カーボンニュートラルだけではない企業は積極的に生物多様性への依存関係を把握し、自社の活動を自然の回復につなげる「ネイチャー・ポジティブ」な存在になっていかなければならないと言われています。そのためには、どんな取り組みが必要になるのでしょうか。
東梅大きく3つあると考えています。1つ目が、国際的な自然回復目標や関連する規制の動向を見て、自社の事業戦略の中に、ネイチャー・ポジティブに向けた目標を掲げることです。今までネガティブに働いていた事業活動の悪影響をまずは解消し、かつポジティブにも貢献するかという目標を設定、それに沿った事業計画を立てていくことが必要になります。
2つ目が、自社の中だけで解決できない問題に対して、政府に積極的に働きかけをしていくことです。これまで、あまり理解されてこなかったことかもしれませんが、個々の企業だけでサプライチェーン全体のネガティブインパクトをつかむことが難しいのは明らかです。世界では「Business For Nature」という先進的な企業グループができており、政策提言などの活動(ビジネス・アドボカシー)を進めています。日本からも数社参加していますが、まだ政府には大きな声として届いていません。日本企業の間でもセクター横断的に企業連合を形成し、政策改善への働きかけを強めていく必要があると考えています。
そして3つ目が、生物多様性に関する情報開示への対応です。「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」のベータ版がすでに公表されており、2023年9月には最終提言が発表される予定ですが、このフレームワークにのっとって、自社の自然に関する依存関係や活動が生物多様性にどういう影響を与えているのかを評価し、情報を開示する必要があります。この3つの重点テーマを踏まえて、ネイチャー・ポジティブな企業になるためには、自社の事業をどう変革するかが問われています(図1)。
図1:ネイチャー・ポジティブにおける企業の役割
海老原ネイチャー・ポジティブな社会の実現に当たって、10兆ドルの事業機会が新たに創出されるとの試算もあります※。
※出典:World Economic Forum, The Future of Nature and Business
企業は単に規制対応をすれば良いということではなく、自社の強みを活かしながら生物多様性の回復に貢献していく。それにより、社会的責任を果たしながら事業も成長していく、そういった経営モデルに変革しなければいけません。アクセンチュアでは、企業ごとにシナリオを考えながら、中期経営計画に採り入れていくための総合的な支援を始めています。
初めの一歩となるのは、TNFDやScience-Based Targets for Nature(SBTN)にのっとったサプライチェーン各所の依存・影響程度の可視化と目標設定です。これも初めて取り組む企業にとってはハードルが高いかもしれません。その上で、企業として果たすべき責任はしっかり果たす。しかし、それで終わりではありません。本当の正念場はその先で、それを事業戦略に取り込み、自然への負荷とビジネスリスクを減らすと同時に、収益もしっかり生み出す。取り組みをスケールさせるためには、ビジネスとの両立が不可欠です。
そのためには、製品に使う素材や原料から見直していくことが求められるかもしれません。それも、ただサプライヤー任せではなく、バリュチェーン全体で連携して取り組んでいく、場合によってはこれまで取引をしてこなかった業界・団体とも付き合う必要が出てくる場合もあるでしょう。また、自社の技術や強みを活かし、生物多様性の回復に貢献する製品・サービスを開発していく、そういった事業全体の変革を進めていく必要があります。
これは、簡単ではないお題ですが、アクセンチュアはイノベーションを起こす可能性がある重要な契機として捉え、企業と共に挑みたいと思っています。難題でありますが、生物多様性の重要性を考えると、挑む価値のある挑戦でしょう(図2)。
図2:企業が果たすべき責任と事業機会の関係