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100年先を見据えデータを活用したまちづくり 人流を把握し「過ごしやすく」、ロボットで利便性向上も 大規模災害時の避難者受け入れでもデータが役立つ 100年先を見据えデータを活用したまちづくり 人流を把握し「過ごしやすく」、ロボットで利便性向上も 大規模災害時の避難者受け入れでもデータが役立つ

2025.12.08

2025年3月にまちびらきしたTAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)。この街では、独自のプラットフォーム「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」を構築し、街に必要な多様なデータを都市OSに集約し、街の運営やロボットデリバリーといった新しいサービスを生み出している。運営主体のJR東日本はこの街を「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づけ、共創パートナーのKDDIとともに未来のまちづくりに取り組む。両社の担当者に“都市OS”を活用した街独自のデータプラットフォームについて話を聞いた。

「100年先の心豊かなくらし」を目指して
データドリブンなまちづくり

――データを活用してどんなまちづくりを進めたいと考えていたのですか。

小坂 考えているのは、住宅のほか、店舗やオフィスが数多く並び、居住者とそこに集まる会社員・買い物客を含めた多くの人が快適に過ごせる街を作ることです(図1)。そのためには、シティ内のいろいろな場所の混雑状況や、混雑予想を把握できるようにしたり、移動や買い物の利便性を高めたりといった工夫が必要です。

図1 2025年3月にまちびらきしたTAKANWA GATEWAY CITY(出所:JR東日本)

そのプラットフォームとして考えたのが「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」です。データドリブンのアプローチで、街の中の様々なデータを蓄積・管理し、活用しています(図2)。既にオープンした施設を対象に、このプラットフォームを活用し、街独自の「TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ」を通じて街を訪れるお客さまやオフィスワーカーなど一人ひとりに最適な街のおすすめ情報を提供したり、アプリで購入したドリンクや商品をオフィスなどに運んでくれる配送ロボットを運用したりしています。

天内 私たちはシティを、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づけています。ですから、街全体から得られるデータをすべて取得していこうと考えています。代表的なのがシティ内に数多く設置した防犯カメラの映像データです。この映像データを分析して、カメラの周辺にいる人の数だけでなく、性別、おおよその年齢層などの分布まで把握しています。

シティは公共の道路をまたいだ複数の敷地・ビルで構成していますが、この全域のデータを集めています。それを実現するために、道路を挟んで通信できるよう、道路の下を通す自営の通信線も特別に許可を得て敷設しました。またシティは災害時における一時滞在避難施設としての役割を持っていて、有事に敷地内にどれくらい人がいるかを把握したり、それらの情報を誘導に役立てたりする必要があることで、許可が下りました。

図2 TAKANAWA INNOVATION PLATFORMのコンセプト図(出所:JR東日本)

――TAKANAWA INNOVATION PLATFORMは、KDDIと共同開発したそうですね。

中嶋 高輪ゲートウェイシティが目指す「100年先の心豊かなくらし」を実現するには、持続可能なまちづくりが欠かせません。そのための街全体でのデータ活用を目指して、共創の初期段階から議論を重ねてきました。

天内 義也氏

東日本旅客鉄道 
マーケティング本部 まちづくり部門
品川ユニット(運営戦略)マネージャー
天内 義也氏
(写真:陶山勉)

天内 JR東日本は不動産事業を手掛けてきていますが、ICTを深く融合したまちづくりは初めての経験です。だから、ゼロから一緒に作れるパートナーを探していました。KDDIが高輪ゲートウェイシティに本社を移転することになった影響もあって、スタート地点で「一緒に作りましょう」とスムーズに合意に至りました。街のプレーヤーとしてKDDIに協力していただきながら、ともにアップデートしていきたいと思っています。

天内 義也氏

東日本旅客鉄道 
マーケティング本部 まちづくり部門
品川ユニット(運営戦略)マネージャー
天内 義也氏
(写真:陶山勉)

敷地内に点在する約100カ所の
防犯カメラ映像を分析し“過ごしやすさ”を演出

――具体的にはどのようなデータを取得しているんでしょうか。

小坂 今のところ、中心となっているのは防犯カメラで撮影した人流データです。約100台のカメラを敷地内に設置し、街全体の混雑具合や人の流れを画像解析に活用します。広場には気象センサーを設置して温度、風向き、降水量などを計測しています。

