地域の冷暖房向けエネルギーに
グリーン水素を採用
現在、水素エネルギーの活用は研究開発段階を終え、いよいよ大規模な社会実装フェーズへと移行しようとしている。特に、水素の製造過程でも炭素を排出しない「グリーン水素」への投資が加速しており、水素を製造する水電解装置の大型化と低コスト化に向けた技術開発が進んでいる。
水素を活用した熱源設備を導入する取り組みも実際に始まっている。東京・港区では赤坂5丁目地区で地域の冷暖房や給湯用にエネルギーを供給する赤坂熱供給が、グリーン水素を活用した設備を導入し始めた。再生可能エネルギーによって国内で作られたグリーン水素をトレーラーで赤坂まで輸送し、低圧で貯蔵・供給できる水素吸蔵合金タンクで貯蔵しながら、燃料電池とボイラーの燃料として利用するシステムだ(図1)。
水素は基本的にタンクに貯蔵されるため、長期貯蔵に向いている。水素吸蔵合金タンクは清水建設の製造によるもので、特殊な合金に吸着する水素の特徴を生かし水素ガスの体積を1/1000まで縮小して貯蔵する。さらに、従来の液化水素タンクや高圧容器とは異なり、水素吸蔵合金に吸着させる水素は1MPa未満の低圧で取り扱い、火を近づけても着火しない非危険物の合金を採用。これによって、建物内にも設置できる安全性が確保されている。
図1 赤坂5丁目地区の地下に導入されるグリーン水素を活用する熱源設備(出典:赤坂熱源供給のプレスリリース)
一方で、グリーン水素の製造方法の一つに、再生可能エネルギーの電気で水を電気分解して水素を取り出す「パワーツーガス」という技術がある。この技術は、再生可能エネルギーによる余剰電力の新たな貯蔵方法としても期待されている。従来の太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候による変動が激しく、需要と供給のミスマッチが避けられないという課題がある。そのため、再生可能エネルギーの余剰電力を貯蔵し、電力系統の安定化を図るために揚水式水力発電や蓄電池などが利用されてきた。だが、そうした技術は立地や大容量化・コスト低減に課題がある。さらに、短時間供給に限定されてしまうことから、それらの方法に代えてパワーツーガスの技術を活用し水素として貯蔵しようというのだ。
日本におけるパワーツーガスの事例の一つが、山梨県が東レや東京電力などと共同で進める「やまなしモデル」事業だ。山梨県の米倉山電力貯蔵技術研究サイトで2025年10月から実証施設が稼働し、太陽光発電由来の電力を活用してグリーン水素を製造している。水素製造の最大能力は年間2200トンで、製造した水素はサントリー天然水南アルプス白州工場およびサントリー白州蒸留所の熱源などとして活用される。また、東京・大田区においても、やまなしモデルによる水素製造が始まっている。製造した水素は、化粧品の原料など幅広い分野での利用が想定されており、2027年までに現在の3倍の水素が製造できるように準備を進めている。
(図2)再生可能エネルギーの余剰電力で水素を製造するパワーツーガスのやまなしモデル(出典:山梨県のプレスリリース)
リチウムイオンの代替へ、
ナトリウムを使った蓄電池が台頭
(図3)海水からも抽出できるナトリウムを用いる「ナトリウムイオン電池」(出典:科学技術振興機構「革新的GX技術創出事業」のホームページ)
水素と並び、脱炭素に向けた取り組みとしては蓄電池技術の進化も興味深い。再生可能エネルギーを主電源化するためには、安価で高性能な蓄電システムが不可欠だ。現在主流のリチウムイオン電池は、電気自動車の普及に伴って飛躍的な進化を遂げた。一方で、さらなる高容量化や安全性の向上、資源制約の克服が求められている。そこで、次世代蓄電池の候補として注目されているのが、「全固体電池」と資源についての懸念が大きいリチウムに代えてナトリウムを原料とする「ナトリウムイオン電池」だ(図3)。特にナトリウムイオン電池は、中国製EV(電気自動車)やパソコンなどのデバイスに実装され始めている。
(図3)海水からも抽出できるナトリウムを用いる「ナトリウムイオン電池」(出典:科学技術振興機構「革新的GX技術創出事業」のホームページ)
ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と同様に、充放電を繰り返して使用可能な二次電池の一種で、基本的な原理もリチウムイオン電池に似ている。最大の相違点は、電荷を運ぶイオンとして、希少なリチウムではなく地球上に無尽蔵に存在するナトリウムを使用することだ。さらに、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と比べて発熱・発火リスクが低く、動作温度範囲が広いので寒冷地でも性能が維持できる。加えて長寿命という特徴もあり、一般的なリチウムイオン電池と比較して充電回数が約10倍といったメリットがある。
