クラウド、生成AI、IoTなどの普及に伴い、データやシステムの分散が進む。限られたリソースで膨大なデータをいかに可視化・監視し、瞬時の判断につなげていくか。解決に向けてグローバル企業で導入が拡大しているのが、OSS(オープンソースソフトウエア)の可視化・監視システム「Grafana(グラファナ)」だ。その勢いはとどまることを知らない。JAXA、デンソー、GREEなど国内企業の採用も相次ぐ。一方で、OSS版だけでなく、企業利用に最適化したプラットフォーム「Grafana Cloud」があることをご存知だろうか。OSS版のGrafanaは「可視化の入口」として強力な一方で、企業利用ではスケール/保守、権限管理、データ統合、障害対応プロセスといった運用面がボトルネックになりがちだ。Grafana Cloudはそれらをフルマネージドで補い、観測から復旧までの時間短縮と運用負荷の低減を達成できる。
IT運用変革の新潮流としてGrafana Cloudが注目されるのはなぜか。ユースケースを通じて読み解く。
IT運用変革のグローバル新潮流
最新の可視化・監視システムが日本進出
2025年初頭に開催されたカンファレンス「Observability Conference Tokyo 2025」の参加チケットはソールドアウトした。グローバルで導入が拡大する最新の可視化・監視システム「Grafana」。その開発と商用化に取り組むGrafana Labsが主催する、グローバルイベントの日本版だ。日本市場でもGrafanaに対する関心の高さがうかがえる。2025年11月に、Grafana Labsは日本法人を設立し国内展開を本格化させた。日本企業向けのソリューションやサポートの提供とともに、パートナーエコシステムの強化を図っていく。
Grafanaの強みは、イノベーションやアイデアを生むコミュニティーとの強固なつながりだ。コミュニティーからのフィードバックでスピーディーに改善サイクルを回す。この循環こそがGrafana Labsにおける競争優位の源泉だ。日本法人設立により国内コミュニティーの動きも熱を帯びてきた。コミュニティーと、企業利用に最適化したプラットフォームGrafana Cloudの両輪がIT運用新時代を開いていく。
Grafanaは時系列データを使って、システム、アプリケーションパフォーマンス、クラウドインフラなどの監視、IoTデータの可視化、ダッシュボード作成といった用途で広く利用されている。Grafanaのユーザー数は全世界で2400万人、有料顧客数も7000社以上におよぶ。2025年のGartner®Magic QuadrantTM for Observability PlatformsではGrafana Labsをリーダー企業に位置付けた。この分野の第一人者として、市場を牽引していく存在だ。
オブザーバビリティ(Observability)は、日本語では「可観測性」と呼ばれている。従来のモニタリングが異常の検知にとどまるのに対し、オブザーバビリティは複雑なシステム全体を観測することで、問題の根本原因を特定し迅速な対応につなげる。グローバルでは認知度の高いオブザーバビリティも、国内への浸透はこれからだ。しかし、流れは明らかに変わりつつある。重要性を認識した国内企業がGrafana Cloudを導入・検討するケースが増えてきた。
JAXA、デンソー、GREEが
Grafanaを導入した理由とは?