センサーを使って収集するデータとは別の種類のデータもあります。その一つが、広場で行われるイベント情報です。イベント主催者に申請してもらうイベント概要を一元的に蓄積・管理して、ホームページやアプリ、デジタルサイネージなどで最新情報を発信しています。

少し違った種類で、JR東日本が保有する鉄道関連のデータがあります。私たちは2010年代からデータ利活用に取り組んでおり、社員もデータを使えるように整備してきました。高輪ゲートウェイシティでよく使っているのは改札の入退場データや電車の運行情報、電車の混雑具合などです。そこから街の混雑対策や人の誘導などに活用できると思っています。

――混雑情報は、外から来た人だけではなくここで働く人たちに向けても有効ですね。

中嶋 朝は出社時間の関係である程度の混雑は避けられませんが、帰宅時などには幅を持たせることができます。混雑状況をリアルタイムに把握できれば、少し買い物をして時間帯をずらすといった使い方ができます。アプリを通じて、そういったレコメンドを実施するなど、これまでとは違う時間の使い方ができることを積極的に提案していくことも、TAKANAWA INNOVATION PLATFORMを運用する狙いの一つです。

天内 2026年春に開業予定の「THE LINKPILLAR 2」ではさらに商業施設が増え、複合文化施設の「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」も完成します。施設が整えば1日中でもシティの中で過ごせるくらいの規模になります。そのときには、例えば高輪ゲートウェイ駅の改札を通過した瞬間に、過去の履歴データや嗜好データから割り出して回遊メニューをレコメンドするといったことを実現したいと考えています。どのように回遊ルートを決めるかは検討段階ですが、行列を伴う施設やショップが出てきたときに、「待ち時間ができるだけ少なくなるよう、効率的にお店を回りませんか」とアプリで提案できるようにするイメージです(図3)。

(図3 TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ)

図3 TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ(出所:JR東日本)

小坂 将来的にはセール情報やクーポンなども、例えばセール時間帯などに合わせてタイムリーに配布するなどして、さらに買い物客などの利便性を高めていきたいと考えています。実際にどのような応用にするかはテナントとの交渉次第ですが、こうした取り組みを積み重ねることで、街全体でのサービスを活性化できるはずです。

中嶋 レコメンドなどには、KDDIが保有するデータも併用しています。KDDIの持つ興味関心データなどのauデータとアプリで登録する属性や趣味嗜好データなどを分析すれば、高輪ゲートウェイシティに足を運ぶ人がどんな傾向があるのか、ある程度予測できるからです。これらのデータを個人を特定できない形に加工して利用し、分析したレコメンドを実際にアプリに埋め込み、推測できる範囲で最適な情報を届けています。これにより、アプリをau IDで利用している人以外にも最適な情報を届けられるようにしています。

――テナント側からデータを使いたいとのニーズがあった場合は開放するのでしょうか。

小坂 「街のデータを使って何か一緒にやりたい」との声は大歓迎です。TAKANAWA INNOVATION PLATFORMは、プレーヤーの交わりによって新たな価値が生まれることを期待して構築したものですから。

アイデアは定期的にテナントからも吸収していきます。この取材場所でもあるビジネス創造施設「LiSH」も同じ考え方からスタートしており、スタートアップを支援する企業やアカデミア、アクセラレーター、ベンチャーキャピタルが集結しています。最も好ましいのはLiSH会員の新サービスを高輪ゲートウェイシティに埋め込んでいくことです。

天内 我々は100年先の未来を作るための実験をしています。ディープテックの領域はサービス化して社会実装するまで10年、20年かかりますので、それらの新技術をこの街で試していきたいと考えています。

警備から商品配達まで
ロボットが街の中を自在に動く

――高輪ゲートウェイシティではロボットの運用にも力を入れていますね。

小坂 高輪ゲートウェイシティでは、人が乗って敷地内を回遊できる自動走行モビリティの「iino」を運用しています(図4)。これとは別に、警備、清掃のほか、街の中でのデリバリーにロボットを活用しています。デリバリーは、居住者や買い物客がオンラインで注文したフードなどを、その人がいる場所(指定された場所)までロボットが運んでいくサービスです(図5)。これらのロボットを管理・制御する仕組みも、一つの専用プラットフォームを構築してあります。

