生成AI(人工知能)導入のハードルが下がり、AIを活用したデータ分析による業務効率化への関心が高まっている。しかし、データ分析基盤を導入したものの、明確なビジネス価値が見えてこないと悩む企業は多い。そうしたAI導入の壁を乗り越えるカギは、データ分析基盤ではなく、3つのリテラシーにあるという。創業50年の歴史を通じてあらゆる業態の成功事例を知るSAS Instituteが分かりやすく解説した。
SAS Institute Japan株式会社
Sr Manager Business Development,
Architecture & Platform Solution
小林 泉 氏
AIを活用したデータ分析分野をけん引するソフトウエア開発企業として、140以上の国・地域で事業を展開するSAS Institute(以下、SAS)。「1976年の創業から約50年にわたり、データ分析ソリューションに取り組んできた歴史があり、ほとんどのビジネス領域で具体的なビジネス価値創出に直結するデータ活用のユースケースを確立しているのが強みです」とSASの小林 泉氏は揺るぎない自信をのぞかせる。
データ分析の前にディシジョンを明確化
ここ1~2年、データ分析に携わる人員の増強とAIプラットフォームの導入を推進する企業が飛躍的に増えている。一方で、AI活用にリソースを投下して取り組んでいるものの、経営指標の改善にどの程度貢献しているのか、投資効果が見えにくいと悩む経営者も少なくない。小林氏は、こうしたケースでは、構築さえできれば価値あるデータ分析ができるという誤解のもと、誤った投資戦略がとられていることが多いと指摘する。
「こうした状況から脱却するには、『データは価値を生み出さない、ディシジョンのみが生み出す』ことを認識することです」(小林氏)という。データ分析で何らかの洞察を得ても、それはゴールではなく、その洞察がディシジョン、つまり経営判断や業務上の意志決定に埋め込まれ、顧客や市場に作用して初めて価値が生み出されるということだ。
SASが提供するAIデータ分析基盤は、データエンジニア、データサイエンティスト、MLOps(機械学習運用)エンジニアらの役割を支援する機能を備える。競合ソリューションと比べて、データエンジニア関連業務は16倍、データサイエンティスト関連は3.5倍、機械学習運用エンジニア関連は4.5倍、全体で4.6倍の業務生産性の向上を実現している。
しかし、それだけでは不十分だと小林氏は述べる。「AI活用を成功に導くには、データ分析基盤やデータサイエンス技術の整備だけでなく、ディシジョニング・リテラシー、データ・リテラシー、AI倫理リテラシーの3つを企業内の全員が身に付けることが必要です」という。
ディシジョンの成熟度に応じて経営が改善
AIデータ分析基盤への投資を成功させるには、データ分析によって解決したい「課題」とその解決につながる「ディシジョン」をあらかじめ明確にしておくことが重要となる。この「課題」と「ディシジョン」を的確に設定する力のことを「ディシジョニング・リテラシー」と呼ぶ。
例えば製造業において、期待収益に到達するための課題が、生産歩留まりが低いことだとする。この場合、必要なディシジョンとしては、データ分析に基づく工程の改善などが考えられる。
【画像をクリックすると拡大します】
このように様々なビジネスで設定されるディシジョンを目的別に体系化すると、データの可視化、データ分析による洞察や手動による業務改善、データドリブンでの業務上の意志決定の自動化といった成熟度に分類できる。「後者の段階に進むほど経営へのインパクトは高まり、経営指標の改善効果が期待できます」(小林氏)。
【画像をクリックすると拡大します】
データの偏りを認識して仮説を実験で検証
続いて求められるのは「データ・リテラシー」だ。基本的にはまず、すべてのデータにはバイアスがかかっているという視点を持つことが大切になる。データが生成された背景や取得方法、生成の目的などによって偏りが生じてしまうからだ。「手元にあるデータを起点に何ができるかを検討してしまうケースを多く見てきましたが、それではなかなか成果は出ません」と小林氏は警鐘を鳴らす。
そこで、データの先にある真実を見極める力としてデータ・リテラシーが必要となる。SASはこれまでの経験から、データ・リテラシーとして次の3つを重要視している。1つは、ビジネス上の課題からスタートしてデータの可能性を見極める力である。課題を解決して想定した目的を達成するには、どのようなデータを用い、どのように料理すればいいかという順序で検討する必要がある。
2つ目は、データが意味していることを正しく理解する力である。データは過去の意思決定の結果であることを念頭に置き、データの収集方法や生成された背景の入念な確認が重要となる。3つ目は、データを通して真実を理解する力である。データは現実世界の一部を切り取ったものでしかないことを認識し、現実世界の真実を推定するために実験で検証し見極めていく姿勢が求められる。
倫理面の対策も導入前に確認
AI活用を成功に導くもう1つのポイントは「AI倫理リテラシー」である。これは、データに基づいてディシジョンを下すには倫理的なガバナンスが不可欠ということだ。「例えば米国では、AI分析で顧客の信用調査を行った場合、与信結果の根拠を顧客に求められたら説明する義務が課せられています」(小林氏)。AI活用を推進する企業は今後、データ分析基盤や業務フローの設計を倫理面からも検討する必要がありそうだ。
なおSASのAIデータ分析基盤には、構築したAIモデルの精度と一般化可能性(データの偏りが少ないか)、公平性の各項目をチェックする「モデルカード」機能があり、AIモデルの倫理性を検証できるという。3つのリテラシーを踏まえて課題とディシジョンの設定に取り組みながら、AIデータ分析基盤の導入を進めることで、実際の経営に貢献するAI活用を目指したい。