JAXA、デンソー、GREEといった各業界を代表する日本企業が、Grafanaを導入したのには明確な理由がある。単なる可視化ではなく、オブザーバビリティが必要だったからだ。
国内のGrafana導入で大きなインパクトをもたらしたのがJAXA(宇宙航空研究開発機構)の事例だ。JAXAの小型着陸実証機「SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)」プロジェクトは、目標地点から100メートル以内のピンポイント着陸を目指した。この着陸精度を支えるために、小型着陸実証機の状況を瞬時に把握できる基盤としてJAXAが着目したのがGrafanaだ。
小型着陸実証機もIoTも、データを可視化する技術的アプローチは変わらない。その考えのもと、Grafanaを基盤とした可視化システムを開発。数千項目におよぶテレメトリデータの中から必要な情報を瞬時に抽出できるダッシュボードが短期間で構築され、月面着陸時の判断を支援。また着陸時の姿勢状況を瞬時に特定するなど、複雑な数値を直感的な3D表示にすることで歴史的ピンポイント着陸を運用面で支えた。宇宙という究極の環境で真価を証明したGrafanaのオブザーバビリティ基盤は、さまざまな産業分野で活用が進んでいる。
国内製造業が海外に生産拠点を展開する際には、生産性や品質の観点から各工場の状況把握が課題となる。グローバルで事業を展開する自動車部品メーカーのデンソーは、Grafanaを活用し世界130工場の可視化を実現した。デンソーは生産において、1個の不良、1秒のロスに徹底してこだわる。それを支える仕組みが「F-IoTプラットフォーム」だ。世界中の工場でPDCAサイクル(データの吸い上げ、可視化、分析、改善)を回す手段となる。
Grafana導入のポイントは、世界中の各拠点に分散している、すべてのマシンやアプリの状態を、たった1つのダッシュボードで可視化できるということ。日本にいながら世界130工場の状態が一目で分かる。世界地図上にメトリクスを視覚的に表示し、直感的な判断向上にも役立てる。さらにリソース使用率のトレンド、コスト、脆弱性の可視化を行っている。
限られた人員で監視基盤を構築・運用するには大きな負担がかかる。国内外で様々なエンターテインメント事業を展開するGREEは、監視基盤の運用負荷を根本から解消する手段としてマネージドサービスの導入を決断した。複数製品を検討した結果、Grafana Cloudを選択。決め手となったのは、コスト面の優位性だ。他社サービスではカスタムメトリクスの追加ごとにコスト増大の傾向があったが、Grafana Cloudはその点を懸念する必要がなかった。
グローバル企業では、Grafana Cloudの初期導入企業の1社がUberだ。導入によりバックエンドサービスにおけるアロケーションオーバーヘッド(本来の処理目的とは関係のない負荷・時間)の30%削減、インフラコストの100万ドル以上削減を実現。大規模環境におけるレイテンシーの最小化、組織全体のインシデント解決の迅速化を達成した。また世界有数の金融サービス企業のJPMorgan Chaseは、OpenTelemetry(テレメトリデータを収集管理するOSS)とGrafanaを組み合わせることでテスト、実験、本番運用を横断した可視化を実現した。
Grafana Cloudは大規模かつ複雑化するシステムをシンプルに可視化・監視し、運用負荷の軽減、障害対応時間の短縮を実現する。IT運用変革のグローバル新標準として、業種を問わず導入企業が急速に増えている。
GREEはAWS環境でOSS版Grafanaを活用し、独自の監視環境を作り込んできた。新たにGKE(Google Kubernetes Engine)環境で同レベルの仕組みを再構築するためには、多くの工数と人的リソースが必要となる。その選択は現実的ではなかった。Grafana Cloudなら構築や運用負荷を軽減しつつ、開発者が慣れている操作感や、既存のダッシュボード資産はGrafana Cloudにも移行できる。同社はGrafana Cloudを導入することで運用負荷を半減し、60サービスを統合監視する監視基盤を構築できた。GREEのように、環境が増えたり構成が変わったりするたびに監視基盤を作り直すのは現実的ではない。「運用負荷を増やさずに監視を拡張できる」ことが、マネージドサービスを選ぶ大きな理由になる。
「監視」から到来するパラダイムシフト
グローバル最先端のIT運用変革を見逃すな
監視ツールが増えるほど、メトリクス・ログ・トレースが分断され、アラートは鳴るのに原因特定に時間がかかる――そんな現場課題が顕在化する。Grafana Cloudは「OSS可視化ツール」の範疇を超える。OSSの監視システム・時系列データベースPrometheus、OpenTelemetryなどのオープン標準を前提に、Grafanaを基盤としたメトリクス、ログ、トレースなどの統合と、インシデント対応管理IRM(Incident Response and Management)によるオンコール、エスカレーション、ワークフローまで、システム運用に必須のプラットフォームを提供している。
さらに生成AIアシスタント「Grafana Assistant」に対する注目度も高い。Grafana CloudではGrafanaのAI機能を活用し、アプリケーション性能の可視化、UX向上、根本原因分析の迅速化を実現するサービスを提供。AI時代のIT運用変革を牽引する。
2026年3月17日に「ObservabilityCON on the Road 2026 Tokyo」が開催される。Grafana Labs創業者を含むエグゼクティブが来日し、グローバルな視点と日本市場の文脈で次世代オブザーバビリティの展望を示す。Grafanaがグローバルで起こしたオブザーバビリティのパラダイムシフトが、ついに日本でも動き出した。