図4 高輪ゲートウェイシティで運用しているロボット「iino」 人が乗って移動できるスマートモビリティ(出所:JR東日本)

図5 注文した人が指定した場所までロボットがフードなどを配送する(出所:JR東日本)

中嶋 ロボットはビル内の各フロアの階数、エレベーターやセキュリティゲートの位置、各フロアのテナントなどの配置といった地図データを把握しているため、注文者が配送先を指定すると、そこまでのルートを自動計算します。会社の外のコンビニの商品でも、エレベーターやセキュリティゲートを通過して配達してくれます。それ以外にもKDDIの社内では社内便を配送したり、お客様用のドリンクを運んだりしています。

――想定通りに進まずに難しかった点はありますか。

小坂 和広氏

東日本旅客鉄道 
マーケティング本部 まちづくり部門
品川ユニット(デジタルサービス戦略)チーフ 
小坂 和広氏
(写真:陶山勉)

小坂 難しかったということではありませんが、どの施策にも共通して大変なのは、実運用としてこなれた状態に持っていくまでの調整です。人の細かい注文に応えられる “サービス”に仕上げていくために、サービス設計も、ロボットをはじめとする仕組みの検証も入念に進めてきました。それでも、利用者が不特定多数になると、どうしても想定していなかった使い方や、それに伴うトラブルが出てきます。防犯カメラも、一般的な性能のものを使っていることで思ったように人流を把握できないこともありました。こうしたことに対処するために、正しくデータを補足できるようにカメラやセンサーの向きや位置を変更したり、設備をスムーズかつ想定したように使ってもらえるようにボタンなどの位置を変えたりと、毎日のように調整しています。

小坂 和広氏

東日本旅客鉄道 
マーケティング本部 まちづくり部門
品川ユニット(デジタルサービス戦略)チーフ 
小坂 和広氏
(写真:陶山勉)

レジデンスでは賃貸型スマートホーム
未来住戸「Link Life Lab」も提供

――グランドオープン時には高級賃貸住居の「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」も開業し、このまちに“住む”という要素が加わります。さらにデータ活用の領域が広がりそうです。

天内 総戸数は847戸で、いずれは鉄道データと連動したスマートホームも想定しています。改札を出たらそれがトリガーになって家電のスイッチを入れたり、お風呂を沸かしたりするイメージです。こうした新しい取り組みは最初からすべての住戸に導入したいのですが、なかなかそうもいきません。そこで未来の暮らしが体感できる未来住戸「Link Life Lab」を12戸設けました。バイタルデータを取得して最適な健康パターンを提案したり、パターンに合わせた食品のデリバリーサービスを提供したりなどを検討し、上手く行けば徐々に拡大していくつもりです。

小坂 データ活用という点では、2026年春のグランドオープンを目指してエネルギーデータの連携を考えています。電気の利用量、CO2排出量などのデータを都市OSに取り込んでいく予定です。高度なエネルギーマネジメントシステムが定着すればビル運営の効率化に寄与しますし、快適な空調制御も実現できます。LiSHに集うスタートアップも環境やエネルギー関連の方々が少なくないので、我々が集約したデータを利用できるメリットもあります。

中嶋 優氏

KDDI
ビジネス事業本部 ビジネスイノベーション本部
ビジネスイノベーション推進2部 副部長
中嶋 優氏
(写真:陶山勉)

中嶋 データ活用の拡張性については、スタート時点から重視してきました。まちびらきの時点では不要でも、人やテナント、共創パートナーが増えることで新たな需要が出てきます。そのために新たなデータ収集・管理に対応していけるよう、TAKANAWA INNOVATION PLATFORMには別のデータを追加していけるよう拡張性を持たせてあります。今後の運用では、KDDIがこれまでに手がけてきたCPSのノウハウを応用し、いろいろな取り組みに発展させていきたいと考えています。

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