その一方で、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と比べてエネルギー密度が低いため、同じ容量の場合、大きく重くなるといったデメリットもある。そのため、現状では定置用蓄電池やEV、モバイルバッテリーなどが主な用途と考えられている。例えば、定置用蓄電池としては低コストで大容量化が可能なため、風力・太陽光発電などの再生可能エネルギーの蓄電システムや、スマートグリッド社会のインフラとしての利用が期待されている。また、中国のCATLやBYDなどのメーカーがEVへの搭載を進めており、航続距離とコストのバランスを取るために、リチウムイオン電池と組み合わせたハイブリッド構造も採用されている。モバイルバッテリーではエレコムが、パソコンやスマートフォン用にナトリウムイオン電池を内蔵した容量9000mAhの製品を販売している。
排出されたCO2をリサイクル、
コンクリートや樹脂の原料にも
一方で、どうしても排出を避けられないCO2に関しては、それを直接回収して封じ込める、あるいは資源として再利用する「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」技術が重要な役割を果たす。そのために、大気中や工場の排ガスからCO2を分離・回収し、地中深くの安定した地層に封入するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術や、回収したCO2をコンクリートの原料や化学品(樹脂製品など)、燃料として再資源化する「カーボンリサイクル」の開発も加速している。
2025年には京都大学高等研究院の特別教授である北川進氏らがノーベル化学賞を受賞した「金属有機構造体(MOF)」は、そのための重要な技術の一つである。MOFは大気中からCO2の吸着・分離・変換するDAC(Direct Air Capture)向けの技術として期待されている。金属と有機物(炭素など)で構成される多孔質の結晶性物質であるMOFの直径は1ミクロンで、1グラムの表面積がサッカーコート1面の広さに匹敵し、吸着・回収したいガスの分子に合わせて柔軟にデザインを変更することで、CO2だけを効率よく回収できる。
(図4)CO2などの分子に合わせて柔軟にデザインが変更できるMOS(出典:ノーベル財団のプレスリリース)
CCUS技術では、川崎重工が独自開発の固体吸収材を使ったDAC技術を開発している。これを、鹿島建設が2008年に中国電力、デンカ、ランデスと共同で開発したCO2を吸収するコンクリート「CO2-SUICOM」の製造に活用。2025年には、このCO2吸収コンクリートが大阪・関西万博で利用された。一般的なコンクリートはセメントと水の化学反応によって硬化するが、CO2-SUICOMはセメントの代わりにCO2との化学反応によってコンクリートを硬化させる材料を使用。これによって、製造過程でコンクリート材料を練り混ぜた後に大量のCO2が充満する環境に置けば、CO2が吸収されてコンクリートに固定される。
また、鹿島によると日本で使用されている年間9100万m³のコンクリートをCO2-SUICOMに置き換えれば、森林が年間に吸収できるCO2量8300万トンの約1/3に当たる2784万トンが削減されるという(図5)。そのうちの164万トンは、排気ガスや大気中にすでに存在しているCO2量を減らすことになり、カーボンネガティブ効果にも期待している。
(図5)植物のようにCO2を吸い込むコンクリート(出典:鹿島建設のホームページ)
CO2のリサイクルで作られる樹脂としては、パナソニックと三菱ガス化学がコンセントなどの配線器具をターゲットに、CO2から製造したメタノールを原料とする環境配慮型ユリア樹脂を共同で開発した。
ユリア樹脂は尿素とホルムアルデヒドを原料とする安価な熱硬化性樹脂で、耐熱性・難燃性・電気絶縁性(耐アーク性)に優れているため、配線器具の通電箇所に使用されている。一方で、一度硬化すると熱で溶けず再成形が難しいため、従来のマテリアルリサイクル(再利用・再成形)は難しい。それを、CO2由来のユリア樹脂に置き換えることで、配線器具を廃棄焼却した際に排出されるCO2の一部を相殺し、炭素資源を循環させることができる。これによって、サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルの実現に貢献するという。
(図6)CO2から製造したメタノールを原料とするユリア樹脂(出典:パナソニックのプレスリリース)










