New Future 日経ビジネス 電子版SPECIAL

N e w F u t u r e

Vol.13 起こり得るビジネスインパクトへの対応カーボンニュートラル
だけではない
今企業が取り組むべき課題とは

私たちの社会は、自然がもたらす恩恵で成り立っており、その自然は、多様な生態系によってバランスを保っている。そのバランスを人間が崩すことで、将来にわたって大きなリスクとなる。今、企業が始めるべきことは何か。WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)の東梅貞義氏とアクセンチュアの海老原城一氏が、それぞれの考えを語った。

気候変動の先にある
大きなリスクに目を向けよ

 社会課題に向けた企業の取り組み状況に対し、WWFジャパンとアクセンチュアのお考えをお聞かせください。

海老原環境に関わる経営課題というと、気候変動・脱炭素等のキーワードが念頭に浮かぶ人が多いと思います。しかし、それらはより大きな課題の一部にすぎません。現在、世界では「生物多様性」というテーマで、地球上の自然資本の利用を持続可能にするための議論が、すでにルールメイキングのレベルまで行われています。日本企業は、この世界的な潮流に乗り遅れないよう、いち早く行動を取ることが必要だと考えます。

東梅その通りですね。気候変動の問題は、今から30年前の1992年に約100カ国の首脳を含む180カ国が集まった「地球サミット」から本格的な議論が始まりました。以降、世界各国では様々な先進的な取り組みを推進する企業連合が設立されています。一方で、日本では政府による取り組みが遅れたため、優れた技術を持ちながらも新しい時代のグローバルメーカーが生まれることはありませんでした。このことは、国際規制ができてから動こうというのでは遅いという教訓だと考えています。

東梅貞義 氏

東梅貞義 WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)
事務局長
1992年WWFジャパン入局。日本国内の重要湿地の保全活動に携わり、2000年からは中国、韓国の沿岸域で生物多様性の保全を支援。2011年WWFジャパン自然保護室長、2017年からアジア太平洋地域23カ国の自然保護室長の代表としてリーダーシップを発揮。2020年7月より現職。

 しかし、気候変動の問題は、地球環境危機の一面にすぎません。これからは、生物多様性と自然資本の減少問題も視野に入れ、10年後、20年後のビジネスへのグローバルリスクと新たな事業機会を見越して行動する必要があります。

海老原経済活動は、生態系の営みに大きく依存していることが分かっています。その依存度は世界の総GDPの52%に相当する44兆ドルに達するという試算もあります。

※出典:World Economic Forum, Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy (2020)

海老原城一 氏

海老原城一 アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ
公共サービス・医療健康 プラクティス日本統括 兼
サステナビリティ プラクティス日本統括 兼
アクセンチュア・イノベーションセンター福島
センター共同統括
マネジング・ディレクター
1999年アクセンチュア入社。公共、民間企業を問わず多くの組織で変革を支援し、戦略立案から新制度・サービスの設計、効果創出を実現。サーキュラーエコノミー、スマートシティの構想立案にも多数従事。東日本大震災復興支援プロジェクトの責任者も務める。

 その一方で、経済活動が自然に大きな影響を及ぼし、生物多様性が減少する危機にあることも明らかになっています。生物多様性の減少は、自然に直接依存する農林水産業だけでなく、それらの資源を使う製造業や小売業などバリューチェーン全体に影響します。また、きれいな空気や水が不可欠な半導体産業やそれを製品に組み込む産業など、一見すると生物多様性とは直接関係がないと思われる業界にも関わってきます。昨今、話題になっている人獣共通感染症も、生物多様性の減少が一因だとも言われていますので、こう考えると影響しない業界はないと言っても過言ではないでしょう。

 こういった問題への対応は、ビジネスへの影響が分かりやすい業界や企業から始まることが多いのですが、その間、他の企業が何もせずにいると、気候変動と同じように将来のリスクを大きくしていくのではと懸念しています。

