“ハイパースケーラー”とのクラウドシフトが進む一方で、成果をコスト削減のみに求め、クラウドの本来の価値である事業成長のスケール、新たなビジネスケースの創出につなげられている事例は意外にまだ少ない。どこにボトルネックがあるのか。カギを握る外部リソースを活用したエコシステム構築、組織変革のあり方も含め解説していく。
ビジネスの基盤となるプラットフォームのクラウドシフトが、今や世界共通の規定路線であることは言うまでもない。
「当社の調査でも世界の各業界におけるリーダー企業の95%が、『クラウドを利用中または利用を検討中』という状況にあり、日本においてもほぼ同様です。しかし、日本企業のワークロードにおける実際の導入率は20~40%と半数以下です。本格的なクラウドマイグレーション(クラウドへの移行)は今後、加速化していくものと見ています」。そう指摘するのは、世界最大級の総合コンサルティング企業・アクセンチュアでクラウドを活用した日本企業のデジタル変革の支援、その統括を担う西村雅史氏だ。
西村雅史氏
アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部
インテリジェントクラウド アンド
インフラストラクチャー グループ日本統括
マネジング・ディレクター
1991年入社。金融機関のM&Aなどに従事した後、2010年以降、クロスインダストリーで全業界のテクノロジー、IT戦略のコンサルティングに携わり、18年より現職。クラウドを注力領域に日本企業のデジタル変革、統括を担う。
つまり、2000年代初期においてクラウド市場拡大をけん引してきたSaaS(Software as a Service)の伸びは鈍化し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響からも、IaaS(Infrastructure as a Service)を用いた既存システムのクラウド移行のニーズが増大。さらに、23年をピークにIaaSによる移行から、クラウドでの運用を前提とした、いわゆるクラウドネイティブな開発が主流になっていくと西村氏は予測する。
クラウドへの移行はあくまで手段にすぎない。だが、「日本ではまだ多くのクラウドベンダーやSI企業が『移行する』ことを目的化し、その価値訴求においても、コスト削減を主眼のテーマとする傾向が見られます」と西村氏は指摘。コスト削減や効率化も経営上、重要なアジェンダではあるが、そこだけにとらわれるとクラウドの価値、本質を見誤る。
ここで世界に目を転じると、“ハイパースケーラー”と呼ばれるAWS(Amazon Web Services)、Azure(Microsoft Azure)、GCP(Google Cloud Platform)といった主要クラウド企業が、巨大なインフラ設備(ハイパースケールデータセンター)にさらに巨額な投資を重ね、ITインフラ設備、先進的ソリューション・サービスの進化に日々、注力している。
クラウド活用においては、「市場をリードするハイパースケーラーらの価値をいかに引き出し、新たなビジネスケース創出につなげていくかが焦点となっています」と西村氏。
日本の産業界においては、長らくIT専業ベンダーに依存してきた構図も、こうしたハイパースケーラーとのエコシステム構築の足かせともなってきた。だが、喫緊の課題であるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上でも、今こそ旧来のスタイルから脱し、真の意味でのデジタル変革に取り組まねばならない時代に突入しているのだ。
Next
しかし、いわゆる“デジタルネイティブ”な企業ではない伝統的大企業においては、刷新すべきレガシーも数多く、その実践には目的を見据えた戦略的なプランやロードマップも必要不可欠だ。
アクセンチュアは「ストラテジー&コンサルティング」「インタラクティブ」「テクノロジー」「オペレーション」という4部門で幅広いサービスを提供しているが、すべての部門でデジタル領域に長けた人材を配置。各部門が連携しながら、経営層との戦略策定から現場の業務部門との調整、ITシステム関係の実業務、セキュリティーの担保、移行後の運用・保守などの継続的な支援、目標達成へのコミットも含めEnd-to-Endでサービスを提供している。テクノロジーとビジネス両方にトータルで精通する稀有な存在と言えよう。
加えて、企業のクラウド移行に伴走する戦略パートナーとしての強み、特徴について、西村氏は大きく3つを挙げる。
1つ目が中立的な立場で、顧客の企業価値向上につながるクラウドソリューションを提案できる点だ。
同社では、先述した世界三大クラウドサービスのAWS、Azure、GCPに関し、各プレーヤーと連携しプロジェクトを推進するべく、AABG(Accenture AWS Business Group)、AMBG(Accenture Microsoft Business Group)、AGBG(Accenture Google Business Group)という独立した組織があり、それぞれの強み、特徴を踏まえた上で顧客にとって最適なサービスを選定。「エコシステムパートナーとして、お客様のクラウド活用、課題解決を共同して推進しています」(西村氏)。
2つ目が、問題解決の価値提供として「ビジネスケース」創出にフォーカスしていること。モノやソリューションの販売をゴールとするプロバイダーやベンダーと大きく異なる点だ。
3つ目として、豊富な経験、知見を基にクラウド移行のアプローチを「J2C(ジャーニー・トゥ・クラウド)」として9つのシナリオに体系化。顧客の目的に合わせながら、ビジネスをスケールするための道筋やエントリーポイントを提案できる点が挙げられる。
その概念図とシナリオ例を示したのが図1だ。IT、ビジネス両面の変革機会と捉え、まずはITの効率化を主目的に既存データハウスのクラウド移行から入るのか。あるいは、デジタルビジネス創出を主眼に機械学習やAIなどを活用したプラットフォームやツールをクラウド上に構築するか。アウトソーシングなどを起点にコスト削減で原資を稼ぎ、アジャイルなアプローチでビジネス成果を出しつつ変革を進めるのか。
図1:クラウド導⼊スタートから
ゴールまで(Journey to Cloud)の概念図
「企業のリソースや目的に合わせた多様な入り方(エントリーポイント)、ジャーニーマップを提唱し、クラウドによるビジネス価値の最大化を目指しているのが特徴です」(西村氏)
具体的なサポート事例を挙げると、地方銀行の生き残りをかけた新たなビジネス価値創造というエントリーポイント(図内B)からクラウド移行を果たしたのが伊予銀行だ。
同行では2015 年を初年度とする中期経営計画にデジタル変革の実現を掲げ、デジタルと人の融合を目指す新たなコンセプト「デジタル・ヒューマン・デジタル(DHD)バンク」の下、口座開設などの手続きをタブレットで行える「AGENT システム」をAWS上で開発。口座開設の手続きが約45分から約10分に短縮されるなどの顧客満足度向上と事務負担低減を実現した。
「世界中の金融機関でクラウドを導入した多くの経験に基づき、信頼性担保を第一に推進したケースで、伊予銀行様以外でも、ふくおかフィナンシャルグループ様などでもクラウドをテコに新しい銀行の形を実現するケースが生まれています」(西村氏)
その他、コープこうべ、日東電工などでは保守運用のパートナーとしてIT効率性の獲得からエントリーし(図内C)、コストを抑えつつクラウドに移行する「ローコストマイグレーション」を実践するなど、企業の実態・ニーズに合わせた戦略を推進している。
また、2020年10月に戦略的提携契約を締結した武田薬品工業のケースでは、コスト効率性を追求しつつ、ビジネス成果を追求していくジャーニーマップを描く(図内A)。「AWSとのパートナーシップで、IT基盤の刷新やデータサービスの加速、イノベーション創出に向けたデジタルケイパビリティ変革もサポートしていきます」と西村氏。同社ならではのグローバルな知見、連携も大きな強みとなろう。