ノーコード/ローコード Forum Review 〜開発の民主化がスピード業務改革の鍵に〜

生産性向上を目指す多くの日本企業が、ノーコード/ローコードツールによる“開発の民主化”に注目している。近年のノーコード/ローコードツールはAI機能を備えたものも増えており、その価値はさらに増大している。ただ、自組織に合った使い方で効果を最大化するためには、他社の事例や専門家の提言に学ぶことが肝心だ。ノーコード/ローコードを取り巻く最新動向をチェックして、自社の取り組みに役立ててもらいたい。
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ローコードツールを導入し、
開発をIT部門主導から現場主導へ転換

 日用品メーカー大手のライオンは、研究開発、製造、購買・物流、マーケティング・販売に至るまで全社レベルでデジタル活用を推進している。事業を効率化するとともに重点領域を強化し、企業価値を向上させるためだ。

 「その一環として進めているのが『生成AI活用の民主化』です。技術の急速な進歩や、増え続ける社員の要望にスピーディーに対応するためには、現場主体で活動することが大事だと考えています」とライオンの百合 祐樹氏は語る。

 もともと同社では、IT部門が内製開発した「LION AI Chat」を2023年から活用してきた。知りたいことを自然文で質問すれば、LION AI Chatが適切な回答を返してくれる。クローズド環境で利用できるため、データの外部流出の心配もない。さらに、高度な使い方ができるAIエージェント機能も搭載。これらの特徴が受け入れられ、週平均で2万回以上利用されるアプリケーションへと成長したという。

 一方、その過程では新たな課題も浮上した。それがIT部門への相談増加だ。「開発・改修を担うIT部門のリソースがひっ迫し、現場からの要望に素早く応えることが難しくなりました」と百合氏は言う。

 この状態では生成AIの効果が頭打ちになってしまう――。そう考えた同社が採用したのが、ローコード・プラットフォーム「Dify」である。非IT部門の社員でもローコードで簡単にAIエージェントを開発できる。自社データとの連携機能が豊富で、作成したツールはチーム/部内で共有できるため、生成AI活用の標準化も進めやすい。これにより、生成AI活用の民主化を推進することにしたのである。

業務の知見を持つ人材を
AIエージェント開発人材に育てる

 ライオンの生成AI活用の民主化をけん引しているのが、「AIエージェント開発人材」だ。人材はビジネス部門から公募し、教育を約2カ月かけて社内で行った。「チームや部署の業務課題を解決するためには、現場業務を熟知したビジネス部門の社員がスキルを習得することが重要です。そのため、このようなアプローチを取りました」と百合氏は狙いを語る。

 教育プログラムではDifyの使い方だけでなく、生成AIの基礎から課題の整理、業務への適用検討、データ整理、開発、効果測定までを体系的に学べるようにした。これまで2回実施し、計100人強のAIエージェント開発人材を育成。この人材が中心となってAIエージェントを開発するとともに、それらを業務プロセスへ組み込み、全社の変革を推進している。

 「例えば、お客様アンケートのフリーアンサー欄の内容解析を行うAIエージェントでは、これまで人が行っていた集計作業やキーワードのグルーピングを自動化したほか、解析者の主観を排した客観的な評価を実現しています」(百合氏)。また、人が煩雑な集計作業から解放され、価値を生む分析や考察により集中できるようになっているという。

 ほかにも様々なAIエージェントがライオン社内で活躍している。いずれも大きな効果を生んでおり、同社の調べでは1ツール当たり年間84時間の効率化につながっているという。

 「民主化を進める過程では一時的にAIエージェントが乱立する形になりますが、当社はそれでよいと考えています。まずは多くのユースケースを生み出した上で、特に効果が見込めるものを絞り込み、ガバナンスを利かせていきたいです」と百合氏。同時に、AIエージェントの適切な活用に向けたガイドラインの作成、ハンズオンや説明会の実施などの現場の支援にも力を入れることで、一層活発な生成AI活用を実現していく考えだ。

 ローコードツールをフル活用した生成AI活用の民主化に向けて、ライオンの挑戦はこれからも続いていく。

生成AI機能の実装と連動して、
拡大する国内ローコードツール市場

 競争力の源泉となる情報システムを、事業部門が主体となって開発する「開発の民主化」が加速している。その土台を支えるのがノーコード/ローコード開発ツールだ。生成AIを用いた開発支援機能を実装するツールも増えており、それと連動する形で、市場は継続的に拡大している。

 「当社が行った調査でも、多くの企業がノーコード/ローコードツールを重要なDX関連技術として位置付けて、導入を進めていることが分かりました。また、DXで成果を上げている企業ほど、ノーコード/ローコードツールの導入割合が高いことも見えてきました」と日経BPの森重 和春は語る。

 ノーコード/ローコードツールを活用して開発の民主化を進めれば、デジタル変革に向けた取り組みを自社のリソースで進められるようになる。これにより、市場の変化やビジネス戦略の変更にも迅速・柔軟に対応できるようになるだろう。

「業務に明るい現場社員が開発に携わることで、現場のニーズを正確にシステムに取り入れられるようになります。加えて、システム開発のノウハウを社内に蓄積することもできるでしょう。これは今後のビジネスにおいて非常に重要です」と森重は言う。
「DXサーベイ2025-2027」

ローコード一辺倒ではなく、
複数の手法を使い分ける企業が多数

 日経BPは、ノーコード/ローコードツールを活用してDXを推進している企業をこれまで多数取材してきた。講演ではその一部が紹介された。

 オリックス銀行は、もともと内製を全く行っていなかったが、システムのクラウド化を進めていく過程で開発体制を転換。複数のローコードツールを活用しながら、本格的なアジャイル開発に取り組んでいる。

 例えば、投資用不動産ローン関連の受付サイトの構築には「Salesforce」、銀行アプリの開発には「OutSystems」、生成AIを活用したアプリ開発には「Amazon Bedrock」といったように、それぞれ特性の異なるローコードツールや開発手法を適材適所で使い分けているのが特徴だ。

 「ノーコード/ローコードにこだわるのではなく、求められるスピードや拡張性、あるいはシステムの複雑さなどの要件ごとに手法を使い分けるアプローチは、明治ホールディングスや日本航空といった企業でも採用されていました。これは、開発の民主化に向けた“成功の方程式”の1つといえるかもしれません」と森重は語る。

 三井不動産リアルティでは、業務アプリケーションを各部門が独自に開発していたため社内にシステムが乱立し、ブラックボックス化が進んでいた。そこで全社の統合開発基盤として「FastAPP」を導入。アプリをこの基盤上で再構築することで、シャドーITの撲滅に成功したという。

 この事例からは、開発期間の短縮やコスト軽減だけでなく、ITガバナンスの強化にもノーコード/ローコードツールが効果を発揮するということが分かるだろう。

 さらに山梨県庁では、ローコード開発ツール「Microsoft Power Platform」のアカウントを全職員に配布している。教育・支援プログラムを併せて展開することで、原課職員による内製化を加速し、現場が抱える課題を自ら解決できる体制づくりを進めているという。

 「棚卸し業務を支援するアプリなど、職員が開発したアプリが既に稼働しています。内製化が着実に進んでいるようです」と森重は述べる。

 市場に存在するノーコード/ローコードツールの種類は多岐にわたり、それぞれ機能や活用効果も異なる。まずは自社の目的や要件、ユーザーのスキルレベルなどを整理し、適したツール選びから始めることをお勧めする。
記事中の事例の記述内容は取材当時のものです