東梅生物多様性減少の問題は、今後10年間の最も深刻なリスクとして3位に挙げられるほど、長期にわたって社会に変革を求める大きなテーマです。そのことは世界の政治、金融、そして先進的なビジネス界のリーダーの間では合意事項になっています。しかし、とくに日本においてはまだ関心が薄く、日本企業全体の中で生物多様性減少の危機を意識している企業は、私の感覚ではまだひと握りのリーダーに限られ、非常に少ないと感じています。

※出典:World Economic Forum Global Risks Perception Survey 2021-2022

Next

リスク対応だけでは終わらせない
ネイチャー・ポジティブ実現への道筋

続きを読む

 企業は積極的に生物多様性への依存関係を把握し、自社の活動を自然の回復につなげる「ネイチャー・ポジティブ」な存在になっていかなければならないと言われています。そのためには、どんな取り組みが必要になるのでしょうか。

東梅大きく3つあると考えています。1つ目が、国際的な自然回復目標や関連する規制の動向を見て、自社の事業戦略の中に、ネイチャー・ポジティブに向けた目標を掲げることです。今までネガティブに働いていた事業活動の悪影響をまずは解消し、かつポジティブにも貢献するかという目標を設定、それに沿った事業計画を立てていくことが必要になります。

 2つ目が、自社の中だけで解決できない問題に対して、政府に積極的に働きかけをしていくことです。これまで、あまり理解されてこなかったことかもしれませんが、個々の企業だけでサプライチェーン全体のネガティブインパクトをつかむことが難しいのは明らかです。世界では「Business For Nature」という先進的な企業グループができており、政策提言などの活動(ビジネス・アドボカシー)を進めています。日本からも数社参加していますが、まだ政府には大きな声として届いていません。日本企業の間でもセクター横断的に企業連合を形成し、政策改善への働きかけを強めていく必要があると考えています。

 そして3つ目が、生物多様性に関する情報開示への対応です。「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」のベータ版がすでに公表されており、2023年9月には最終提言が発表される予定ですが、このフレームワークにのっとって、自社の自然に関する依存関係や活動が生物多様性にどういう影響を与えているのかを評価し、情報を開示する必要があります。この3つの重点テーマを踏まえて、ネイチャー・ポジティブな企業になるためには、自社の事業をどう変革するかが問われています(図1)。

図1 図1

図1:ネイチャー・ポジティブにおける企業の役割

海老原ネイチャー・ポジティブな社会の実現に当たって、10兆ドルの事業機会が新たに創出されるとの試算もあります

※出典:World Economic Forum, The Future of Nature and Business

 企業は単に規制対応をすれば良いということではなく、自社の強みを活かしながら生物多様性の回復に貢献していく。それにより、社会的責任を果たしながら事業も成長していく、そういった経営モデルに変革しなければいけません。アクセンチュアでは、企業ごとにシナリオを考えながら、中期経営計画に採り入れていくための総合的な支援を始めています。

 初めの一歩となるのは、TNFDやScience-Based Targets for Nature(SBTN)にのっとったサプライチェーン各所の依存・影響程度の可視化と目標設定です。これも初めて取り組む企業にとってはハードルが高いかもしれません。その上で、企業として果たすべき責任はしっかり果たす。しかし、それで終わりではありません。本当の正念場はその先で、それを事業戦略に取り込み、自然への負荷とビジネスリスクを減らすと同時に、収益もしっかり生み出す。取り組みをスケールさせるためには、ビジネスとの両立が不可欠です。

 そのためには、製品に使う素材や原料から見直していくことが求められるかもしれません。それも、ただサプライヤー任せではなく、バリュチェーン全体で連携して取り組んでいく、場合によってはこれまで取引をしてこなかった業界・団体とも付き合う必要が出てくる場合もあるでしょう。また、自社の技術や強みを活かし、生物多様性の回復に貢献する製品・サービスを開発していく、そういった事業全体の変革を進めていく必要があります。

 これは、簡単ではないお題ですが、アクセンチュアはイノベーションを起こす可能性がある重要な契機として捉え、企業と共に挑みたいと思っています。難題でありますが、生物多様性の重要性を考えると、挑む価値のある挑戦でしょう(図2)。

