企業を取り巻く世界経済や市場環境は、日々めまぐるしく変化している。こうした変化に対応するには「人」の力が重要になってくるが、多くの企業が人材不足や高い離職率に悩んでいる。
企業が競争力を維持し成長を続けるためには、「人」の力を最大限に引き出すことができるような働き方改革が求められる。
日経BPは2025年5月29日に、オンラインセミナー「働き方改革・HR/人事DX FORUM 2025」を開催。先進企業の取り組みや、具体的な人事課題の解決ソリューションが紹介された。各セッションの内容をレポートする。

ソリューション講演一覧

ソニーグループ

基調講演

社員が投資した人的資本を企業が組織資産に変える

人的資本経営を貸借対照表で読み解く

社員の成長実感が人的資本の価値を高める

ソニーグループ
井藤執行役室付
組織開発アドバイザー
望月 賢一 氏
※所属、タイトルは講演開催時点のもの。

「人材版伊藤レポート2.0」を引用し、「人的資本経営とは、最終的に人と組織が互いに選び、選ばれる関係を構築することだ」と、ソニーグループの望月氏は語る。人的資本の所有者は、社員個人だ。個人は自分の意思で人的資本を会社に投資し、そこで増えた新たな人的資本をまた自分に蓄積している。人的資本の内容は一人ひとり異なるため、企業はそれを組み合わせて組織としての力に再編成する必要がある。そのために、企業は常に過去の雇用慣行やパラダイムから脱却し続けなければならず、個人もまた、主体的、自律的に変化していく。これにより、「個人と組織が互いに選び、選ばれる関係」が作られると説いた。

ソニーグループ
井藤執行役室付
組織開発アドバイザー
望月 賢一 氏
※所属、タイトルは講演開催時点のもの。

以上を踏まえ、人的資本経営を貸借対照表(B/S)で説明した。社員は投資家として、自身の人的資本を「自己資本(貸方)」として会社に提供し、組織に参加する。会社は社員から投資された人的資本を「組織資産と人的資産(借方)」に転換することで、事業活動の経営資産を形成する。ソニーグループがエンゲージメント調査を分析したところ、今の会社が学習や成長の機会に恵まれていると思える人ほど、エンゲージメントスコアが高いことがわかった。つまり、企業は社員一人ひとりの学習と成長をどれだけ支援できるかが、社員に人的資本の投資をうながし、経営資産を増やすカギになる。

「エンゲージメントとビロンギングは、意味が異なります」(望月氏)。エンゲージメントは、従業員と会社組織の間の約束に基づくものだ。一方、ビロンギングは従業員が「自分の居場所はここにある」と感じる感覚であり、会社が強制できるものではない。このビロンギングの気持ちこそが、社員が人的資本を投資しようと思うかどうかの意志決定を支えている。「企業は社員との間のエンゲージメントの範囲で確かな成長実感を提供することにより、社員は自身の人的資本の向上を感じることができます。それは、B/Sでいえば『利益剰余金(貸方)』として社員に還元される仕組みになっていると捉えることができます」(望月氏)。

続いて、HR領域のデジタルトランスフォーメーション(HRDX)の要諦を説明した。人事業務管理に属する「人事データ」と、組織人材開発につながる「人材データ」を分けて考える。前者は人事の業務プロセスのDXであり、主なユーザーは人事部門だ。後者は従業員体験のDXであり、経営層から現場の社員に至るまで、全員が利用してインサイトを得られる環境にしていく。HRDXを進めることで、「チャレンジし、学習し続ける組織」と「社員の自律的な学習と成長への支援」の好循環を目指す必要があると述べた。

社会的健康戦略研究所

特別講演

ウェルビーイングは企業価値を生む経営戦略

現代版三方よしで、
今こそ日本型サステナブル経営を

富士通ゼネラルが実践する、経営戦略としてのウェルビーイング

社会的健康戦略研究所 理事
富士通ゼネラル 人事・総務本部
経済産業省、産業技術総合研究所
戦略的国際標準化加速事業 国内委員会 委員
佐藤 光弘 氏

働き方改革、人的資本経営、健康経営、サステナブル経営など、近年ウェルビーイングにつながる企業経営が求められている。これは新しい考え方と思われがちだが、江戸時代の近江商人の経営理念「三方よし」は、まさにウェルビーイングの考え方であると佐藤氏は述べる。「三方よしは、単に利益を出すだけでなく、お客様が満足して社会も良くなることを目指すサステナブルな経営です。それを今に置き換えると、売り手よしが人的資本経営、買い手よしが顧客志向、世間よしがESGやSDGsに当てはまります。この先進的な経営哲学をベースに日本型サステナブル経営に取り組むべきです」。

社会的健康戦略研究所 理事
富士通ゼネラル 人事・総務本部
経済産業省、産業技術総合研究所
戦略的国際標準化加速事業 国内委員会 委員
佐藤 光弘 氏

富士通ゼネラルは2017年、健康経営を宣言。さらに翌2018年に企業理念を再構築し「-共に未来を生きる-」とした。そのうえで「地球との共存」「モノづくりで社会課題を解決」「社員との共感」「社会への貢献」を重点テーマとし、様々な取り組みを進めている。

まず行ったのが新たに設置した健康管理室での、産業医による全社員の面談だ。さらに総合健康リスクが高かった職場で、健康について学び語り合う「ワールドカフェ・ワークショップ」を実施。そこで出されたアイデアを経営にフィードバックしている。現在はこの活動を業務に拡張し、部門間連携による社会課題解決に資する新規事業を考えるワークショップなども行っている。

変わったところでは女性の健康セミナーを実施している。「セミナーでは、社長以下全役員が最前列に並びました。以前は女性だけの研修を行っていましたが、今は男性も女性の健康を知らなければマネジメントができない時代になっています」(佐藤氏)。

さらに健康管理室を拡張し、健康デザインセンターを設置。健康相談だけでなく、コミュニケーションができるスペースとした。このスペースを活用し、市民と脱炭素に関するワークショップを行うなど、社会に開かれた活動を進めている。

2024年12月、ウェルビーイングの国際規格ISO25554が、日本からの提案で発行された。これは各組織でウェルビーイングが何かを考え、持続的にコンセプトを向上させる仕組みを提示するものだ。佐藤氏は「みんなで議論し、ウェルビーイングを再定義する時代です。経営層の理解やコミットメント、従業員の意識改革、効果測定が困難など課題もありますが、データと対話を活用して皆さんで解決して欲しい。ウェルビーイングは幸福・福祉ではなく、企業価値を生む経営戦略と捉え、日本版三方よしを現代に再構築してください」と語った。