Empowerment Report

エンパワーメントレポート

自らの経験を新規ビジネスに 社会課題解決への熱い思い

東京海上ホールディングス
ビジネスデザイン部 企画グループ アシスタントマネージャー

黒木 由布子さん

2025.03.14 掲載

東京海上グループでは、イノベーションマインドを高め、各自がチャレンジする風土づくりを目指している。その施策のひとつが社内のビジネスコンテスト(TokioMarine Innovation Program、以下TIP)。イノベーションの創出や事業活動を通じた社会課題解決に向けたアイデアを募り、応募者自ら実現する制度だ。2023年このTIP個人・チーム部門で最優秀賞を受賞したのが、現在、東京海上ホールディングス(以下、東京海上HD) ビジネスデザイン部で新規事業創出に取り組む黒木由布子さんだ。そのアイデアはどのように生まれ、これからどう実装化していくのか。TIP経験談とイノベーションをサポートする社内の体制について詳しく聞いた。

「おひとりさま」のお困りごとを解決

 2040年に単身者は日本の世帯全体の4割を占める──。そう予測される中、将来に対する不安解消へのニーズは高い。そんなおひとりさまをターゲットとしたソリューションのアイデアで、TIPの最優秀賞を受賞したのが黒木さんだ。

 黒木さんが応募したのは、おひとりさまをターゲットとしたあるサービス。

 誰もが急に直面しうる顧客課題に対し、事前に気軽に対策できるようにする。そんなソリューションをイメージしている。

TIPで最優秀賞を受賞したサービスの実現に向け、忙しい日々を送る黒木さん

自身の原体験から見つけた社会課題

 最優秀賞を受賞したサービス案は、黒木さん自身の原体験から生まれたアイデアだ。親の急な入院などを経験し、自分自身の将来への不安を感じていた。また、将来に不安を抱える同世代が多くいることに課題を感じていたという。

 さらに親をみとった経験を通じて「突然、課題に直面する現実」、「夫婦もいつかはどちらかがひとりになってしまうこと」、「ひとりの不安は、誰もが抱えうる課題」と痛感。介護を通し、志を持って献身的に働く看護師や介護士と交流したことも、この社会課題を意識するきっかけとなった。

 とはいえ、すぐに「新規ビジネスを」と浮かんだわけではなかった。この課題認識を同期に話したところ、TIPへの応募を勧められたのだ。以前からTIPの存在を知っていたが「保険商品部門のコンテスト」と思い込んでいたという。「入社以来、資産運用の部門で従事してきた自分には、縁遠いものだと考えていました」

 誰でもTIPに応募できることを知り、アイデアを事業化してみようと一念発起。「多様な職種、年齢、部署の方、そして女性も多く応募していることに勇気づけられました。この顧客ニーズを会社に伝えたい。そんな純粋な気持ちが強かったです」

自身の体験から「おひとりさま」への不安を解決するサービスを掘り下げた

折れそうなときも周囲の応援が支えに

 TIPの応募方法は個人単位と組織単位の2種類あり、黒木さんは個人でエントリー。選考プロセスは4段階で構成され、1stステージは簡単な文書の提出のみ、2ndステージでは事業計画資料を提出、3rdステージではオンラインでプレゼン、Finalステージは役員や外部有識者の面前でプレゼンをする。3rdステージ進出以降は、外部講師を招いてのプレゼン研修、外部メンターによる壁打ちなどのプログラムが用意されている。

 「もともと積極的なタイプではない」と自己分析する黒木さんがTIPに応募できたのは、1stステージが300文字のアイデアベースというハードルの低さだった。最初の挑戦は2022年で、2ndステージで敗退。あらゆる顧客の課題を解決しようとしてソリューションが定まらなかったと振り返る。

 23年の挑戦は、前回のフィードバックを読み返し、顧客の課題を1つに絞りこみ提案。3rdステージで指導してくれた外部メンターやプレゼン講師のアドバイスが大きな支えとなった。なぜこの顧客課題に対する解決策がこれなのか。外部メンターとの壁打ちを繰り返し、何度もノートに書きだすことで、顧客課題の特定、それに対する解決策の解像度がクリアになっていった。

 日常の担当業務とTIPの両立が辛くなり、弱音を吐いた時も「この課題を解決したいなら、黒木さんがやるしかないよね」と外部メンターに鼓舞されてきたという。そんな黒木さんをグループ会社も含め、多くの方々がアンケートやインタビューに協力し応援してくれた。

 「多くの方の不安や経験を伺い、この社会課題を解決したい気持ちが高まっていきました」と黒木さんは振り返る。

新規事業立ち上げを部署全体でサポート

 自身にとっては予想外の受賞だったという黒木さん。受賞後はビジネスデザイン部所属となり、新規事業の実装化にまい進する日々を過ごしている。ビジネスデザイン部には他にもこれまでのTIP受賞者が所属。それぞれが解決したい社会課題と向き合い、試行錯誤を重ねている。また、すでにビジネスデザイン部から生まれたサービスもいくつかあるという。