図2 図2

図2:企業が果たすべき責任と事業機会の関係

アンケートへの
ご協力をお願いします ▶

Next

潮目は変わる。
今まさに変革を開始すべき

続きを読む

 WWFジャパンとアクセンチュアでは、日本企業が生物多様性に関してどう考えているかを共同で調査されました。それぞれの立場での評価はどうだったのでしょうか。

東梅今回、生物多様性に対して感度が高い企業にヒアリング中心の調査を実施したのですが、事前に私たちが想定していた、企業が抱えている課題と、重視していることが再確認できました。先ほど、生物多様性を意識した取り組みをしている企業はひと握りと申しましたが、今回の調査対象である先進企業十数社の2割程度の企業が原材料の影響を評価しています。しかし、トップランナーの中でも2割というのは、やはり少ないと言わざるを得ません。

 また、ヒアリングを通じて感じたのは、日本企業の場合、国際的な目標設定の手法の完成を待ち、その手法に沿って忠実に従った目標を設定しがちだということです。今の段階では、パーフェクトな目標を設定するよりも、まずは生物多様性に対する関係性と依存度を把握し、その上で優先順位を仮決め、何から対応するかを決めることが重要だと思っています。

海老原企業が足踏みをしている理由として、生物多様性に取り組むビジネスメリットが分からないという声がありました。現実問題として、生物多様性の回復に取り組むだけで売り上げを向上させることはできません。しかし、生物多様性が減少すれば売り上げや利益が失われる可能性があります。逆に、企業によっては、生物多様性の回復に努めることで新たなイノベーションが生まれるかもしれません。ただビジネスリスクを下げるだけではなく、事業が成長すれば成長するほど生物多様性もプラスに転じるネイチャー・ポジティブな事業を創っていく必要があります。

東梅先行するカーボンニュートラル経営への日本企業の移行段階を見ると、地球温暖化問題を理解する段階はとうに過ぎ、経営としてどう取り組むかに焦点が移っています。生物多様性についても、今は理解するための勉強が必要だと考える企業が多いと思いますが、今後、経営課題として“ネイチャー・ポジティブに向けて何をしているか”が問われる時代に、早晩潮目が変わる可能性があります。

 WWFジャパンは国際的な制度設計の動向を日本企業にお伝えするだけでなく、世界の農地や水産の現場で何が起きているかを企業にレポートする国際的なフィールドプロジェクトを展開しています。現場と国際的制度の両面から、課題とその解決方法を企業に対話を通じて働きかけていきます。ただ、この問題が企業経営にとって長期的なリスクであることを日本企業の経営者に直接伝え、企業の経営層レベルでの対応を支援していくところでは、WWFジャパン単独では不十分で、その部分に強みを持つアクセンチュアの活動に期待しています。

海老原そうですね。これはまさに経営に関わる問題として捉えることが重要です。

 すでに投資家や消費者は、企業がコアとなる戦略やビジネスモデルにサステナビリティを組み込んでいるかを重視しています。また、言うだけではなく実態が伴っているかを厳しい目で見ています。この生物多様性の領域においても、リーダーとして、率先して社会を良い方向に導いていくのか、あるいは他社に追従するのか、今まさに経営者としてのスタンスが問われています。

 環境課題の解決と事業成長は背反するものではなく、両方をかなえる「第3の方向性」が見いだせるはずです。アクセンチュアでは、そのようなビジネスモデルを企業と一緒に作っていきたいと考えています。

東梅氏と海老原氏
生物多様性に関する
共同調査の詳細はこちら
アクセンチュアとの新規ビジネスの
お問い合わせはこちら
アンケートへの
ご協力をお願いします ▶
10兆ドルの事業機会、
先を見据えた持続的成長への取り組みとは
続きを読む ▶
New Future

本サイトは、パートナーとともに、
日経BPが企画・制作しているWebメディアです。

運営会社:日経BP
www.nikkeibp.co.jp

パートナー:アクセンチュア株式会社
https://www.accenture.com/jp-ja/