全国に広がる数百ものチェーン店との連絡を、従来のようにメールや電話・ファクスでやり取りするとなると膨大な手間ひまと、一時的に大量の人員が必要になる。それだけに災害時に欠かせない情報コミュニケーション基盤の整備は、企業にとって急務となっている。
災害に強い社会の実現へ、保険会社の新たな役割
レジリエンス室の仲間とはオープンになんでも話し合う
この「レジリエンス」という英語は、もともと「回復力」という意味がある。東京海上日動はこれを、「災害に伴う被害の防止・最小化、回復の迅速化など、状況の変化に対し適応・転換しながら回復する能力」と考えている。
「お客様や社会の“いつも”を支え、“いざ”をお守りする」という東京海上日動のパーパス実現に向けた最も大きなテーマの一つが「レジリエンス」だ。寺島さんは「一人ひとりが強い使命感を持って取り組んでいます」と指摘。グループ各社とも連携し、「保険やソリューションを幅広くかつスピード感をもってお届けすることで、お客様や地域社会のレジリエンス強化を実現していきたい」と、レジリエンス室立ち上げの意気込みを語る。
災害のリスクを十分に理解し情報を蓄積してきた保険会社だからこそ「自然災害に被災しないようにする、もし被災しても直ちに復元できるように準備をしておくという、事前の『備え』を、保険とソリューションを一体で提案することにより実現する義務があると考えています」と力を込める。
レジリエンス室では寺島さんが担当している「防災・減災」のほか、「サプライチェーンマネジメント」や、「インフラ・設備保全」を重点領域と定め、レジリエンス向上に資する保険やソリューションの普及を目指している。
「どんな企業を回って歩いても、防災や減災に対する課題認識はみなさんが持っています。でも何から始めればいいのかわからないという経営者もいました。また他にもコストがかかる経営課題がある中で、BCP(事業継続計画)の策定や防災・減災への準備をどこまで優先するべきかなど、悩まれている企業が多いと実感しました」
スタートしたばかりのレジリエンス室は、現段階では企業や自治体向けに各種ソリューションの提供を働きかけている。寺島さんは「将来的には個人向けのソリューションも提案が可能になればと思っています。それこそが、お客様のために保険会社が果たせる貢献になると考えています。最終的にはお客様、地域社会からみてレジリエンスと言えば東京海上日動に相談したいと思っていただくことが目標です」と力を込める。
自ら手を挙げた異動が転機に
13年4月に転居を伴う転勤のない「総合職(エリア限定)」の社員として入社し、最初は営業の部署に配属された。3年目は特に大変だったと振り返る。「お客様のもとを訪問しても、不安と緊張で、何を提案すべきかの選択肢も見えなくなってしまい、自信を失っていたのだと思います」
そんな折、東京海上日動では、人事制度改定により、「ワイド型」というエリア限定の社員が手を挙げれば、一定の地域内で転居を伴う転勤ができる制度が始まった。それまで都内の親元から会社に通勤していた寺島さんは、「新しい人事制度は物理的にも精神的にも独り立ちするチャンスだ」ととらえた。
実際に手を挙げると、茨城県つくば市への転勤が決定した。
代理店の「お客様を守る」姿勢、心に刻む
保険会社だからこそ「災害が起きる前の準備と心構えを提供できる」
友人も親戚もいない、見知らぬ土地で始まった全くの新生活。戸惑うことも多かったが、「何よりも素晴らしい代理店のみなさんと出会えました」と当時を振り返る。
つくば時代に担当していた代理店さんとの活動は、特に印象的だったという。
「全国に10拠点ほど展開している代理店さんの体制強化に関わりました。代理店さんは、組織としてお客様をお守りするための体制整備に力を入れており、その中で本店の組織力向上や、新しく拠点を設置する際のオペレーションの構築支援などを行いました。代理店さんの『各地域のお客様の暮らしや事業の発展に貢献する』という理念に共感し、そのご支援ができたことに私自身、大きなやりがいを感じました。また、地域のお客様の期待に応え続けている代理店のみなさんの姿に胸が熱くなりました」
自ら新たな体験をすることを選び、転勤先で奮闘し続けながら、「お客様を守ることが保険会社の本分である」という信念を自分の意識にがっちりと組み込むことができた。「この転勤がなければ、楽しく仕事をしている今の自分はありません」と、寺島さんは言い切る。
つくばでの勤務を終えると、寺島さんはデジタル戦略部やデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する部署などを経験した。そこでは、紙手続きが当たり前だった保険契約書類をデジタル化することで、顧客利便性を高めるプロジェクトを推進。またコロナ禍を“追い風”にして、代理店がお客様とオンラインで話すことで契約できる仕組みなどを企画・推進してきた。
「お客様の利便性だけでなく、代理店の業務効率化にも資するので、これもつくばで出会ったみなさんの顔を思い浮かべながら取り組めました」
「遠距離」夫婦でも互いの思いに伴走
離れて暮らす夫と共通の趣味はランニング。各地で大会出場を楽しんでいる
つくばで3年間を過ごし、その最後の年に寺島さんは結婚した。相手は社内で最初に配属された部署にいた男性だ。
夫は全国転勤のある総合職の社員のため、いずれは転勤になる可能性が高いが、それでも夫婦で話し合って「夫の転勤が決まっても、それぞれが自分の持ち場で働いていこう」と決めたという。現在は夫が大阪、自分は東京でという暮らしだが、週末になるとどちらかに集まって過ごす。
「夫は、出会った時から仕事でもプライベートでも応援してくれる人でした。『仕事が面白くなってきたのに、どちらかのキャリアに合わせなきゃいけないのはもったいないな』と話したら、『そりゃそうだ』と理解して、賛同してくれました」
夫婦の共通の趣味は「走ること」。週末に会う東京か大阪で走るだけでなく、時に地方でマラソンの大会があると現地集合して参加するという。
最初は1キロメートルも走れなかった寺島さんは、今では会社から東京の自宅まで約10キロを走って帰ることもある。秋には夫婦で休暇をとって米国のシカゴマラソンに参加する予定だ。社内結婚の2人は、お互いの思いを大事に守りながら伴走する、良きパートナーであるようだ。
災害に備えるパートナーとしての使命
現在所属するレジリエンス室は、つくばでの勤務でより強くなった『お客様を守る』という使命感を発揮しやすい職場だ。
寺島さんは、防災・減災の取り組みを通じて、災害から顧客を守ることに強い責任感を持っている。「自然災害は避けられないが、準備と対応で被害を最小限に抑えられます。お客様の『万が一』に解決策を提供し、防災・減災のパートナーとして伴走することで、『ありがとう』と感謝される瞬間が、私のやりがいです」
今後もレジリエンス室の活動を通じて、多くの企業とともに災害対応力を高めていく決意を新たにしている。
PROFILE
寺島 碧(てらしま・みどり)
2013年本社情報産業部営業第三課入社。16年茨城支店茨城南支社で地域専業代理店の営業担当。19年東京海上ホールディングスに出向し事業戦略部デジタル戦略室、dX推進部ミライ推進グループなどを経て、23年マーケット戦略部。24年7月から現職。