 TIP受賞者が配属されると、部内にあるインキュベーションチームによる新規事業立ち上げのサポートを受ける。「私のような新規事業初心者もハウツーやスキルを学ぶことでチャレンジできる環境を整えてもらっています」。

 「上司や周囲の方と、適宜1on1で相談しアドバイスを受けています。混乱しがちな私を導き寄り添ってくれます」。同じように事業化を目指す同僚とも悩みやアドバイスを共有。キャリアや年齢、性別もバラバラな仲間から新たな刺激を受けることも多い。

 「様々なバックグラウンドで集まった仲間がチャレンジしている姿に触れ、誰でも、何歳からでも挑戦できると強く感じます」。「また、新規事業を通して社内外の多くの方々と出会い、サポートを受けています」。そう語る黒木さんは、スピード感をもってアイデアを事業化したいと考えている。また、組織エントリー部門最優秀賞の青森支店の方々とも進捗などを情報交換して、背中を押してもらっているという。

ビジネスデザイン部では上司や仲間が丁寧にサポートしてくれるのが心強い

あらゆるキャリアに挑戦のチャンスが

 一方で、黒木さんはTIP運営メンバーとしても活動。TIPは年々応募数が増加しており、2024年は個人・組織部門で合わせて300件を超える応募があった。TIP事務局は、ビジネスデザイン部、経営企画部、人事企画部などの関連部署から集まる複合チーム。その中で黒木さんはより多くの人の参加を促すための情報発信や啓発活動を担う。

 TIP体験談を動画や講演会などの機会を利用して披露し、広く社員に応募を呼びかける黒木さん。特に自身のような事務職出身の女性の後押しができればと個別で相談を受けることもある。「後輩たちが日常業務をこなしながら、TIPに挑戦する姿に元気をもらう」という。ある後輩のアイデアに対して、外部審査員から「こんなに若い方がこの社会課題に挑んでいる姿勢に驚く」といううれしいコメントがあったそうだ。

 そんな後輩たちに向けて、黒木さんは「何かやりたいことがあるなら、少しでも早く一歩を踏み出してほしい。遅いことはないが、間違いなく早い方がよい」と語りかける。そして、培ったキャリアの学びは、必ず糧になるとも言う。

 昔の職場で出会った10歳上の尊敬する女性先輩には、今でも相談に乗ってもらうという。年齢にとらわれずに新しいことに挑戦し続ける姿に影響を受けてきた。「年上の方が頑張っている姿を見ると『私も、もう少し頑張れるかな』と勇気をもらえます」という。

 また、昔の上司には「社会は常に進化している。前年と同じやり方をしていては、エスカレーターで降下しているようなもの」と言われ、少しでも改善していく姿勢の大切さを知った。

 そんな黒木さんが常に心に留めているのは「自分の知識や経験で、お客様を守りたい」ということだ。若い頃に担当した住宅ローン業務。審査基準に満たない、あるお客様のために何とか稟議(りんぎ)を通そうとした黒木さんに上司が叱責と共に言った言葉。

 「君のやさしさは、本当のやさしさではない。君の判断が、このお客様を将来、自己破産に追い込むことになる」。その厳しい言葉は、プロとしてのあり方を問うものだった。「今回の新規事業も、自分の知識や経験を少しでも社会に還元できたら、とそんな気持ちで挑んでいます」

気のおけない友人との時間でリフレッシュ

 今はアイデアの事業化ばかりを考えている黒木さんだが、オフはできるだけゆっくり過ごすように。友人との交流や姪や甥たちと一緒に野球観戦を楽しむことで、大いにエネルギーをもらっている。また、長年、年賀状だけのやり取りだった友人とも、このサービスのヒアリングをきっかけに会う機会を得るなど、新規事業が交友関係を更に広げてくれている。

 「ビジネスの立ち上げが見えてきた時には、協力してくれた友人たちと旅行を楽しみたいですね」。そんな未来の夢を追いかけながら、黒木さんのチャレンジはまだまだ続いていく。

ヤクルトスワローズの大ファン。姪っ子たちと球場に足を運ぶ

PROFILE

黒木 由布子(くろき・ゆうこ)
1994年東京海上火災保険に一般職として入社し、融資、社債、投資信託、財務企画などの領域で活躍。2023年にTokioMarine Innovation Program(TIP)で最優秀賞を受賞。2024年4月より東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部所属。社会課題解決を実現するために受賞アイデアの実装にむけ取り組む。TIP事務局運営にも携わる。

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